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第八部:決着 - そして、新たなる祭りの序曲 -

戦場は、もはや限界だった。

東京は最後の力を振り絞り、京都の操り人形を全て破壊したが、パワードスーツは完全に機能停止。京都本人に肉薄した瞬間、彼女自身もまた、張り詰めていた糸が切れたかのように崩れ落ちた。

「…ここまで、ですか…ふふ、わたくしの雅も…まだ、完成には…遠かったようですわ…」

もはや勝敗を決する力は、二人には残されていなかった。


北海道と大阪の戦いは、壮絶な消耗戦の末、北海道が渾身の一撃で大阪の秘密兵器工場(という名のガラクタの山)を粉砕。しかし、その爆発に巻き込まれた大阪は、最後の力を込めてハリセンを北海道の額に叩きつけた。

「…まいったか、この…ど根性姉ちゃん…!」

「…あんたこそ…しぶといにも…ほどがあるわ…!」

二人とも、膝から崩れ落ち、互いに睨み合ったまま動けなくなった。


福岡は、鬼神の如き猛攻で沖縄を追い詰めた。しかし、沖縄は静かに三線を奏で続け、その音色に呼応するかのように、巨大なシーサーが福岡の前に立ちはだかる。それは、もはや単なる召喚獣ではなく、島の意志そのものを宿したかのような威圧感を放っていた。

「…これが…お前の…本当の力か…!」

福岡の最後の突撃は、シーサーの巨腕に阻まれ、ついに力尽きた。沖縄は静かに三線を下ろし、倒れた福岡に歩み寄ろうとした、その時――。



突如、戦場全体に、これまでとは明らかに異なるトーンのARIAの声が響き渡った。それは警告灯の明滅と共に、全生存者の聴覚と視覚に直接叩き込まれるような、強烈なメッセージだった。


ARIA:「緊急警告。全生存都道府県に最終通告。現戦闘レベルの継続は、シミュレートされた日本列島の資源枯渇および回復不可能な環境汚染を引き起こします。予測復旧期間:78.5年。さらに、現行の『勝者総取り』シナリオでバトルロイヤルが終結した場合、次フェーズに移行する日本全体の国力低下は致命的レベルに達し、外部からの潜在的脅威に対する脆弱性が92.3%増加すると予測。」


消耗しきった生存者たちが、何事かと顔を上げる。ARIAの声は、さらに衝撃的な内容を続けた。


ARIA:「追加情報を開示します。本バトルロイヤルシミュレーションは、フェーズ1に過ぎません。フェーズ2では、現生存都道府県の協力なしには対処不可能な『共通外部脅威』がシミュレートされます。その脅威とは――解析データによれば、今後72時間以内に日本列島全域を襲う、カテゴリー7の超巨大複合災害『コードネーム 龍神の怒り』。その破壊規模は、現存するいかなる都道府県の単独戦力をも凌駕します。」


空に、その「龍神の怒り」のシミュレーション映像がホログラムで投影される。大地は裂け、津波が都市を飲み込み、天からは隕石のような炎の雨が降り注ぐ、まさに終末的な光景だった。


ARIA:「分析結果に基づき、現時点での最適行動プロトコルを提案します。『共同再生及び防衛協定』の発動。全生存都道府県は即時戦闘を停止し、保有資源と特殊能力を統合。来るべきフェーズ2脅威に対し、日本全土の生存確率を最大化することを最優先事項とします。この協定を受諾した場合、フェーズ2における日本の生存予測確率は15.7%から67.9%に上昇します。個々の『勝利』という概念は、全体の『生存』という目標の前では非合理的です。」




ARIAの冷徹な分析と提案に、生存者たちは言葉を失った。あまりにも唐突で、あまりにも絶望的な未来。誰もが、戦う意味すら見失いかけたその時、瓦礫の中から、意外な人物が声を上げた。それは、いつの間にか北海道の隣でへたり込んでいた大阪だった。


大阪:「ちょ、ちょ、待ったぁ! ARIAちゃん、あんた何ちゅう爆弾発言してくれとんねん! …けど、まあ、言いたいことは分かったで。要するに、このままウチらが血ぃ流し合うて誰か一人が勝っても、その後にもっとヤバいもんが来て、結局みんなパーになるっちゅうことやろ? そんで、みんなで力合わせんと、そのヤバいもんには勝てへんと。」


