【09 ナンパの二連続】
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・【09 ナンパの二連続】
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早く家に帰ろうと思ったその時だった。
また誰かに後ろから肩を叩かれた。
無視すると何が起きるか分からないので、振り返ると、そこにはなんと、最近俺が買っている漫画雑誌にもグラビアが載っているグラビアアイドルの、不二子さんが立っていた。
「やぁ、少年、カッコイイね」
あっ、ちゃんと俺を男子として認識している。でも何だろう。
不二子さんは続ける。
「単刀直入に言うと、私の彼氏にならないか?」
……えぇぇぇええええっ? どういうことっ? 急にナンパっ? 俺にっ?
というか何気にモテ期か、俺! あの菜乃というヤツも近付いてきたし! モテ期到来だ!
……って、いやいや、
「何か、素人ドッキリみたいなもんですよね、どこかにカメラでもあるんですか?」
と冷静なトーンで俺は返すと、不二子さんは強く強くドキィッと明らかに動揺した表情を浮かべたので、あぁ、間違いない、そういうことだと分かった。
何でたまたま変なことが起きやすい俺にそんな素人ドッキリが来るんだ。
いやまあ変なことが起きているから、それに合わせて変なことが起きているんだろうけども。
俺はとにかく変なところを撮られても嫌なので、早めに拒絶して、他の人のほうへ行ってもらうことにした。
これに関して言えば、そんな誠実に対応しなくて大丈夫だろ。
素人ドッキリなんて性格の悪いモンに付き合う筋合いは無い。
「あのですね、そういう素人ドッキリみたいなものは、もっとチャラそうな人にして下さい」
「いやいやいやいやいや! 素人ドッキリではないぞ! マジだぞ!」
そう言って俺の腕を掴み、俺の手を自分の胸に当てた不二子さん……ってっ! えぇぇぇええええ!
何これ! 柔らかっ! でも弾力もあって何これぇぇえええええ!
素人ドッキリでここまでするもんなのぉぉおおおおっ? じゃあラッキーだわっ!
いやラッキーだわ、じゃなくて、まあ、ま、まあ、もうちょっと話してあげてもいいかな、どうせ素人ドッキリだと分かっているわけだしさ。
「ちょ、ちょっ、ちょっと、急に、おっぱいって、あの……」
うん、頭の中ではちゃんと言葉が出ていたけども、いざ口に出すと全然うまくいかない。
そんなモゴモゴしている俺を見て、どこか自信満々になった不二子さんはグイっと俺を引っ張って、
「じゃあこれからホテルに行きましょう!」
「いやっ! そういうのは! ちょっとっ!」
絶対怖い人がいて、ちょっと痛い目に遭う素人ドッキリじゃん。
痛い目には遭いたくないし、テレビの笑い者にはなりたくないので、この辺で逃げよう。
俺は手を払って、踵を返し、走りだそうとしたその時だった。
「ちょっと、待ってぇ」
そう俺の耳に息を吹きかけてきた不二子さん。
そう、俺の耳に息を吹きかけられる距離。
俺を後ろから優しく抱き締めてきた不二子さん。
いやマジかよ、おっぱいが背中に当たって、良い香りがするし、マジで、ちょっと、アソコが、男子の部分が、ヤバイ……。
「何でちょっと前屈みになったの? 痛くなったところ見てあげようか?」
そう言って俺の太ももあたりをさすってきた不二子さん。
というかちょっと、手が俺のアソコに当たりそう……いや、いいの? 最近のテレビって規制が厳しいんじゃないの?
しかし笑い者にだけはなりたくない。
なんとか俺はバッと不二子さんから離れた。
だがつい不二子さんのほうを向き、目を見てしまう。
妙に潤んだ瞳が艶っぽくて、どんどん引き込まれていく。
いやヤバイ! これは完全にお茶の間の笑い者になってしまう!
俺は一気に家へ向かって走り出した。
「待って!」
不二子さんの声は聞こえたけども、俺はそれを振り切って走った。