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【02 ボス猿のベンツを名乗る男】

・【02 ボス猿のベンツを名乗る男】


 十六歳の誕生日を境に、知っている人たちはなんとなくよそよそしくなり、知らない人たちから絡まれるようになっていった。

 高校の、知っている人たちに限って言えば、まあいわゆる集団イジメっていうヤツなんだろう。

 よそよそしいというか無視されるようになった。

 まあその標的がたまたま自分になったということなんだろうと思っている。

 どっちが先かはよく覚えていないけど、最近変な人に絡まれるので、傍から見たら変な人と知り合いだと思われているのかもしれない。

だからそのせいで無視されているのかもしれないし。

 でも高校では、幼馴染の遼子が俺と仲良くしてくれるから別に寂しくもない。

 遼子はいつも俺のことを励ましてくれる。

 多分俺の周りの感じを察して、より強くいろいろ言ってくれているのだろう。

 そんな気遣い別にいいのに、と思いつつも、やっぱり嬉しいもので。

 とか、考えていると、明らかにこっちを見ている男が目の先に立っている。

 すぐに分かった、アイツは俺に絡んでくる人だって。

 襟足はヤンキーのように伸ばしている茶髪の男。

 少々小柄だけども、睨みの圧が強い。

 何か怖いなぁ、と思いつつも、ここは一本道なので真っすぐ歩いていかないと逆に不自然で。

 仕方なく、俺は真っすぐ歩いていくと、案の定、その男から話し掛けられた。

「おい、オマエ」

 考えること零コンマ何秒か、でも返事しないとヤバイほうの人だと思ったので、俺は

「はい……」

 と答えると、その小柄な男はこう言った。

「ボス猿のベンツっていたじゃん? それ、俺」

 ……えっ? どういうこと? ボス猿のベンツってそもそも何っ?

 しかもそれが”俺”ってどういうこと? 猿じゃないじゃん。

 いや確かにちょっと暴れ猿みたいな風貌しているけども、猿ではないじゃん。人間じゃん。あぁ、そうか。俺は言う。

「生まれ変わり……って、ことですか?」

「いや、ボス猿のベンツだ、俺は」

「猿そのもの、ってことですか?」

 俺はおそるおそるそう聞くと、小柄な男は首を横に振り、

「猿じゃない、ボス猿のベンツだ」

 と真っすぐな瞳でそう言った。

 いやもう訳が分からない。

 人間じゃん。服も着ているし、サイズ的にも人間じゃん。これはマジでヤバイほうの人だと思い、会釈してその場を去ろうとすると、俺の肩をガッと掴んで、

「オマエ、ボス猿のベンツを知らないな?」

 と言ってきたので、ここはもう正直に

「……はい、知らないです……」

 そう答えると、小柄な男は大きな溜息を一回ついてから、こう言ってきた。

「ボス猿のベンツという猿はな、伝説のボス猿なんだよ、それが、俺だ」

 ……いやもう全然たいした説明じゃない、でも機嫌を損なわれても困るので、頷くと、

「というわけで、ボス猿のベンツ、それは、俺だ」

 と親指を立てて、自分の顔にその親指を当てた。

 当てられた場所が口に近いので、何か”俺だ”感よりも哺乳瓶感が強かった。

 まあそれを指摘すると、どう考えても怒り狂うので、俺は理解したような顔をして、スッと先に進もうとしたその時、その小柄な男はこう言った。

「何か言うことない?」

 俺は自分の頭脳をフル回転させた。

 何をどう言えば怒られないか、逆上されないか。

 このノーヒントの質問にどう答えればいいか。

 まず自分を猿だと自称している、だからそこを覆してはならない。

 だからむしろ猿であることを褒めつつ

「……すごいですね、もう、まるで、人間ですね」

「ボス猿のベンツだからな」

 そう自慢げに頷いた小柄な男。

 どうやら決して外れではなかったみたいだ。

 でもまだこのまま帰してくれるような雰囲気では無かった。

 何かもう一言必要みたいだ。

 ならば

「人間の社会に溶け込んでいますね、すごいと思います」

 と俺が言ったところで、急に小柄な男は「キィィイイイ!」と本当に猿のように叫んでから、

「俺は猿である自分に誇りを持っているんだよ! 人間の社会になんて溶け込んでいない!」

 ハッキリ日本語でそう言った小柄な男。

 いやもうそこまで流暢な日本語なら溶け込みまくってるよ、と思いつつも、この怒っている感じがかなり怖い。

 どっちに転ぶか予想がつかない。

 俺は少しおろおろしていると、小柄な男はこう声を荒上げた。

「つまんねぇな! 楽しくなければ人生じゃないんだよ!」

 いや、人生て、猿なんでしょ、人間の生って言うなよ、なら、と考えた直後、お腹に激痛が走った。

 それもそのはず、俺はこの小柄な男に腹を殴られたから。

「ぐふぅっ……」

 口から言葉にならない言葉が漏れる俺。

 俺は反射的に言ってしまった。

「すぐ手が出る感じが、猿ですね……」

 言った瞬間、しまったと思った。

 もっと酷い仕打ちがくると思ったその時、

「だろ! ボス猿のベンツだからな! 俺は!」

 そう言ってその小柄な男は去って行った。

 助かった……のか……?

 まあ助かったんだろう。

 一体何なんだ、いやでも本当に猿と会話しているみたいな、怖さがあったな……。


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