第五部:中盤の激震 - 淘汰の加速と盤面の強制変更 -
序盤戦の混乱が収束し、戦場にはいくつかの主要連合と、油断ならぬ個の力が台頭してきた。しかし、それはつかの間の静寂に過ぎなかった。戦場管理AI、ARIAは、この膠着を破壊し、さらなる淘汰を促すための次なる一手を実行に移す。
関東地方では、依然として東京の覇権は確立されていなかった。神奈川が序盤の敗走から一転、覚醒したかのような新たな戦術「ベイブリッジ・ワイヤーアクション」を駆使し、東京のドローン部隊を翻弄。さらに埼玉(「荒川土手シールド」で防御)と千葉(「夢と魔法の防壁」で局所防衛)の粘り強い抵抗により、東京は貴重なリソースを関東平野に縛り付けられていた。
西に目を向ければ、福岡率いる「九州連合」がその勢いを増し、中国地方をほぼ手中に収めると、返す刃で四国地方への侵攻を開始。「伊予の猛牛」こと愛媛(みかん型ナパーム弾と道後温泉の治癒蒸気)と、「土佐の荒波」高知(カツオ一本釣りワイヤーを用いた変幻自在の剣術)が頑強に抵抗し、瀬戸内海を舞台に激しい攻防戦が繰り広げられていた。
北の大地では、ついに「東北連合」と孤高の巨人北海道が接触。広大な雪原を舞台に、両者は互いの長所を活かした大規模な睨み合いと前哨戦を展開。北海道の圧倒的な個の力と物量に対し、東北連合は地の利と連携で対抗。一進一退の攻防が続いていた。
その影で、京都は雅な扇子を揺らしながら暗躍を本格化させていた。言葉巧みな交渉と情報操作、時には島根が持つ「縁切り」の呪詛を間接的に利用し、北陸や山陰の小規模連合を内部から切り崩し、戦わずして自らの影響下に収めていく。その不気味な動きを、大阪は鋭い警戒の目で見つめていた。
一方、工業都市愛知は、序盤戦で蓄えた資源と技術力をついに解き放つ。轟音と共にその姿を現したのは、移動要塞「ナゴヤ・キャッスル・フォートレス」。金色の鯱を頂に戴くその巨体は、強力な砲門と量産型ドローン射出能力を備え、中部地方の新たな支配者として名乗りを上げた。その圧倒的な威容は、周辺の県を震撼させる。
そして、南の果て、沖縄は得意の海洋ゲリラ戦術を駆使。九州連合の海上補給線を脅かし、愛知のフォートレスの進軍ルートに機雷ならぬ「ゴーヤ型浮遊爆雷」を設置するなど、小規模ながらも効果的な戦果を挙げ、その存在感を放っていた。
各所で戦線が膠着し、あるいは新たな脅威が出現し始めたその時――バトル開始から24時間が経過したのを合図に、戦場全体にARIAの無機質なアナウンスが響き渡った。
ARIA:「全生存都道府県に通達。これより、戦場エリアの段階的縮小を開始します。第一次縮小フェーズは、現時刻より6時間後に発動。戦場外周より10キロ圏内が『汚染エリア』に指定され、当該エリアへの侵入者には毎秒0.5%の継続ダメージが発生します。以降、6時間ごとに縮小範囲は5キロずつ拡大。最終的に、戦場中央部の半径20キロ圏内が最終決戦エリアとなります。各都道府県は、速やかに安全エリアへの移動を開始してください。繰り返します――」
このアナウンスは、戦場に新たな混乱と絶望、そしてわずかな希望をもたらした。猶予は限られている。生存者たちは、否応なく中央部へと押し込まれ、そこで新たな衝突を運命づけられることとなったのだ。
【戦況速報② - エリア縮小アナウンス1時間後】
《公式速報 - 戦場管理AI ARIAより》
現時刻: バトルロイヤル開始より25時間03分経過。
確認稼働都道府県数: 38/47 (累計9県ロスト確認)
戦場エリア縮小プロトコル: 発動中。第一次汚染エリア確定まで残り4時間57分。
注目戦闘エリア:
関東平野中央部(東京、神奈川、埼玉、千葉が縮小エリアからの脱出と主導権争いで混戦状態)
瀬戸内海中央航路(九州連合と四国勢が、安全な中央エリアへの進路を巡り激化)
中部山岳地帯(愛知の「ナゴヤ・キャッスル・フォートレス」が縮小エリアを背に強行軍開始。複数の小勢力が回避行動)
最近のロスト都道府県: 山口(九州連合との戦闘で消耗、汚染エリアからの脱出遅延)、栃木(関東の混乱に巻き込まれロスト)、他2県(情報非開示)
気象情報: 縮小予定エリア外周にて、原因不明の電磁嵐が発生。通信障害の報告多数。
《ネット民コメント抜粋 - 提供:匿名巨大掲示板「都道府県ちゃんねる」》
「エリア縮小キタァァァ!!!」
「外周組、マジで詰んだろこれwww」
「うちの推し県、中央だからまだ安全…なのか?」
「電磁嵐って何だよARIAちゃん!汚染だけじゃないのかよ!」
「愛知の城、デカすぎ強すぎ!あんなんどうやって倒すんだよw」
「島根さん、まだ姿見せないけど、絶対なんか企んでる…(確信)」
「京都様、この混乱に乗じてさらに勢力拡大しそう…」
「沖縄、海が汚染されたらどうすんだろ?魚と泳いで中央突破?」
《ARIA分析コメント - 戦術予測モジュールより》
分析: 戦場エリア縮小は、各勢力の戦略的再編を強制。機動力と資源管理能力の重要性が飛躍的に増大。
関東エリア予測: 縮小による密集化は、東京の広範囲制圧能力と神奈川の近接戦闘能力のどちらに有利に働くか、現時点では判断困難。消耗戦は必至。生存確率変動:各々-10.5%。
愛知「ナゴヤ・キャッスル・フォートレス」の脅威度再評価: 限定空間における制圧力はS+クラスに上昇。ただし、エネルギー消費率が予測を8.7%上回っており、長期稼働にはリスク。
京都の潜在的利益: 混乱に乗じた情報操作および弱小勢力の吸収機会が増加。ただし、自身も移動を強いられるため、隠密行動の難易度は上昇。
島根の動向: 依然として位置情報不明。エリア縮小に対し、最も予測困難な行動を取る可能性。特異点として注視。
資源枯渇リスク: 全体的に上昇。特に食料・弾薬の現地調達が困難なエリアでは、今後24時間以内に継戦能力を喪失する県が続出すると予測。