【11 登校の道のりにもいる】
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・【11 登校の道のりにもいる】
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あっ、怪しい人がいる。
それに絶対話し掛けられる。絶対に。
何かもうそういう嗅覚が出来上がってしまった。
絶対に話し掛けてくる人だ。話し掛けられたくないなぁ。
でもちょっと登校の道のりを変えたって、ついてきそうなあの感じ。
もう観念するしかない。
いやでも、いやでも、何で石を舐めているんだ……。
「そこの兄ちゃん、これ何だか分かるかい?」
案の定、話しかけられてしまった。
白髪に白い髭を蓄え、ボロボロの布を纏った仙人のような風貌の男。
絶対ヤバイジジイだ。
いやでもヤバイジジイだと思ったことが顔に出たら、何されるか分からない。
慎重に話を聞いていこう。
さて”これ何だか分かるかい?”か。
どう見ても石だ。
舐めていた石だ。
でも石を舐めているヤツなんているか?
じゃあ普通の石じゃない。分かった。
「岩塩、ですね……」
「違う、これは普通の石だ」
普通の石を舐めているのか……もうヤバさマックスだ……。
「何で、石を舐めているんですか?」
もう俺は先手を取ることにした。
どうせそういう話になるだろうから、単刀直入に話を進ませて、さっさと学校へ行こう。
仙人の男はニヤリと右の口角だけを怪しく上げると、こう言った。
「石が旨く感じるまで、舐めているんだ」
「……いや、美味しく感じる時、多分無いですよ……」
あんまりこういう人に否定とかしちゃいけないとは分かっているんだけども、つい口に出てしまった。
まあ仙人に合わせて無理して取り繕って、でもその後ボロが出てしまったとかのほうが怖いし、これで良かったのかもしれない。
でも果たして仙人の次の言葉は……。
「いや、舐めていれば絶対分かってくれる、旨く感じるようになるはずだ」
そう目を輝かせながら、希望を抱きながらそう強く言った仙人。
いやでも
「それは、石が分かってくれるんですか? それとも舌が分かってくれるんですか?」
「……なかなか哲学じゃないか、兄ちゃんよ」
そう言って俺の肩を優しく叩いた仙人。
いや哲学かな、なんとなく気になったから聞いてみただけだけども。
「兄ちゃんよ、それはな、どっちでもいいんだ、旨く感じれば、それでいいんだ」
……あんまり深いディティールを考えている人じゃないな。
何かずっとこうしていた人というより、急に考えてし始めた人って感じがする。
だから何だか嫌な予感がするんだ。
ただのヤバイジジイならそれはそれでしょうがないんだけども、急にし始めた人ならば、何故俺に関わってくる?
本当に俺は何かに巻き込まれているんじゃないか、そんな陰謀論を時折考えてしまうんだ。
いやでもまあこの仙人はもうこれ以上何もなさそうなので、俺はその場を立ち去った。
仙人も何か特に俺のことを止めることなく、
「じゃあな! 兄ちゃん!」
と、妙に明るく俺に手を振っていた。
一体何だったんだろうか。