【12 菜乃の嫉妬】
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・【12 菜乃の嫉妬】
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校門をくぐった刹那、最近聞いたことのある声がした。
「なのーっ! 菜乃なのっ!」
いやハッキリ名前を言っていた。
なのなの言い過ぎて分かりづらかったけども、これ、俺のファンとか言っている菜乃だ。
「悟志くん! ちょっと嫉妬しちゃうのーっ!」
「……何が?」
「とっ! とにかく! 嫉妬しちゃうのーっ!」
「いやハッキリ言えよ、何がどう嫉妬するんだよ」
俺が普通にそう言うと、菜乃はちょっと伏し目がちに口を尖らせて、少し困っているような面持ちだ。
何が嫉妬なんだよと思っていると、俺が昨日遼子と仲良く話しているところを見たということかな、と思い、
「昨日の帰り、校門の近くで話していた遼子のことか? あれは俺の幼馴染だよ」
「なの! えっと! なのっ! とにかく悟志くんが人気過ぎて嫉妬なのっ!」
いや学校では全然人気無いだろ、ちょっと遼子と話したくらいで人気って何かズレてる子だな、と思ったけども、この菜乃というヤツはずっとズレている子なので、そこをそんな気にしても仕方ないかと思った。
まあとにかく
「全然人気じゃないよ、菜乃にしか人気無いよ」
「そうそう! 菜乃からは大人気なのーっ!」
そう言って手を挙げて近付いてきた。
どうやらハイタッチを欲しているらしい。
まあそれくらい、いいかと思って、ハイタッチすると、菜乃が嬉しそうに、
「一緒に繋がるって楽しいのっ」
と頬を赤らめて笑った。
いや!
「繋がるて! 普通に手と手を叩いただけだから!」
「でも嬉しいのっ、タンバリンなのっ」
「タンバリンではないよっ、どっちが太鼓の皮なんだよ」
「皮があるのは、その、悟志くんのほうなの……ってそんなこと言わさないでほしいのーっ!」
そう言って俺の背中を叩いた菜乃。
いや
「皮は両方あるだろ、両方皮膚のある生物だろ」
「でも悟志くんが皮を見せつけてくるのっ!」
「いや見せつけてないから! 全然普通の皮膚感でやってるわ!」
俺がそうツッコむと、菜乃はニコニコしながら、
「やっぱり悟志くんのツッコミ、愉快なのっ。楽しいのっ」
「いやそんなことハッキリ言われると恥ずかしいわ」
こうやって良く分からない変なヤツに絡まれることもあるけども、まあ菜乃は可愛いし、いいか。
ボケてくるヤツというのもまあ楽しいしな。
まっ、それは菜乃が同じ高校に通う同学年って分かっているからだけども。
あぁやって石を舐めてボケてくるヤツは勘弁してほしい。