最後の噂
−−朝だ。
今日は朝から昼過ぎまで、商業施設に入っているコスメ店のバイトだ。
横を見るとまだ同居人は寝ている。
相変わらず呑気なやつだ。
バイトが終わったら、この施設のフードコートで一緒に昼ご飯を食べる約束をしていた。
冷蔵庫のスムージーを飲み干し、顔を洗って化粧水を塗る。
いつもの朝だ。
店は正直、暇だった。
明日発売の新商品があるから、什器を組み立ててテスターを並べる。
あとは午後番に引き継ぐだけ。
平日の午前中なんてそんなものだ。
昼過ぎ、バイトが終わってLINEを送ると、同居人はもうフードコートにいるらしい。
待ち合わせ場所に行くと、スマホに夢中になっていた。
「お疲れ。何食べる?」
フードコートを一周して、石焼ハンバーグに決めた。
前から美味しそうな匂いが気になっていた店だ。
注文してアラームを受け取り、席に座る。
すると同居人が言った。
「待ってる間さ、面白い記事見つけた」
嫌な予感がした。
「ここの心霊スポット特集」
「ここって、この施設?」
「そう。昔火葬場だったらしい」
ニヤニヤしながら写真を見せてくる。
施設をつなぐ橋。
施設近くの人工湖。
映画館のトイレ。
ゲーセンのプリクラ。
そしてフードコート。
「夜中に清掃員が上半身だけの男を見たんだって」
指で席を指す。
「その席、」
「ここなの?」
「って噂」
正直、気味が悪い。
「あともう一つあってさ、さっきそこの写真撮ってきたやつで…」
画面をスライドする。
通路の写真。
「やめてよ。もういい」
その瞬間。
ビービービー。
アラームが鳴った。
ハンバーグが出来たらしい。
それで同居人の怪談話は終わった。
ハンバーグは美味しかった。
本当に美味しかった。
あの話さえ聞かなければ、また来るのに。
そう思いながらその日は家へと帰った。
翌日。
私は遅番だった。
新商品が好調で、閉店間際まで接客が続く。
店を出たのは九時半過ぎ。
施設の通路には誰も歩いていない。
駅へ向かって歩いていると−−
後ろから声がした。
「ねぇ」
子どもの声。
「なんで僕のことは聞いてくれないの?」
背中が凍る。
振り返る。
誰もいない。
その瞬間、思い出した。
同居人が最後に見せようとしていた写真。
通路の写真。
ここだったのだ。
私は走った。
家に帰ると同居人が言った。
「おかえり」
息を整えながら言う。
「昨日のやつ……最後の話」
「ああ、あそこの通路?」
スマホを操作する。
「男の子に話しかけられるけど、振り返ると誰もいないってやつ」
突然声を上げた。
「うぇっ」
「どうしたの」
スマホをこちらに向ける。
昨日撮った通路の写真。
奥に。
白い男の子が、こちらを見て微笑んでいる。
「写ってるじゃん……」
同居人が言う。
「これ、昨日は写ってなかったのに」
そう言って写真を拡大した。
その瞬間。
同居人の手が止まった。
「……あれ?」
「どうしたの」
「これ」
画面を指差す。
「この写真さ」
「なんで」
「撮った覚えのない位置から撮れてるんだ?」




