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【日間ランクイン&2万PVありがとう】『されされ』〜超ポジ清純ヒロインな和栞さんにしれーっと、美少女に夢を見ない俺の青春が、癒されラブコメ化された件〜  作者: 懸垂(まな板)
第四章「恋人はじめました」

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第百九話「至福の寝起き」

ゲリラ更新です!٩( ''ω'' )و


――夢見心地の頬の感触。


 ふわりと温かな彼女の加護に包まれて、寝覚めが思いのほか良かった。

 ふと現実に連れ帰してくれたのは、幸せな記憶に結びつく、彼女の甘い香り――


 彼女の膝でうっとりし、彼女にあやされるように朦朧と、意識が遠のいたことは覚えている。

 そして、まだこの夢は覚めてないのではないだろうか。


 伊織は現実感の薄い中、ゆっくりと自分の置かれた状況を整理する。


 そういえば和栞さんは「気が済んだら」起こしてくれるという声を掛けてくれていたが、自ら覚醒したのでまだその時は訪れていないのだろうか。

 そんな言い訳にも似た気分で柔らかな彼女の脚に乗る頭をそろりそろりと傾けて上の方、彼女を見る。


 右手は自分の頭に添えてくれたまま、ソファの背にもたれて眠っている彼女の美しい顔が見えた。

 スースーと音も立てずに眠っている和栞さんは起きる様子がまったくない。


 このままこの至福の枕に身を委ねていたいが、白く透き通るような肌の女の子の脚だ。

 二度寝を支えてもらうにしても、とても頼りになるものだとは思えなかった。


 ただ、些細な心の棘のようなものはいつの間にか綺麗さっぱり自分の中から抜け落ちていることに気がつく。精神的な充足感には申し分がなかったのだ。恐るべし、彼女の膝枕――


 伊織はゆっくりと和栞を起こしてしまわないように起き上がる。


 はてさて、眠りについている和栞さんはその質が良いようで、瞼をピクリとも動かさない。


 先ほどまで沈んでいた腿に視線をやると、新雪に浮かび上がっているのはジワリと赤く広がる自分の甘えた眠りの跡――やはり少なからず彼女の脚に負担を掛けていたようで充血が進んでいた。


「……和栞さん?」


 伊織は和栞の肩を揺らして、彼女の目覚めを促す。


「んっ……。……いおりくぅ……ん?」


 彼女の瞼はとろんとして、まだ起きたくないと主張している。


「もうちょっと寝てる?」


「うん……。もうちょっとだけぇ……」


 和栞さんは寝起きには拍車がかかって無防備になることを知っている。

 伊達にうたた寝監視係をしてきたわけでは無い。


 特に急ぐ予定はないし、このまま彼女を寝かせてあげようと思った。


「おいで? ……こっち」


 伊織は膝を鳴らして、枕を示す。


「……うん」


 そういうと和栞さんはこちらに一瞥もしないまま、遠慮なしで倒れ込んでくる。

 何かこう、受け止められることを前提として、身を投げ出したような倒れ方だった。


 無意識に寝心地の良い場所へ頬は落ち着いて、綺麗な寝顔とともに、夢の世界へ逃げ帰っていく。


 和栞さんの気持ち良さそうな寝顔を眺める。なんて安らかな顔なんだろうか。


 安眠を阻害しないように、テーブルの上に置いていた青色のタンブラーを手に取り、すっかり常温に落ち着いた残り少ないコーヒーを舌の上で転がした。

 

◇◆◇◆


 膝枕を交代して五分後――


 ゆっくりと目を開けた和栞さん。

 じっと、伊織を穏やかな顔で見つめた和栞は、満足そうに言う――


「……おはよっ」

「もう夕方だけど?」

「前にも……こんなやり取りしたねっ」


 くすくすと身体を震わせて、眠り姫は笑いだす。


「あの時は昼だったけどねぇ……」


 伊織の言葉を聞いた和栞は笑い声を強めた。


「ふふふっ。思い出たーくさん、ですっ」


 頭が冴えてきたのか、いつもの可愛らしい視線が戻ってきた。


「充分イチャイチャできました? お姫様?」


「わたしがお姫様なら……長い長い眠りから起こすときの儀式が必要ですねぇ……?」


「ん?」


 伊織は和栞の言葉に疑問を示す。


「毒リンゴで眠ったお姫様を助けるとき……王子さまはどうするんでしたっけ?」


 和栞さんはわざとらしく頬に人差し指を添えてとぼけているような顔で言う。


 これは彼女に弄ばれている。

 そう思った伊織は、このまま引き下がっておくわけにもいかないので、不敵な笑みを浮かべ、顔の前で両手の指を小刻みに動かして――


「悪い子にはお仕置きが必要なようで……」


 そのまま、無防備に身体を預けていた和栞の身体を擽る。


「きゃっ!! ちょっと!!! くすぐったいですってっ、あははっ!! ご、ごめんなさいっ!! ゆるしてっ!!」


 和栞さんが余裕なく、身体をくねらせながら膝の上から逃げていく。


「仕掛けていいのは、自分が仕掛けられる覚悟を持った時だけだよ?」


「伊織くんは覚えていてくれてないの?」


「んっ?」

「わたしはいつだってキスで起こされたっていいよ? でも、わたしのは……覚えてくれてないの?」


 彼女はそういうと、右の頬を「ツンツン」とつついてくる。


「ん?」


 伊織は左頬に手を添えて和栞に「こっちでは?」と視線を向ける。

 すると和栞さんはふるふると首を振って、再度、右頬をつんつんと突いてくる。


 まだ付き合う前――

 駅で不意にキスされたのは左頬だったはず……。


(いつだ……? まさか……今? 寝ていた隙に……?)


「どんな悪戯したのか、言ってごらんなさい」

「ひ~みつっ」


 ふふっと笑って、ウインク。

 人差し指を立て、同時に小指も立てて、「しーっ」と顔の前でジェスチャーしながら逃げていく和栞さんを見る。


 秘密なら仕方ないかぁ……と問い詰めはしないのだけれども……。

 今のは冗談なのか、本気なのか。全く身に覚えがない。


(結構、積極的な人なんだなぁ……)



 少し恥ずかしく思った伊織だった。


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