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【されされ】〜超ポジ清純ヒロインな和栞さんにしれーっと、美少女に夢を見ない俺の青春が、癒されラブコメにされた件〜  作者: 懸垂(まな板)
第二章「二人だけの勉強会」

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第三十二話「うたた寝監視係さんから昇格です!」

 

 和栞は誤解を解けた伊織を見ながら、何やら考えている様子だった。

 いつもより真剣な顔で、先ほどの勉強の時に見せていた顔に変わっている。


「どうした?」


 和栞が静寂を生みながら、ふと口からこぼれてきたのは、たわいも無い所感だった。


「伊織君と勉強すると集中できるなと思って」

「俺は何もしてないよ?」


 真面目に取り組めた要因を頭の中で整理する和栞。


 こちらとしてもただ目の前に座っていつも通り、自学に取り組んでいるだけ。

 伊織は和栞に直接「何かをしてあげた」ということもなかった。



「監視の目があったからですかね?」

「監視なんてされてなくても、月待さんなら自分でできてるんだし、心配いらないでしょ」


「私も人間ですよ。時々、誘惑に負けて脱線してしまって後悔することもありますので」

「なら、この勉強会も意味のあるものになって良かったね」


「そうですね」


 さらに沈黙の中で考えていた彼女は、引っ掛かりが解けたのか、改まってこちらを見ている。


「あの、伊織君」

「どうした?」

「その、言い出しにくいのですが……」



 彼女はその先の言葉に詰まりがあるようだったが、こちらに視線を真っすぐに向ける。



「私の家で良かったら、こうやっていつでもいいので、勉強したり、たまには遊びに来てくださいませんか?」


 和栞からまた提案が発せられた。


「嬉しいお言葉として受け取るけど、それは女性としては色々まずいんじゃないかと、さっきお伝えしたばかりなんだが……」


 先ほど、伊織自身の口から異性を安易に部屋に招き入れるなといった忠告をしたはずだった。

 今の彼女の提案を聞く限りでは、こちらからの心配を余所に、無垢な気持ちで提案を持ち掛けてきているらしい。


「その通りではあるのですが、緊張感をもって自分を律することができたので、そのお手伝いをしていただきたいと言いますか……」


「何もそこまで根詰めて頑張らなくてもいいんじゃない?」


 こんなに自主的に勉学に取り組めるような学生で世の中溢れているのであれば、大人たちの苦労もないだろうにと思いながら伊織は何やら裏のありそうな和栞の顔を眺めていた。



「成績の維持も今の生活には大切なことなので……」


 和栞の表情がさらに柔らかさを追い出して、真剣な物言いに変わっていった。


「何かに追われてる?」


 自分の葛藤を表に出すことがそう多くない和栞の顔が、今の伊織にはとても珍しいものに見えた。


 彼女なりに何か考えがあって、こちらに頼みを持ちかけてきたと伝わってきたので、こちらから御託を並べる前に、彼女の考えを聞く必要がある。


「まだ両親には伝えていないのですが、今の私の目標は学費免除の”特待生待遇”を受けたいのです。親に甘えている状況が続いているので」


 和栞の口から出てきたことは意外な目標だった。



「たしか、考査の成績上位であれば来期の学費が免除になるっていうあれ?」


 伊織たちの通う私立高校には学力の優秀な生徒に対して、学校側から授業料免除の推薦を受けることができる制度がある。


 和栞はどうやらその対象者になれるようにと勉学に勤しんでいる様子だった。


「そうです。本当にそのような待遇を受けられる成績を取れるのか不安がありますが、自分のやれることはやっておきたくて……。この連休明けの中間考査は、準備を真剣に取り組みたいのです」


