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【04 訪問詐欺師】

・【04 訪問詐欺師】


 玄関のドアを開けると立っていた人間は片手にサンドウィッチ、もう片手に壺を持っていた。

 顔は泥棒ヒゲを生やしたむさ苦しい男、というかうさん臭さが半端無かった。

 その男は開口一番に

「不運なら壺!」

 と叫んだ。

 まさかこんなザックリした詐欺が来るなんて、どう対応しようか迷っていると、その男はこう畳みかけた。

「不運なら壺を買うべきですね、何故なら不運なら壺だから」

「いや別に、そんなこと無いでしょ……」

 つい言葉を発してしまった俺に対して、その男は無表情でサンドウィッチを食べたので、俺は驚きながら声が出た。

「いや! そのサンドウィッチ! 売るサンドウィッチじゃないのか!」

「サンドウィッチは何かしながら食べるモノですよね?」

 そう何だか妙に腹立つ顔で、ドヤ顔しながらそう言ってきたその男。

 いやそうかもしれないけども、詐欺の最中にサンドウィッチ食べるってどういうことだよ。

 まあいいや、これはもう詐欺だと分かっている、押し返そう。

 おばあちゃんの教えもあるけども、詐欺ならさっさと押し返そう。

「すみません、詐欺の人は帰って下さい」

「いや詐欺ではないですよ? なんせ不運なら壺ですから」

「詐欺じゃなくても何か、新しい語彙で打ち負かしたりしないんですか」

「不運なら壺、これしかないです」

 なんて武器の無い人間なんだ……というかこんな会話の中でも普通にサンドウィッチ食べてる……どんな強心臓だよ。

 とにかく

「玄関閉めますからね!」

 と俺はドアを強く閉めようとしたが、その男はドアに肩を入れて挟み込む。その力がやたら強い。

 その男は余裕そうな顔をしながら、

「壺持っているから無敵ですよ?」

 と、こっちを煽って来た。

 いやもう詐欺とかじゃなくても、こんなヤツ絶対ダメだろ。

 というか

「じゃあ壺を常に所持していないとダメというわけですね! いらないです!」

 と言葉で打ち負かす方向に俺は転換すると、

「玄関という意味ですよ!」

「いや意味分かんないですよ、言うならちゃんと言って下さい」

「私の家の玄関にこの壺置いていますからですよ?」

 微妙に日本語おかしいし、何よりもこの上から目線のような顔が苛立たせる。

 さらに平気なツラしてサンドウィッチ食べ始めるし。

 そろそろサンドウィッチ無くなりそうだ。

「あぁ、もう、そのサンドウィッチ食べきったらもう帰って下さい」

 俺は面倒くさそうに、今度は言い方で攻めると、その男はニッコリと微笑んで、

「そうします!」

 と言って一口残ったサンドウィッチを食べ終えた。

 じゃあ帰るのか、と思っていると、その男は壺の中に手を入れると、そこから新たなサンドウィッチをとりだした。

「いや! サンドウィッチ入ってる!」

 直情的にそうツッコんだ俺。

 というか

「売ろうとしている壺の中に直でサンドウィッチ入れてるなよ!」

 ついタメ口のツッコミも飛び出してしまった。

 いやもうこんなヤツ、タメ口で十分だ。

「とにかく! もう帰ってくれ! 何か玄関が妙にBLTクサくなってきたわ!」

「BLTなら良い香りでは?」

 何だそのムカつくAIみたいな喋り方。

 ”では?”で文章を止めるな、クソAIじゃん。

「知らないオジサンが香らせるBLTは最悪だろ」

「じゃあ知ってるオジサンになりましょう、今日から壺兄弟ですね」

「穴兄弟みたいに言うな!」

「ふむ、私が持っているサンドウィッチが三角じゃなくて細長いほうなら竿サンドウィッチ姉妹ですね」

 いやいいんだよ、そんな言葉遊び。

 いや穴兄弟と言い出したのは俺だけども。

 とにかく!

「壺は買わない! ハイ! 終わり!」

 俺はハッキリと結論を述べた。

 するとその男は少し小首を傾げ、こう言った。

「買ってほしいとは言っていないですよ? 不運なら壺を置きなさいってだけですよ?」

 いや!

「そんなつもりで来てなかっただろ! 絶対! 訪問販売のテンションだっただろ!」

「いやいや不運なら壺だと思っただけですよ? いりますか?」

「でもいらない! タダだとしてもいらない! サンドウィッチが直で入っている壺だから!」

 俺がそうキッパリと言うと、何だか落ち込んでいるような表情の男。

 肩を落とし、今にも膝から崩れ落ちそうだ。

 でもサンドウィッチを食べることは忘れない。じゃあ余裕だな!

「帰れ!」

 俺が端的にそう言い放つと、やっと観念したのか、その男はスゴスゴと帰って行った。

 何なんだあの男。

 本当こういうヤツがまさか押しかけてくるようになるとは。

 一体俺の人生はどうなってしまったのだろうか。


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