天才幼馴染
「今回も満点ですか~、やるねぇ~」
「……どの口が言うのよ」
「私のちっちゃいこのお口が言ってます」
そういうことを言ってるんじゃない……。
ディアスキア王立魔法学園に通う私と幼馴染のプラナ。今は三年生になって最初の中間試験の結果が出たところである。校舎の廊下に貼りだされた試験結果の一番上には、私とプラナの名前がある。
「百点満点を取ってるのに、そ~んな湿気った顔してたら他の人に恨まれちゃうぜ~? グラスちゃ~ん?」
その顔を作った元凶が何を言っているんだ。
確かに私は今回の試験では百点だった。筆記試験も、魔法の実技試験も文句ない出来だったと思う。しかし、そこに至るまでの過程が違いすぎるのだ。
五十歩百歩、なんて言葉がある。私が百歩分の努力だとしたら、彼女は五十歩の努力で私を追い抜いてしまう。
それがどうしても悔しくて、私はずっと彼女を追い越すために努力を続けてきた。
それでも、彼女は常に私の先にいる。私の努力なんて関係なかったかのように、最低限の努力で私に背中を見せつけてくる。
「あの二人、今回も満点か……やっぱり凄いな」
「天才って実在するんだね……あの二人には追い付ける気がしないや」
「入学してからずっと同率一位だよね、あの二人。それも毎回満点で……」
「“双姫”は違うな……あの二人にしか見えない世界があるんだろう」
他の生徒のそんな声が聞こえてくる。
彼らには私とプラナが同じ天才であるように見えているらしい。私の百点と、彼女の百点の間にある大きな差が見えていないのだろう。
「ほら~、みんなも言ってるよ~? グラスちゃんも“天才”なんだって」
天才、の部分をやたら強調して言ってくるのは嫌がらせだろうか。顔がニヤついているから、これは間違いなく分かって言っているな……。
「私が天才なんかじゃないってことは、あんたが一番分かってるでしょ。私は寮に戻る」
このままずっと彼女に後れを取り続けるのは嫌だ。同じ百点でも、彼女を超えなくては意味がない。現に、魔法の実技試験で行われた模擬戦で私は彼女に負けている。
試験という体なので勝敗は点数に影響しない。だが、そこで測定された私の魔法の速度や精度は彼女よりも劣っていた。満点の基準こそクリアしているが、私と彼女の間には明確な差があったと言っていいだろう。
「試験明けくらい私と遊ぼうぜ~、グラスちゃんよ~。幼馴染であり、親友でもあるのが私たちだろ~?」
「……はぁ。あんたと一緒に遊べば、どうすれば超えられるか分かるのかしら……」
「おっ? なんだ~? 嫉妬か~? 可愛いねぇ~グラスちゃんは」
頭をわしゃわしゃと撫でてくる幼馴染。この余裕ぶっこいてる幼馴染をいつか超えてやりたい。私の背中を追わせる側にしてやりたい。彼女の傍に立つに相応しい人間でありたい。それが、幼い頃からずっと抱えてきた私の感情。
「ほらほら~。早く返事しないと、その整った長い銀髪が崩れちゃうよ~? いいのか~?」
「分かった、分かったからやめて。で、どこに行くの?」
「お、やっと釣れた。どこに行くかなんて決めてないし、王都を散歩しながら考えよ」
誘っておいてノープランか……。そんなことだろうとは思っていたけれど、いざ本当にそうだと溜め息を吐きたくなる。
「分かったわよ。じゃあ、行きましょ」
憎たらしい幼馴染の手を引く。嫉妬と羨望と友情、その全てが混ざった複雑な感情が私の心を満たしている。
ただただ憎たらしいだけではないのが、本当に厄介だ。なんだかんだで私は彼女のことを大切な親友だと思っているし、憧れの人でもある。
「やだ、グラスちゃんったら強引……」
「ふざけたこと言ってんじゃないわよ……」
「大丈夫。強引なグラスちゃんも、私は愛してるぜ」
バチーン、なんて効果音が鳴りそうなウインクを決める幼馴染。
