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【されされ】〜超ポジ清純ヒロインな和栞さんにしれーっと、美少女に夢を見ない俺の青春が、癒されラブコメにされた件〜  作者: 懸垂(まな板)
第二章「二人だけの勉強会」

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第三十一話「和栞の新しい発見と伊織の杞憂」

 

 伊織はやるときはやる男である。

 特に勉学に関しては誰からの指図を受けることもなく、自主的に取り組む姿勢が身についているので、今の状況もなんら不思議なことではない。


 いつもと違う点と言えば、ノートにせかせかとペンを走らせている音が、目の前にもう一つあるということだ。


 和栞の方に視線を向けると、姿勢を良くして、真剣な表情で問題に向き合っている姿を見ることができた。


 いつも人と話すときは表情を豊かに変えて、温かみのある笑顔を向けてくれる彼女だ。


 和栞の笑顔にはあどけなさが残っており、可愛らしく笑う姿が大半なので、今のような大人びた気品のある真剣な表情を見られる機会はあまりない。


 そもそも、和栞と正面で向かい合わせになるような形で、勉強することは放課後に司や千夏たちと行ったプチ勉強会以来で久しい。前回の時は和栞は千夏と一緒に司に問題を教えてもらっていたので、黙って問題を解いているような状況ではなかったが。


 和栞の面持ちには、伊織の心にも訴えかけてくるものがあった。


 茶化したりするとこの顔も消え、柔らかな表情に戻るのだろうが、邪魔するわけにもいかない。それではこの勉強会も本末転倒だ。


 こちらとしても負けてられないと気合を入れなおして、問題に取り組んでいく伊織だった。



◇◆◇◆



 部屋には秒針がカチカチと音を立てる時間が続く。


 伊織は今日の学習にと考えていた復習範囲を概ね終えることができた。


 身体の凝りも出てきたので、背伸びを入れながら「ふう」と深呼吸をする。


 和栞も伊織のその姿に視線を向けた。


「ごめん。邪魔した」

「いえ。私も丁度、キリのいいところだったので気にしないでください」


 時計を見ると、既に開始から一時間半というところだったので、長い時間集中して取り組めていたことに素直に関心する。


「もう少し時間がかかるものだと思っていましたが、すんなり解き終えてしまいました」


 どうやら彼女も一息つけるまで勉強が進んだらしい。


「集中できてたもんな」

「そうですね、非常に有意義な時間でした」


「真剣に解いている顔見るのが新鮮だったよ」

「私を観察する暇があるなら、もう一問でも多く取り組むべきです」


「心配ご無用だな。こっちも終わったから」

「それなら良いのですが」



 和栞は身体をほぐすようにストレッチをしながら立ち上がって、部屋の空気の入れ替えのために、陽がさす窓の方に向かうと、丁寧に窓を開ける。



「伊織君と勉強するとこんな感じになるんですね。新発見です」


「ただ黙々と問題を解いてるだけなんだから、誰とやってもさほど変わらないでしょうに」


「いえ、一緒に勉強する人によって雰囲気は大きく変わりますよ」


 背伸びをした彼女が窓辺からこちらに向き直る。


 和栞は軽いストレッチを続けながらあまりに穏やかな声色で問いかけてくるものだから、伊織はその様子を見るなり思わず和栞から目線を逸らしてしまう。


 先ほどの「男を家に招いている」という忠告を忘れないでほしい……というなんとも居心地の悪い気分になった。




(俺が意識しすぎなだけなのか?)


