The fifth story : 搗いた餅より心持ち
皆さんおはようございます、こんにちは、こんばんは作者です。
中学校生活ももうすぐ終わろうとしていますが今夜はこのお話の専門用語を簡単にまとめたいと思います。冬休みきゃっほう^p^
どうぞ物語を読む参考にしてください^^
魔術増幅光
世界の歪みの原因。濃度が異常に濃くなると、魔物や動植物に影響を齎す。
空気中に存在する酸素に宇宙空間から降り注ぐ魔光が化合することでてきる物質。生活の支えだが使い方を間違えれば危険なモノとなる。
魔術増幅石
特殊技術でつくられた貴重なもの。アルスが持っている。魔術増幅光の比でない力を秘めている。使うと身体に大きな負担がかかる。
光制輪
唯一、魔術増幅光と魔術増幅石を制御できるもの。たがその効果は一時的なものである。魔術増幅石よりも貴重なものでこれを所有するものは世界に指で数えられる程しかいない。
魔光
宇宙空間から降り注ぐ謎の物質。
魔物退治
構成員が全て子供の組織。世界中の魔物を退治していたが、今では生き残っているのはアルスのみ。とても戦闘力が高い。
ラミエル・オルヴィア
ヴァローン城の王女。魔術増幅光の暴走をくいとめるため旅をする。一途で温厚。
アルス・リベリオン
元、魔術退治の最高責任者。一時、仲間を失った感情に任せヴァローン城を襲撃した。武術や剣術を得意とする。魔術もつかえる。今はラミエルと旅をしている。
メルヴィン・カノン
城の衛兵。アルスの旧友。
ディモール・カノン
メルヴィンの姉。気前の良い素敵なお姉さまタイプ。今は港町のマルティネスで宿屋を営む。
ウィルド・ダルシアン
ヴァローン城に仕える医者。ラミエルの良き理解者。
それでは本編をどうぞ。
「あの魔物はもともと大人しくて普段は森の奥にしかいないんだ」
「え?」
唐突な言葉にラミエルは歩みを止める。先日、ラミエルは突如現れた魔物に襲われた。怪我さえしなかたものの魔物の恐ろしさ、危険性を身を持って感じた。そして何より精神的なダメージが大きかった。魔術増幅光によって人が住む町中にも当たり前のように魔物が潜んでいること。そして自分は人に助けてもらわなければいけないほど弱い存在だったということ。認めざるを得なかった・・・。悔しさだけが心に残った。
アルスも立ち止まり、ラミエルと向き合う形になった。
「俺が魔物退治だった頃より圧倒的に自我を持つ魔物が増えてきた。厄介だ。あの宿にいた魔物は簡単に倒せる相手だったから良かったものの・・・。それに最近では光制輪をめぐって各地で戦争が起きてるらしい。魔術増幅光さえ安定すれば・・・」
ラミエルはアルスの胸元に下がっている魔術増幅石を見詰めながら話を聞く。アルスの強い光を持った瞳を直視することができないからだ。彼の瞳の色はまるで何もかも見通すような青だ。その瞳は青い空を、広い海を思わせる。
「・・・?ラミエル聞いてるか?」
顔を覗きこまれる。慌ててラミエルは一歩退いた。真面目な話をしているというのに心のどこかで呆けていた。
「ごッ、ごめんなさい!ちゃんと聞いてます」
顔を勢いよく上げるとそこには見慣れない景色が広がっていた。昨日とは少し違うがここはまだマルティネスだということがわかる。波の音がまだ近くで聞こえるからだ。
辺りを見るとそこには服がすりきれた子供たちがたくさんいた。ここは一体・・・。
「ここはスラム・・・みたいだな」
ボソッと呟くようにアルスは言った。
「スラム・・・」
