えっ!? 今更!?
私の主である王子はうんざりするほどのナルシストだ。
「僕は光。君は影。だから君はいつでも僕の真似をしなければならない」
「はい。王子」
その言葉は正しい。
性別は違えど私は王子の影武者だ。
有事には私が王子の身代わりとなって死ぬ。
それが役目だ。
しかし、それは同時に王子が成すどんな奇行にも付き合わないといけないと言う意味でもある。
「僕はまるで女の子のように可愛いと思わないかい?」
「何言っているんですか」
「君もそう思うだろう?」
そう言うと王子は似合いもしないドレスを身に纏う。
光である王子がそうするのだから、影である私もそれに倣う。
鏡映しとなった私を見て王子は微笑んで言った。
「うん。可愛いじゃないか。僕は」
「気は確かですか」
「城下町では砂糖漬けの花が流行っているそうだ」
「さいですか」
「僕は甘いものには目がなくてね」
「いや、大嫌いじゃないですか」
「僕が好きで食べる以上、影武者である君も食べないといけない」
そう言うと砂糖漬けの花を王子は持ってこさせる。
私は甘いものは好きだ。
しかし、王子は違う。
「無理して食べなくていいんじゃないっすかね」
「いや、僕は甘いものが好きだ」
そう言いながら王子は必死に苦手な甘いものを食べきっていた。
「あの塔から見える城下町は絶景だそうだ。見に行こうと思う」
「別に良いですけど、あなた高いところ苦手じゃないんすか」
「馬鹿にするな。そんなことは一度だってなかったぞ」
塔の頂で絶景に息を飲む私の隣で王子は必死に目を瞑りガタガタと震えていた。
と、まぁ、このような感じで奇行をあげたらきりがない。
そもそもがいくら幼く同い年とは言え、少年である王子の影武者が少女である私というのがおかしい。
おまけにそこまで私は王子に似てはいない。
挙句の果てにこの国は欠伸をしてしまうほどに平和なのだ。
しかし、文字通り美味しい思いが出来るために私は特に不満を言うつもりはなかった。
どうせ、影武者と言い張ることが不可能になる年齢にもいずれなるのだ。
それまではこの快適さを傍受しよう。
そう思いながら過ごしていた。
それから大分経って。
私の身体に丸みが帯び、文字通り王子とは似ても似つかぬ状態になった日。
ドレスを着た王子に私はプロポーズをされた。
「えっ? 私の事が好きなんですか?」
滑稽な姿をしていた王子が悲鳴のような声をあげる。
「えっ!? 今更!?」
ぽかんと口を開ける私に対して王子は顔を赤くして言う。
「君にドレスを着せるためにこんなアホみたいな恰好したんだぞ!?」
逆切れをする王子の姿に私は吹き出しながら言う。
「アホなことは自覚してたんですね」
恥ずかしくて仕方ないという表情を両手で隠しながら王子は叫ぶ。
「あー! もうー!!」
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後に夫婦となる変わり者達を見つめながら、王宮に居る全ての者は今日も平和を実感していた。