第二部:開戦 - 戦場降下と初動 -
けたたましいサイレンが、広大なバトルフィールド全域に響き渡った。それは、日本列島を模して造られた戦場の目覚めの合図。空には巨大なホログラムが表示され、無機質なカウントダウンが始まる。
『…3…2…1…』
『バトルロイヤル、開始』
その瞬間、47の光点が空からそれぞれの初期配置エリアへと降下した。都市、山林、雪原、島嶼――各都道府県代表は、自らの特性を最大限に活かせる「ホームグラウンド」へと導かれる。
高層ビル群が再現された都市エリアの中心部に降り立ったのは、東京だった。ARゴーグルが瞬時に戦場データをスキャンし、無数の小型ドローンが音もなく周囲に展開、索敵と情報収集を開始する。
「ARIA、初期状況レポートを。最優先はAクラス以上評価対象の位置特定」
パワードスーツの起動シークエンスが、彼女の冷静な声と共に静かに進行していた。
一方、大阪は、道頓堀を模した水路が巡るエリアに降り立つや否や、ハリセンで肩を叩いた。
「ほな、まずは様子見やな!」
言葉とは裏腹に、その目は鋭く周囲を観察。次の瞬間には水路に飛び込み、得意の道頓堀スモークスクリーンを展開して姿をくらました。メガホンからは「ええ情報あったら、お安くしときますえー!」と陽気な声が響くが、それは巧妙な罠か、あるいは本音か。
雪と氷に覆われた大地に降り立ったのは北海道だ。「やっぱここが一番落ち着くわ」と深呼吸すると、巨大な雪玉バズーカを地面に突き立て、周囲の地形と食料資源の確認を始めた。
「さて、まずは腹ごしらえと寝床の確保だな。焦らずじっくり行こうぜ、なあ相棒」
バズーカに語りかける姿は、長期戦を見据えた王者の風格を漂わせる。
古都を模した入り組んだ路地と寺社仏閣が再現されたエリアには、京都が静かに佇んでいた。広げた扇子で風向きを読み、周囲の微かな物音に意識を集中させる。
「ふふ…まずは盤面の見定めからどすな。焦りは禁物、焦りは禁物」
直接的な行動は起こさず、情報網を張り巡らせ、他者の動きを予測し始める。雅なる策士の戦いは、静寂の中で既に始まっていた。
活気ある屋台街のようなエリアに配置されたのは福岡だ。
「九州の仲間はどこにおるんじゃー!」
背中の旗を高く掲げ、大声で叫ぶ。明太子型グレネードの安全装置を確認しつつ、一直線に最も開けた場所へと移動を開始した。その瞳には、祭りの始まりを告げる熱い炎が宿っている。
エメラルドグリーンの海と白い砂浜が広がる島に降り立った沖縄は、三線を爪弾き、「てぃーだかんかん、ええ天気さー」と伸びをした。サンゴ礁の影に身を隠しつつ、小型のシーサーを数体召喚し、周囲の警戒にあたらせる。
「焦らず、騒がず、なんくるないさー。まずは潮風でも楽しもうかね」
南国の自由人は、独特のリズムで戦いの時を待つ。
開始直後の戦場は、各地での情報収集、警戒、移動が主となった。一部の好戦的な県や、近距離に配置された県同士による小規模な衝突が散発的に発生するが、まだ大きな動きはない。無線や念話のようなもので、早くも同盟交渉を始める者たちの声が微かに飛び交う。静寂と、突発的な爆発音や叫び声が混じり合う、不気味な緊張感が戦場を包み込んでいた。