ラミエルは両手を胸の前で祈るように組むとアルスの言葉を復唱した。胸が痛かった。城の外では貧しい人たちが苦しい思いをしながら生活しているというのに、自分はなにもできない。魔術増幅光がたとえ安定してもこの状況は変わらないだろう。富を有するものは金にまみれ、そして富なきものは生きることも困難になる。どうにかしたいが何もできない。ラミエルはただ地面をじっと睨みつけることしかできずにいた。
「治安がいいのはマルティネスのほんの一部だけなんですね・・・」
子供たちがこちらをじっと見つめている。まるで睨むような目つきだ。
小さな足音が近づいてくる。素足が地面につく音。振り返ろうとした瞬間背中に鈍い痛みが走った。
ドンッという音がしたかと思うと地面が目の前にあった。どうやら誰かに体当たりされたようだ。背中をおさえながら立ち上がろうとする。さっき聞こえた足音が遠ざかる。
「大丈夫か!?なんだあの子供」
「えぇ、大丈夫です・・・」
ラミエルはアルスを見上げた。なんだか身体が妙に軽い・・・。
(あら?なんだか腰のあたりが軽い・・・)
腰に手をやるとそこにはあったはずの旅の荷物が全部入っていた鞄がなくなっていた。
「嘘ッ!さっきの子に鞄をッ!」
驚いて前方を見るとそこにはラミエルの鞄を抱えた少年が立っていた。少年は皮肉たっぷりに微笑むとスラムの奥へと逃げて行った。慌ててラミエルは立ち上がる。
「ちょっと!待ちなさい!!」
ラミエルは叫んだ。
そして反射的に身体は走り出していた。後方でおいッ、とアルスが言ったような気がしたが気にせず少年を追った。まったく知らない場所をラミエルは無我夢中で走り回った。後ろからアルスが追ってくる。とても速い。まるで彼は風を切るように走っていた。
「あの子供捕まえた方がいいか?」
アルスはラミエルに追いつくとそれだけ言った。
ラミエルは大きく首を振った。だんだん自分のスピードが落ちてくる。だが大きな声で返答する。
「私があの子を捕まえて荷物を返してもらいます!」
プライド・・・と言えばよいのだろうか。まず自分ができることから・・・。自分の問題は自分で解決したい。我儘ではあるがラミエルにはこれしかできない。了解、と小さくアルスは呟くと強く地面を蹴った。そしてあっという間に屋根の上に上った。なんという身体能力だ、とラミエルは改めてアルスを見上げた。
前を走っていた少年がふっ、と視界から消えた。建物の中に入ったようだ。
「どこ!?」
狭いスラムを抜けた。いつの間にか海の波の音は消えていた。
そしてそこには大きな屋敷があった。耳を澄ませるとその建物のそばからは多くの子供たちの声が響いていた。静かに屋敷の大きな門から中を覗くと屋敷の庭にはたくさんの子供たちが竹刀を握り、剣の稽古をしていた。遠目から見ればチャンバラのようだが真剣な表情で子供たちはそれをやっていた。そして目を凝らすとその中に混じって自分の鞄を盗んだ少年もいた。彼は竹刀を握っておらず手にラミエルの鞄をぎゅっと握りしめていた。庭の奥には一人、男が無造作に寝転がっていた。
ひゅっ、と後方で屋根からアルスが飛び降りる音がした。着地の音は驚くほど静かだった。そして静かにアルスは歩み寄ってきた。
「鞄・・・どうすればいいかしら」
息を切らせながら困ったようにラミエルは首を傾げた。
ちらりとアルスを見るとアルスは俯き考え込んでいるようだった。そして少しすると決心したように顔をあげた。そして一歩前へ出て大きく息を吸った。
「こんにちはーッ!」
大声でアルスは叫んだ。そのあまりの声量に隣に立っていたラミエルは耳鳴りを催した。剣の稽古をやっていた子供たちの動きが一斉に止まる。そして皆、こちらに視線を集中させた。そしてしばらくしないうちに庭の奥で昼寝をしていた男がゆっくりと身体を起こしこちらに向かってきた。そして男は門の前までやってくるとまだ眠そうな顔をこちらに向けてきた。