 彼女は日々の鍛錬を怠っている様子も見えないし、自分とは違って常に目標を置き、それに向かって努力を続けることができる人間だということが伝わってくる。



「なるほどなぁ」


 ただただ、伊織は和栞に対して感服した。



「無理にとはいいませんし、迷惑であれば断っていただいて構いません。でも、いざ男の子と二人っきりで勉強していると、この緊張感が学習には丁度いいような気がします」


「男子が聞いたら舞い上がってしまいそうな言葉だな」



 なぜここで異性と勉強することに意味があるのだろうかと不思議に思う伊織だった。


 だが、先ほどの千夏との勉強の様子を聞かされるに、女子同士で気軽な勉強会と銘打ってしまうと、緊張感など皆無の光景が想像できて、変な納得ができてしまう。


 おそらく、彼女の求めるものは「勉強に適した環境」なのだろう。



 しかし、目の前にいる美少女がクラスで一番と言っても過言ではない容姿なのだから、やはり簡単に同意していいものなのかと、こちらが心配になってくる伊織だった。


 見目麗しい少女との二人っきりでの勉強など、降って湧いた幸運と捉えるにはあまりにも言葉足らずな気がしてきて、先ほど彼女が寄せてきた「信用」という言葉の意味を考えてしまう。


「伊織君は、こちらに危害を加えるような方には見えませんので舞い上がりはないでしょう? 他の男の子に比べて安心感があります」



 確かに自分から悪戯をするような気概も持ち合わせてはいない伊織なのだが、和栞の言葉には、引っ掛かりがあったので、顔が少しばかり歪んでしまう。



「それは聞き捨てならないな? もしかして舐められているのでは……?」

「誉めているんですよ」


 彼女は笑みを交えながら続ける。


「これで邪険に扱っていたら、失礼にもほどがあります。私は伊織君のことを紳士的な方だと思っていますよ?」


「紳士じゃなくなったらどうするんだ? 今、月待さんがまたとんでもないことをさらっと言ってるのを心配してる」


 自分も男だから、理性を制御できない瞬間だってあるのではないかと思った伊織だった。


「伊織君とは指切りで、襲われない約束しました」


 和栞の口から出てくる言葉の数々に惑わされていた伊織であったが、先ほど和栞と交わした約束を思い出しながら、我に返る。


「確かに。外堀から埋められている状態だ。ぐうの音も出ない」

「もちろん、そちらに迷惑が掛からなければという前提です。どうでしょうか?」



 こちらの緊張が解ける約束に変わりなかったのだが、暗に彼女自身が身を守るために取り付けた約束であることに今になって気が付く。


 その策の抜かりなさに、やはり和栞との交渉には不利な点を感じてしまう伊織だった。


「うーん」

「うたた寝監視係さんの次は、私専属の勉強監視係さんです。さっそく仕事のできる伊織くんは昇格です。でも、本当に伊織君が迷惑でなければ……ですよ?」


 彼女にも、迷惑でなければという言葉が出てくるくらいにこちらの様子を気遣ってくれているらしい。


 信用を得て、人畜無害な自分だったからこそ、頼ってくれているのが伝わってきた彼女の物言いだった。こちらとしても断る道理も一瞬では見つからない。


「俺でよければ、その勉強に付き合うけれども」

「本当ですか? 嬉しいです!」


 胸をなでおろし緩んだ笑顔を向ける和栞だった。


「頻度はどのくらいにするつもりか、ここであらかじめ話し合っておきたいと思う」

「勉強会の頻度ですね」


「そうだな」

「そうですね……私は毎日でもお願いしたいのですが?」


「毎日なの?」

「欲を言ってしまえばそのようになります。でも、流石に迷惑をおかけしてしまうと思いますので、伊織君が決めてくださいませんか?」


「相当に本気なのが伝わってくる」

「毎日とはいっても、流石に土日は休息も入れて無理なく続けたいなと思います。日曜日は前にお話しした通り、私は実家に帰るので、平日の放課後、数時間が理想ですね」


「じゃあ、気が向いたら連絡してくれ」

「いつ呼び出ししても?」


「うん。場所が変わるくらいで、何ら不自由しないし」

「雨の日でも、風の日でも?」


「台風だってなんだってこい」

「ありがとうございます。お願いしてみて良かったです!」




「ただ……二つ条件がある」

「条件?」


「一つ目は、今日からは当分、恨みっこなしのライバル関係だということ」