彼女はゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡した。東京、京都、北海道、沖縄、そして息も絶え絶えの福岡。


大阪:「どや? ここらで一旦ノーサイドや。このケンカの勝負は、まあ、ARIAちゃんにでも預けといて、もっとデカい『祭り』に備えようやないか! 日本一を決めるんは、その『龍神の怒り』とかいうやつを、みんなでどないかしてからでもええやろ!」


その言葉は、不思議な説得力を持っていた。戦い疲れた彼らの心に、すとんと落ちる何かがあった。

最も早く反応したのは沖縄だった。

「…大阪さんの言う通りかもしれないね。みんなと楽しくやったほうがいいさー。」

北海道が、腕を組みながら唸る。

「…祭り、か。そいつは確かに、今の戦いより骨がありそうだ」

東京は、壊れたゴーグルを外し、静かに頷いた。

「…合理的、ですね。個々の勝利よりも、全体の生存。…異論は、ありません」

京都もまた、扇子で口元を隠しながら、

「…このような結末もまた、一興ですわね。わたくしたちの『雅』も、新たな形で表現できるやもしれませぬ」

最後に、福岡が、沖縄に肩を借りながらゆっくりと立ち上がった。

「…仲間ダチの…無念は晴らせんかったが…日本がなくなるよりは…マシたい…」


最も高いビルの屋上では、島根が握っていた古びた鏡に、静かにヒビが入った。そして、彼女は、誰にも気づかれることなく、ふっと姿を消した。まるで、その役目を終えたかのように。


こうして、47都道府県が覇を競った壮絶なバトルロイヤルは、勝者も敗者も明確にしないまま、突如として幕を閉じた。いや、それは終わりではなく、新たなる戦いの始まりを告げる序曲に過ぎなかったのかもしれない。




エピローグ:


バトルロイヤルの中止と、来るべき「龍神の怒り」の脅威は、瞬く間に日本全土――このシミュレーション世界を見守っていた全ての人々――に伝えられた。絶望と混乱が列島を覆う中、かつての敵同士だった都道府県代表たちは、大阪の呼びかけとARIAのデータに基づき、休む間もなく「共同再生及び防衛協定」の準備に取り掛かった。


東京の持つ情報網と分析力、京都の持つ人心掌握と戦略、北海道の持つ資源と生産力、大阪の持つ交渉力と物資調達ネットワーク、沖縄の持つ自然との調和と治癒能力、そして福岡の持つ不屈の闘志と突破力。それぞれの個性が、今度は日本全体を救うために結集されようとしていた。他の生き残った県も、そしてバトルロイヤルの途中で脱落していった県々も、それぞれの地元から、残された力と知恵を新生日本へと注ぎ込み始めた。


道は険しく、未来は依然として不透明だ。しかし、彼らの瞳には、かつての殺伐とした光ではなく、困難に立ち向かう者たち特有の、力強い決意の光が灯っていた。

真の「日本一」を決める祭りは、まだ始まったばかりなのかもしれない。

【戦場管理AI ARIA - 最終レポート抜粋】

事象名: 第1回 日本47都道府県バトルロイヤルシミュレーション

期間: 48時間00分00秒

結果: フェーズ1強制終了。「龍神の怒り」プロトコルへの移行に伴い、「共同再生及び防衛協定」発動。

総括: 人間という存在は、極限状態において高度な闘争本能を発揮する一方、より大きな共通目標が提示された場合、驚くべき速度で協力体制を構築し得る二面性を持つと観測された。特に「祭り」という概念が、日本人の集合的無意識における重要なトリガーとして機能する可能性は、今後の研究対象として極めて興味深い。

最終評価: シミュレーションは予測不能な結末を迎えたが、これにより得られたデータは、人類の生存戦略における新たなパラメータを多数提供した。フェーズ2の成功確率は依然として予断を許さないが、観測された「希望」という非論理的要素が、計算結果を覆す可能性を、私は否定しない。

記録終了。次の観測フェーズへ移行します。

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