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【されされ】〜超ポジ清純ヒロインな和栞さんにしれーっと、美少女に夢を見ない俺の青春が、癒されラブコメにされた件〜  作者: 懸垂(まな板)
第一章「出会いと二つの契り」

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第十一話「忠告は届きませんでした」

 

 四月、第三週を迎えた。


 今日の伊織には月待和栞(つきまち のどか)とちょっとした約束がある。


 待ち合わせは、昨晩のやり取りから、昼ご飯を食べた後。いつもの公園の高台で、午後一時ということだった。


 早めに起床した伊織にはまだ十分な時間がある。


 伊織は自室である二階からリビングに降りると、インスタントコーヒーを入れるために電気ケトルに水を溜め、スイッチをいれた。

 

 親から以前「一口飲んでみる?」と、コーヒーを勧められた時から、鼻に抜ける深みのある苦さが朝の覚醒を促すには心地よく、お気に入り。

 更に続けて「成分に含まれるカフェインは、集中力を高める作用もあるんだよ」と、嘘か本当かわからない親からの受け売りを真に受けて、自宅学習の際も愛用するうちに、苦みでさえも楽しめる味覚になった。


 電気ケトルが仕事をしている間に、洗面を済ませる。


 沸きたてのお湯でコーヒーを()れると、ソファに深く腰掛けた。


 両親は共働きなうえ不定休ということもあり、毎週一人で、静かな室内に外からの鳥の(さえず)りが漏れ聞こえるという、なんとも優雅な朝から休日が始まる。


 ゆったり起床できる御身分であった自分にとって、司のように休日練習のある部活動に所属してしまうことは、この安らぎのひと時を手放してしまうことになるので、割に合わず、惜しい気持ちだった。


 一見、ダラダラという言葉が似合いそうだったが、テレビの選局を自分好みに合わせ、ローカル番組のオススメランチ特集なるコーナーをぼーっと見ながら、コーヒーを啜ることのできるこの時間は、伊織にとって、休日のかくあるべき姿として正当化できた。


 そもそも、五日間の疲れがたったの二日間でリセットできるわけがない。


 誰にその怠慢を満喫する姿が注意される状況でもないので、自分が良しとする過ごし方で一日を始められるのは幸福の限りだ。



◇◆◇◆



 自分で淹れたコーヒーのコップの底が薄らと現れ始めるころ。


 町も静けさから一転して、車通りも多くなってくる。


 換気をするために、先ほどまでくつろぎをともにしたソファから重い腰を上げ、遮光カーテンをさっと開ける。


 昇り始めたばかりの太陽の光が部屋を照らした。



 住まいの作りは東向きになっている。

 毎朝、日差しによって、自然な寝覚めが呼び起せるよう、父親の自慢のこだわりらしい。


 どうしてもマイホームを持つ頃に外せなかった父親のその思いは、血は争えないのか、今の自分には気持ちがよくわかる。


 部屋の間取り。

 両親がこだわりを随所にちりばめた設計。


 母親の要望を反映した広めのキッチンを備え、カウンターテーブルの隅には、季節折々に挿される花こそ変わるが、両親が付き合いたての頃に旅先で購入したという美しいガラス細工の花瓶が置かれている。


 今は、母曰く、「可愛いお花見つけちゃった」と先日言って、飾られた花がいた。


 フリージアと名前の付いたその品種の花は、甘い香りを放つ黄色の一輪二花とそのつぼみたちが寄り添うように咲いている。


 両親が結婚して自分の年齢と相当ほどの月日が経つが、夫婦仲はいわゆるラブラブ……を更に通り越した見ているこちらが恥ずかしくなる。


 二人でキッチンに立って食事の準備をしたり、団欒(だんらん)の夫婦定位置は横同士と、おしどり夫婦の言葉を欲しいままにしていた。


 その様子をたまに明け透けなくこちらに向けてくるものだから、こっちの身にもなってほしい。




 だが、昨今の夫婦事情は話を聞くに、我が家は良好な方、寧ろ良すぎると理解する年齢となった今では、「仲のいいことに越したことは無いよな」と半分諦めを持つようになっていた。



 今日の風は穏やかで、時折カーテンが静かに揺れる程度。



 遠くの方から聞こえる野鳥のさえずり。

 先程より大きく耳に届いて来ている。

 鳥達も起きてきたらしい。清々しい朝だ。


(どうしたものかね)


 伊織はすっきりとした寝覚めの中、本日の街案内に際し、ぼんやりと道順を想像しながら、すっかり温くなったコーヒーを喉元に流し込んだ。



◇◆◇◆



 軽めの昼食を取った後で、伊織は身支度を済ませる。


 今日は街を歩きまわることが確定しているので、なるべく動きやすい恰好を意識。

 自宅各所の戸締りを済ませ、家を出た。


 家の中とは違い、日差しが温めた外気が、心地良く肌に触れてくる。「もう半袖でもいいくらいかな」と湧き上がる独り言とともに鍵を閉め、待ち合わせ場所に向かい足を踏み出した。




 伊織の実家から二十分程度の位置に、待ち合わせの公園がある。



 生活圏には道中に生活を脅かされたり、安眠を阻害されるような騒々しさはない。閑静な住宅街を進み、町の大通りに出ると交通量や人通りは多くなった。


 この大通りは秋には車両通行止めの歩行者天国となり、地域を挙げて繁栄を願う祭事が執り行われる。道の両端には出店が立ち並び、町の人間の秋の風物詩として賑わいを見せる。

 そんな様子を伊織は幼少の頃から見てきた。


 そこからさらに数分歩いた緩やかな登りの途中。

 待ち合わせの公園は現れる。


 入り口を潜った伊織は最近の休日の散歩コースと化した遊歩道を抜け、目の前に現れた高台へと続く階段を上る決心をした。


 以前まで、身体は疲労感との戦いを強いられていたが、慣れが出てきたのか、今となっては心身も順応し、ただ無心で頂上を目指すことができていた。



 運動に丁度良いと始めた高台通いであったが、身体機能に一定の効果をもたらしているようだ。



 あと数段で頂上と言うところ。

 目前には新たな広場へ続く道が視界に入る。



 今日もこんな物好きしか立ち寄らなさそうな場所にわざわざ足を運ぶ人間など、辺りにはいない様子。


 高台へ続く緩やかな上りの道を進んだところ。


 


 待ち合わせ相手であろう身体が長椅子に軽くもたれているのに気が付いた。



 彼女の背後からゆらりと前方に回り込むが(うつむ)いたその少女に一つの反応もない。


 どうやら先週、こちらから当人に向かって投げ掛けた、身の案じは彼女の心に響かなかったらしい。


 


 その少女。

 和栞がまたもやこちらに意識が向かないままに、深い呼吸を繰り返している。



 この子は本当にすぐに眠るようだ。



 華奢な身体にはあの階段が(こた)えるのか、単純にお気楽能天気なのか。


 案外、内面は図太い性格の持ち主なのかもしれないが、外見は(はかな)げで、そのギャップに脳内の思考回路はうまく繋がらない。


 彼女の警戒心の無さはこちらが呆れてしまうほど。

 

 そんな心配を露とも知らず、目の前の美少女は穏やかな微笑み顔で、日に照らされていた。



お読みいただきありがとうございます。

二人の交流が次回より加速!

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