カッコつけてんじゃないわよ、とか色々ツッコミたいところだがこれ以上やると遊びに行く前に私の体力がもたなさそうだ。
そうして、後ろでボケ続ける幼馴染をスルーして王都まで手を引いて行った。
――――――
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「フフ、普段誰のお誘いも受けないグラスちゃんとデートができるなんて、みんなから恨まれちゃうな~」
「その程度じゃ恨まれないでしょ、何ふざけたこと言ってるのよ」
「おや、グラスちゃんに自覚は無いのかい? 結構人気なんだぜ~? 男子からも女子からも」
初耳なんだけど……。私みたいな、面白みのない女のどこがいいというんだ。全くもって理解できない。
「その鉄面皮なところがいいだとか、自分が笑顔にしてあげたいだとか、そういう人が多いっぽいよ~」
「私、質問してないんだけど。あと普通に恥ずかしいからやめて」
「私は嬉しいよ……大事な幼馴染の魅力に気づいてくれる人がこんなにも増えて……。でもグラスちゃんの一番は譲らないけどね!」
話を聞いてくれ。
というかいつから私の一番はプラナになったんだ。他に一番の候補がいるかと言われれば、いないけれど。
人通りの多い王都の街を歩いていく。どこもかしこも賑やかで、老若男女問わず幅広い人が商売だったり、遊んでいたりしている。今は試験明けということもあって、学生の姿が普段よりも多いだろうか。
久しぶりの王都の景色を眺めていると、後ろから肩をポンポンと叩かれた。
「グラスちゃんや。あそこにある的当てなんてどうだい? 私と一つ勝負といこうじゃないか」
プラナの指をさした方向には、魔法で的を打ち落とすゲームがあった。ランダムな位置に現れる的を打ち落とした回数で、スコアが決まるらしい。魔法を狙った位置に打つ能力と、瞬間的な判断力が試されるいいゲームだ。
「いいわよ。ゲームだからって手を抜くのはナシね。本気の勝負、だから」
「グラスちゃん相手に手を抜く余裕なんてありませーん。じゃ、やろう!」
そうして、私とプラナの的当て対決が幕を開けた。台がちょうど二台空いていたので同時にスタートする。
最初の方は、的の出てくるペースは遅かった。しかし、時間が経つにつれてありとあらゆる場所に的が湧いてきて、全てを打ち落とすことは出来なくなっていった。
最後の方なんて一瞬しか的が湧いてこないのに、それが四方八方に現れるのだからほとんど対処できなかった。
「これ、もはや当てさせる気ないでしょ……!」
それでも諦めずに魔法を打ち続け、数発くらいは命中したことを確認したところでゲームは終了した。スコアは二百点ほど。記載されていた平均点が百三十点ほどだったので、まあ悪くはないだろう。
「いやー思ってたよりも難しかったね~。終盤とか対応できなかったや。それで、点数はどうだった?」
「私は二百点くらい、そっちは?」
「私は二百五十点~! 今日も私の勝ち~!」
また負けた……。
中盤まではほとんど全て打ち落とせていたはずなので、終盤の鬼畜ゾーンで五十点も差をつけられたことになる。あれに対応できているこの幼馴染はなんなんだ。
「で~? 負けず嫌いのグラスちゃんはこのままでいいのかな~? 私よりも“上”に行きたい頃なんじゃないのかな~?」
「……まだ外だから、寮に戻ってから」
「うんうん! そうだよね~。じゃあ、寮に戻ったら、楽しみにしてるよ?」
私が唯一彼女よりも上になれる瞬間。ずっと負け続けていても、勝てる瞬間が一つだけある。寮に戻ったら、徹底的に分からせてやろう。
だって“挑発してきたのはそっち”なのだから。
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