「ライバル……ですか?」


「そうだな。やるからにはこっちも本気でやることにした。その点、俺も、たった今、学費免除を取りに行くことにする」

「それは、強敵ですね……」


「俺に負けてるようじゃ話にならない。(しかばね)を超えていけってやつ」

「たまに変なこと言い出しますよね、伊織君」


「我が国で学べる最強の合言葉だ。覚えておけよ~。あと、強敵(きょうてき)って言ってたが、読み方はトモってのが習わしだ」

「肝に銘じておきます」


 左手の手のひらに右手の人差し指を筆記具に見立て、メモを取るような素振りを見せる和栞は、新しい合言葉を覚えた。


「二つ目は、その……」

「その?」


「こちらも目のやり場に困るので、デコ出しは今日限りにしてください」

「えへへっ?」


 和栞の今の様子と言ったら、家にいるリラックスモ―ド全開と言ったところで、額に覗いている生え際の産毛が無防備な印象を与えてくる。

 

 伊織には刺激が強かった。


「困っちゃいますか?」


 額に手を当てて、挑発的に意見を求めてくる辺り、和栞の愛嬌が光っている。


「俺も男なので、美少女の見慣れない変化には戸惑いを感じてしまいます」

「あらあら、戸惑わせてしまっているのですか?」


「そういう言葉は、安易に男に向けないこと。襲うぞ」

「すみません」



 えへへと舌を出してお茶を濁している和栞を見て、多分この忠告は伝わってないのだろうなと思う伊織だった。



「でも、楽なんですよねこの格好。髪を上げてないと、勉強中に頬に髪が当たってこそばゆいですし。家にいると髪を束ねる気にもなれないので」


 自分の髪を丁寧に透き、触っている和栞を見て、長髪の扱いはこちらが考えてもない気苦労があることが伺えた。


「そうであれば、これならどうでしょうか?」



 和栞はカチューシャを額から抜く――

 すると、それまで綺麗に束ねられていた髪がふわりと舞い、絹のような黒髪が上から下へ落ちる。



 丁寧に前髪を整えた和栞は、前髪を残して再度、額にカチューシャを付け直した。


 その光景たるや、伊織の目を奪ってしまうに容易かった。

 漆黒の長髪は見境なく全てを吸い込んでしまいそうな魔力がある。

 やましい意図などないのだが、思いがけず触れてしまいたくなる美しくて繊細な毛並みだ。




 見てはいけなかったような気がして、伊織は思わずたじろいでしまった。


「大分落ち着きを取り戻してはいるが、そういうところだぞ?」

「どういうところですか」


「なんていうか……猫みたいな?」

「愛でたくなっちゃうのですね?」


 自分のことを可愛いと認めていることには素直に評価できるが、それにしても自分でさらりと言ってのける辺り、やはり美女の感性は理解できない。


「自分で言ってて恥ずかしくないのか?」

「そういう羞恥心はお母さんのお腹の中に忘れてきました!」


「是非とも取りに帰っていただきたい所存だな。それに自分のことを可愛い動物だと認めてしまうことになるぞ?」


「前に、容姿に関するお褒めの言葉は甘んじて受け入れると言いませんでしたか? それとも、嘘ついて謙遜してまで、認めないような、おしとやかなほうが伊織君は好みでしたか?」

「いや、そこまで言えるなら、逆に清々しくていいと思います」

「そうでしょうとも。伊織君も私の事を愛でていただいてもいいのですよ?」



 これは言葉の意味に従うべきではないと本能で察する。



「どうやって愛でを表現するのか知ってるのか?」

「わしゃわしゃからのなでなで、もふもふです」


「美少女、ちょっとそれ以上は余計なことを言う前にお口にチャックが必要だぞ?」

「埒が明かないので今はその言葉に従っておくことにします」


「そうしてくれとも……」



 暴走しかけた美少女は、自身の艶やかな唇を人差し指と親指でなぞりを入れながら、目じりを緩ませ伊織を見つめるのだった――


お読みいただきありがとうございました。

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次回更新は8/19 8:00頃を予定しています。

次回更新後、第二章サブタイトル付きます。よろしくお願いいたします。


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