「お?兄ちゃんかっこいい剣持ってるね。うちの門下生になりにきたの?」
見た目、30代前半といった感じの無精髭を生やした男は目を輝かせながらアルスの剣を見詰めている。子供たちもその男の後ろからこちらに近づいてくる。
「先生ーッ!この人うちの新しい門下生?女の子じゃん」
一人の子供がアルスを指さしてそう言った。アルスに怒りの表情が浮かぶ。ラミエルは思わずクスッ、と笑ってしまった。
「先生そろそろオレたちになんかかっこいい技とか教えてくれよー。毎日竹刀振ってるだけなんてつまんないよー」
ぞろぞろと男の周りに子供たちが群がる。
だがラミエルの鞄を持った子供だけはこちらに近寄ってこない。警戒するようにこちらをじっと見ている。その姿を見てラミエルはアルスを押し退けて、ずいと前へ出た。そして門を挟んだ向こう側にいる先生と呼ばれる男に面と向かった。
「あの!鞄・・・返してほしいんですが」
ラミエルは口ごもってしまった。男は一体なんのことだ?というような表情をしている。一体どう事情を説明すればよいのか・・・。言葉を選んでいるうちにアルスが耳打ちしてきた。
「とにかく中に入れてもらって事情を話そう」
なんとも単純な話だ。ただ素直に事情を説明して鞄を返してもらえばよいこと。何故そんな簡単なことに気付かなかったんだろう・・・とラミエルはアルスの言葉に静かに頷いた。
「あの、お話があるんですがいいですか?」
ラミエルはそう切り出した。男はおいで、と手招きして屋敷の大きな門を素手で開けた。見た感じでは標準的な体系に見えるのだが以外に筋肉質なのかもしれない。
「うちのヤツがまたなんか仕出かしたか・・・」
男は庭に一人ぽつんと立っている少年を見詰めながら呟いた。少年はラミエルの鞄をまだ抱きかかえている。まるでそれに縋るように・・・。
屋敷の中はとても広く、独特な造りをしていた。本で読んだことがある。これは確か畳というものだった気がする。ラミエルそれ特有の香りを楽しんでいると急に男は立ち止まり、横手にある部屋へとアルスとラミエルを促した。そこはヴァローン城の一室のように広々としていた。どうやら客間の様だ。椅子に座ると男はその部屋から見える庭を眺めていた。
「あの・・・私はラミ・・・」
言いかけて口を噤んだ。むやみに自分の名前を出してはいけないのだった。
(どう名乗ればいいかしら。ラミ・・・エル・・・ラ・・エル、そうだ!ラル!)
「私はラルと申します。こちらにいるアルスさんと旅をしているのですがその道中、鞄を落としてしまって・・・。その時、親切な少年が拾ってくれたようで町の人の話を頼りにここまで来たんです」
どんどん偽りの言葉が口から出る。
アルスは隣で頭を抱えるような仕草を一瞬した。
すると正面に座っていた男はふッ、と笑った。
「ふふっ。大人に嘘ついちゃいけないよお嬢ちゃん♪」
男は白い歯をニッ、とこちらに見せる。全てお見通しの様だ。男は続ける。
「おいちゃんの名前はスカル。スカル・ヴェール。ここで身寄りのない子供たちの面倒を見ている。この辺りはすごく治安が悪くてね。危険だし、皆苦しんで生活してる。生きるために皆必死さ。おいちゃんが若かったころなんてこの近く歩っただけで金を掏られるほどだったのよ。」
スカルと名乗る男は笑いながらそう言う。
「俺はアルス。アルス・リベリオンだ。訳あってラミ・・・いや、こちらにいるラルと一緒に旅をしてるんだ。急ぎの旅で・・・まぁ、あの言いにくいんだが・・・」
「さっき・・・鞄とか言ってたね。様子をみるとうちの者がそちらさんのモノ取っちゃったのかな?」
はい、と申し訳なさそうにラミエルは頷いた。アルスも同様に頷く。