 そんなことが頭を過ったのだが、今は彼女の言葉の続きを聞いてみることにした。




「例えばどんな違いがあるの?」

「そうですね。私が唯依さんと放課後一緒に勉強した時は、和気あいあいとできましたかね」


「ごめんな。和気あいあい出来なくて」

「そういう優劣をつける意図で言った訳ではありません!」


 和栞は顔の前で手を振り、否定を表している。


「唯依さんがわからないところをこちらが教えたり、問題を出し合ったりしていました。確かに黙々と解き続けるといった様子ではないでしょうが、それもこれも、大変充実していましたし、人によって雰囲気は違うんだなぁと思ったんですよ」


「確かに、俺らはお互い教え合うといったこともあまりないからな。様子が違って当然っちゃ当然だな」


「ですね。それに今回はちょっとした緊張感もあったので、集中出来ました」

「邪魔しないようにはしてたけど?」


「ありがとうございます。唯依さん、放っておくといたずらっ子になるので、可愛いんですよ?」

「そういうところは昔から千夏さんも変わってないからなあ」


「流石に二の腕を摘ままれたり、頬をふにふにされるのは勉強に集中できないので、叱っておきましたが……」

「おもちゃにされてるな」


「抱きつかれてしまうのは諦めましたね。でも、柔らかくて気持ちいいですし、いい匂いがします」

「君らが同性で良かったよ。ホント」



 思い出してはふふっと笑っている和栞は、千夏との様子を筒抜けにしてくるが、想像するに微笑ましい様子が伝わってくるので、伊織も頬に緩みが出る。



「私、お友達と遊んだり、一緒の範囲を勉強することも少なかったので、最近は毎日が新しい発見ばかりです」

「そうなのか? 友達が多そうなイメージあるけど」

「そう感じていただけるのであれば嬉しいですね」



 和栞は一息つくなり、ソファに身体を埋めると、猫のぬいぐるみを撫でながら伊織の疑問を解くように話を続けた。



「実は病弱だったんですよ、私。なのでお友達と遊びに出たり、勉強したりといった思い出は多分、少ないほうです」


 いつも表情の明るい彼女は記憶を遡るように、こちらが考えもしなかった過去をさらっと伝えてきた。




(病弱? 月待さんが?)




 伊織は、今の和栞からは想像できないと思ったが、次の言葉が用意できないで黙り込んでしまっていた。そんな伊織の顔を遠くから見るなり、和栞は焦りだしてしまう。



「言葉足らずで、すみませんでした。中学二年生で入院してて! 中学三年ではもうみんな受験モードだったので! なので最近、唯依さんや伊織君とも仲良くさせていただいて嬉しいです。もうこの通り元気ぴんぴんなので、安心してくださいね」


 謝罪を伝えてくる彼女の今の様子を見ても、病気で床に()せっていたような気配を感じさせない元気な様子を見せてくれる。現実味がない。


 ピンピンと表現したあたり、いつもの前向きで明るい彼女がそこにいた。


「元気で何よりなんだが、本当に今は大丈夫で、嘘はないんだな?」

「口から出た言葉を信用してください」


「わかった」

「ありがとうございます」



 先ほどまで、語弊を与えてしまったのではないかと、若干の心配を滲ませていた和栞も、伊織の理解が得られたことに安堵し、表情が柔らかくなった。



「前に、一人暮らしを親に許してもらった交渉の話をしましたね?」

「そういえば、病気をしないこと……って言っていたな」


「そうです。私は病気しちゃうとこの一人暮らしの存続も危ういので、何よりも一番気を遣って体調の維持に努めています。なのでこの通り、元気ぴんぴんな私でいる必要があるのですよ」


「なるほどな」


「なので心配はご無用ですからね」

「なら、こちらも気が付かないくらいだから大丈夫だと思うよ?」

「はい。その言葉を励みにこれからも元気でいることにします」



 心なしか、彼女の表情がいつもより晴れやかに澄んだような気がした。

 励みにと言った言葉に嘘偽りなく、姿勢を正し、穏やかな微笑みとをこちらに向けてくる。

 勝手に感じてしまった不安も杞憂にしたいなと思うくらいに――




(悪い想像だったかな…)




 少しばかり、映画やドラマのフィクションの一部にいたような感覚を恥じてしまうくらいに、和栞の現在の佇まいに安心を覚え、そっと伊織は一人で胸をなでおろした。



お読みいただきありがとうございました!

応援をかねて、ポイント評価をお願いします。


今回より、新章がスタートしました!8:00に更新できず、すみません。

次話更新は8/18 8:00頃です。よろしくお願いいたします!

章立ては3話程度、先を予定しています。

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