犯人は
『犯人は、……お前だ‼』
私は岬──と言ってもほぼ崖だけど──の上で、何度も同じセリフを繰り返していた。
うーん、何か違うな。
けれど男勝りで、有能な女探偵役。
しかも初めての主役! をもらったんだから、いい芝居をしないと。
そう思って、実際のロケ地に前乗りしてやって来た。
そうして現地で稽古をしてるんだけど、どうもしっくり来ない。
……やっぱり犯人役がいないとダメなのかな?
けれど、ないものねだりをしても仕方ない。
私は再び崖に向かい、
『犯人は──』
と、言いかけたとき。
「危ない‼」
何かが私を目がけ、タックルしてきた。
その何かは崖の数センチ手前で止まったが、勢いで押し倒され、ついでに頭部近くの石ががらりと崩れ、崖下に落ちていった。
……よ、良かった……! もう少しで私も落ちるところだった。
ほっとすると、少し冷静になった。覆いかぶさっている相手を見る。
相手は大学生くらいの男子で、私を気遣わしげに見ていた。
やがて彼は私から体を離し、手を差し伸べてくれる。
彼の表情からして、善意なんだろう。私を自殺志願者と間違えたのだろうか。
そう思っていると、彼が口を開いた。
「大丈夫ですか⁉ ああ一体、誰があなたをこんな目に──」
「お前だー‼」
彼の言葉に思わず今日一の、渾身のセリフが口を衝いて出た。