「はぁ・・・何度言えばわかるのか。悪いね。今、そいつ呼んでくるから」
スカルはゆっくりと椅子から立ち上がった。そして頭を掻きながら廊下へ出て行った。出ていく瞬間スカルは、アルス・リベリオン・・・と呟いたような気がした。
二人きりになって沈黙が訪れた。そっとアルスの顔を窺う。アルスは部屋の隅に飾られていた写真立てをじっと見つめていた。その写真にはたくさんの子供たちが写っていた。立派な服に身を包んでいる。手前に立っている少年の顔がスカルそっくりであった。とても凛々しい顔つきをしている。
「魔物退治の紋だ」
隣で上手く聞き取れないほど小さな声でアルスは呟いた。
アルスは写真を見ていたのではない。写真立ての独特な模様をみていた。それは本で見たことがあった。そう、魔物退治の紋だ。翼のはえたドラゴンが対になって大空を飛んでいる模様は一度見れば忘れない。アルスの表情は驚いている、というより喜びに満ちているような表情だった。
ガタンッと廊下で音がした。スカルが鞄を盗んだ少年を引きずって連れてきた。
「こらッウィル!ちゃんとこの人たちに謝らんと今夜はご飯抜きにするぞッ!」
少年はスカルの手から逃げようと必死である。だがスカルは手の力を緩めない。それに反抗するような眼差しを向けた後、キッと今度はラミエルとアルスを睨んだ。
「なんでだよ先生!オレ知ってるんだぞ!先生が政府のヤツらに脅されてここから出られないの!だからオレが少しでもお金稼がないと・・・ここで皆で暮らせなくなっちゃうじゃないか!」
「ウィルッ!なんでそれを・・・」
スカルは怯んだように手の力を緩めた。そしてスカルはウィルを睨むように見据えた。
ふぅッ、と息を吐いてアルスは立ち上がり睨み合ってる両者の間に割って入った。
「まぁまぁ、落ち着ついて。こっちとしてはラ・・・ルの鞄を返してもらえば問題ないんで」
まだ呼び慣れぬ名前をアルスは口にする。
ウィルはムっとしたような顔をしたがもう一度スカルに睨まれると観念したように奥の部屋からラミエルの鞄を持ってきた。武器や旅の資金、その他に生活の必需品がすべて詰まっているこれが無くなっては話にならない。安心して肩の力を抜いた。
そして申し訳なさそうにスカルが笑顔をつくった。
「兄ちゃん、嬢ちゃん迷惑かけたな。礼と言っちゃなんだが今日は屋敷でゆっくりしていってくんねえかい?おいちゃんこのままじゃ申し訳が立たないよ。何もないけど御馳走するよ」
ペロッと舌を出しながらいう。その仕草がなんとも幼く見えた。旅は一刻を争うのだが、各地の魔術増幅光の情報も欲しいのは確か。今日はここで世話になることになった。
子供たちに囲まれてアルスの長髪は玩具と化していた。眠そうな顔をしながらも子供たちの相手はしっかりしている。その光景がなんとも微笑ましい。子供の相手をしながらアルスはこちらに視線を送ってきた。
「ラミ・・・じゃなかったラル。俺スカル(あのおっさん)に話があるからちょっと子供の相手しててくれ」
すっと立ち上がると一つにまとめていた髪の毛をほどいた。サラリと髪が流れる。
「えっ!あのちょっとアルスさん!」
子供たちが標的を変えたようにこちらに突進してくる。
「きゃぁあ!アルスさんってば!ひどい!待って!」
前方を慌ててみるとアルスの姿はもう消えていた。
(してやられた・・・)
仕方なく子供たちの元気な笑い声に包まれながらラミエルは一緒にはしゃいだ。まるで時間を忘れるように・・・。
(アルスさん・・・スカルさんに話って何かしら。)
騒ぎ疲れ、天井を見上げていると幼い子供たちの温もりに抱かれるようにラミエルはそのまま目を静かに閉じた。