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天才の放課後

 魔法実技の授業が終わり、グラスとは一度お別れする。本当なら片時も離れたくないのだが、グラスに近づこうとする悪い虫を牽制するための時間は惜しまない。


「じゃ、私はこの後お友達と遊んでくるからまた後でね。夕方には部屋に戻るから~」


「はいはい、よくもまあそんなに友人作れるわよね」


「グラスちゃんは友達少ないよねぇ~。寂しくないのかい?」


 まあグラスが友達を作ろうとするのなら、私が全力で裏から阻止するのだが。グラスが私以外の人間に目を向けるのなんて耐えられない。


「別に寂しくはない。プラナに勝つために友達が必要だって言うなら作るけど」


 やめてくれ。今のグラスに他の人の協力なんて必要ない。毒になるだけだ。


「いやーそんなことはないかな~。うん、グラスちゃんは一人で努力してる方が強くなりそう」


「あなたもそう思うんなら、そうなんでしょうね。だから友人を作る気はない。ちゃんと留守番はしておくから、早く行ってきたら?」


「おっと確かに。このままじゃ待ち合わせに遅れちゃうぜ。じゃあ、また後でね~」


 待ち合わせ場所の王都中央広場まで空を飛んでかっ飛ばす。


 今回の遊び相手は、不躾にも私のグラスに近寄ろうとして私に声をかけてきた連中だ。将を射んとする者は、というやつだろう。グラスに近づくために、まずは私と交流を持っておこうという魂胆が見え見えである。


「お待たせ~。時間ぎりぎりになっちゃった。ごめんね~」


 中央広場にいる男子二人を見つけたので声をかける。さて、どうこやつらをグラスから引き離したものか。


「急に声かけたのに来てくれてありがとう。まさかあの“双姫”が簡単に応じてくれるとは思わなかったけど……」


「憧れの”双姫”だからな……もう一人の方がいないのは寂しいけど」


 あーほら。グラス目当てなのを隠そうともしない。こんな下衆げすに、私のグラスへは近づけさせない。


「ま、グラスちゃんはマジメだからねぇ~。放課後に遊ぶなんて文化を知らないんじゃないかな」


 まあまれに一人で出かけているのだけれど。何度かついていこうとしたが、全部断られた。彼女にも一人の時間は必要なのだろう。


 他にも、グラスが自分の魔法を磨くために、深夜に国のはずれまで行って魔獣狩りをしていることを私は知っている。グラスは隠せていると思っているらしいが、お見通しである。どこまでも、彼女には私のことしか見えていないことが分かって嬉しいものだ。


「でも中間試験の結果が出た後、プラナさんはグラスさんと出かけていたよな? どうやってあのグラスさんのガードを突破したんだ?」


 ああ、気持ち悪い。


 グラスには私のことしか見えていないというのに、こいつらにはそれが分かっていないのか。その程度の理解度で私のグラスに寄ろうとしてくるなんて、本当に愚かな男共だ。


「それは俺も気になるな。あのグラスさんが出かけている時は、絶対にプラナさんもいるからな」


 当たり前だろう。私が目を光らせていないと、いつグラスにバカどもが寄ってくるか分からない。彼女なら一人でもてきとうにあしらうだろうが、私の知らないところでグラスに誰かが寄ってきているという事実が酷く気持ち悪い。


「まあ私はグラスちゃんとは幼馴染だしねぇ。距離感が違うのだよ、距離感が」


「距離感、か……。なあ、どうしたらグラスさんとの距離を縮めることが出来ると思う? 一番のグラスさんの理解者であるプラナさんに聞きたいんだ」


 しつこいな。


 こっちは「お前たちには絶対的に足りないものがある」と言ったんだ。今更グラスへの距離感を縮めようなんて考えられることが恐ろしい。本当に彼らはグラスのことを何も分かっていないのだと実感する。


「距離の縮め方かぁ~。私はずっと昔からの付き合いだから、その辺は分からないや。力になれなくてごめんね」


「そうか……。じゃあさ、グラスさんの好きなものとか何か知らないか? あとは誕生日とか」


 こいつら……。


 これだけ言っても分からない、私の言っている意味を汲み取れていないのなら私のグラスに近づく資格なんてない。もうこの辺りでバッサリと切り捨ててやろう。


「それくらいは自分で考えて欲しいかな~。何でもかんでも私が答えると思ったら大間違いだぜ~? それにさ」




「グラスちゃんは君たちみたいにすぐ誰かを頼る人、好きじゃないと思うな。グラスちゃんがどれだけ自分の力で頑張ってるか、知らないでしょ?」




 あえて口調は変えない。内心は怒りと呆れで満ち溢れているが、それを表には出さない。あくまで普段の私、明るく、距離の遠さを感じさせないように。それでも一定以上の距離には踏み込ませない。だってそこはグラスのための領域だから。


「おっと、もうこんな時間か。そろそろ戻らないとグラスちゃんに怒られちゃうぜ。じゃあ、またね~」


 またね、なんて言ったけれどその「また」はないだろう。呆然としている彼らを見下ろしながら空を飛んで寮に戻る。


 ああ、早くグラスに会いたいな。早くグラスの顔が見たい。あの整った顔が悔しさで歪むところが見たい。あの綺麗な薄い紫の瞳が涙で濡れるところが見たい。あんな気持ち悪い奴らのことなんてさっさと忘れて、グラスのもとへ行こう。


――――――

――――

――


「ただいまー、グラスちゃんは元気かな~?」


「おかえり。私は今日の復習をしていただけだから、元気よ」


 うん。やっぱりグラスの声を聞くと安心する。


 机の上に広げられているのは、びっしりと端から端まで文字で埋まっているノート。私がこうして遊んでいる間にも、努力を怠らないグラスは愛らしい。まるで子犬が狼に勝つための努力をしているようだ。


「私はちょっと疲れちゃったから夕飯まで寝る~。疲れてるから《《何をされても起きない》》かも、ね?」


 嘘だ。グラスだってそんなことは分かっているはず。でも、彼女は絶対に釣られてくる。だって、彼女が私より“上”になれる機会を逃すはずがないのだから。


「……分かった。夕飯の時間になったら、起こすから」


 グラスの目が変わった。誘いに乗ってきた、ということで間違いないだろう。


「じゃあ、おやすみ~」


 そうして、私はベッドに身体を投げ出した。グラスが何をしても、受け入れられるように。



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