表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Traveler of fate~魔光創世伝~  作者: さばのみそに
2/7

The first story : 一寸先は闇


外は一面の銀世界に覆われていた。透き通るように白く、しんしんと地面に降り積もるそれはまるで雪のようだった。だがそれは雪ではない。空から降ってくるその白い物質を、ラミエル・オルヴィアはヴァローン城の南に面した日当たりの良い一室から見詰めていた。


ラミエルは肩程まである、夕陽を思わせる鮮やかなオレンジ色の髪を一つに結うと読んでいた本を閉じて城の医務室へと向かった。家具全て暖色でまとめられた清潔感溢れる私室から出る。



彼女、ラミエル・オルヴィアはヴァローン帝国唯一の姫君であった。そのためか、幼き頃から外出をした記憶がほとんどない。手厚く保護されているのはよいが、それは行き過ぎた愛情。好奇心旺盛な彼女にとってそれは束縛以外のなにものでもなかった。

自室の部屋から見ることができる景色は限られていた。空はあんなに広いのに、外はこんなにも自由に溢れているのに届かない。

ラミエルはどうにかして城の外のことを知りたかった。城の外では何にも縛られず、自由に生きることができる。きっといつの日かこの狭い世界から飛び出せる日がくると・・・。そう信じて16年間生きてきた。



部屋を出ると今度は気が遠くなるほど長い廊下が待っていた。床は隅々まで磨かれていて気を抜けばその場で滑ってしまいそうな程であった。

廊下には何人かの城の兵士が立っていた。兵士の仕事は姫の護衛と城の警備。それを担当するのは大抵、新兵の仕事であった。何かあれば城のどこにいても兵士が駆けつけてくる。


「姫、どこへ?」


聞き覚えのない少々低めの澄んだ声。横を見ると直立不動の姿勢のまま兵士が立っていた。ラミエルはその兵士と向き合う。


「はい。医務室へ」


笑顔で返答すると兵士は少々慌て気味で大丈夫ですか?と彼女の身を案じる。もちろんと言った面持ちで医務室へ進む。


先日、魔術増幅光(シルヴァンティア)がいきなり暴走した。城下街の機械が全て停止してしまい人々が城まで押し掛けてきたのだ。城の中央にはそれを制御する装置がある。だがそれを仕えるのは王族、オルヴィアの血を受け継ぐ者だけなのだ。

その暴走を抑えるために、ラミエルは立ち上がった。結局、暴走を止めることができなかったが一時的に抑えることには成功した。何もかも母の形見の光制輪(エルメティア)のおかげであるのだが・・・。



魔術増幅光(シルヴァンティア)とは空気中に存在する酸素に宇宙空間から降り注ぐ魔光(ヴァルト)が化合することでできる物質である。普通は目に見えないが濃度が高くなると肉眼でも見ることができる。

魔術増幅光(シルヴァンティア)は我々人間が生きるためには必要不可欠だ。世界中で今、魔術が生活の支えとなっている。近年、大人しかった魔物が凶暴化してきたため人々は魔術増幅光(シルヴァンティア)に頼らざるを得ないようになった。



廊下の角を曲がる。階段を下り、医務室が見えてきたところで一度立ち止まる。


(何故、急に魔術増幅光(シルヴァンティア)が暴走したのかしら・・・。徐々に魔光(ヴァルト)の濃度が高くなって、機械類がおかしくなったっていうならわかるのに・・・それに魔術増幅光(シルヴァンティア)が降り積もるなんてありえない)


一度考え込んでみたが考えてもしかたがないと思いラミエルは医務室のドアをノックした。ラミエルは案外サバサバしているのかもしれない。

美しい整った顔立ちの少女はそのまま吸い込まれるように医務室へと入っていった。


純白のカーテンが風になびいている。この一室は城のどこよりも空気が澄んでいる、とラミエルは思う。部屋の奥には白衣に身を包んだ老人-というにはまだ早いような容姿の医者-が立っていた。


「ウィルド、こんにちは」


ウィルドと呼ばれる医者は軽く頭を下げながら部屋の奥から包帯を取ってきた。

丁寧に、ゆっくりと本当に優しい手付きで先日受けた傷の手当てをしてくれる。ほとんど言葉は交わさなくてもウィルドの考えはわかっていた。無理はしないでほしい、ただそれだけだろう。


「外傷は見た限り深くありません。打撲と切り傷だけですがしばらく安静にしていてくださいね」


その言葉にラミエルは頷く。

ウィルドは10年以上自分の世話をしてくれた医者だ。肉体的な面でも、精神的な面でもいつも助けてくれた。友達がいなかったラミエルにとっていつも話し相手はウィルドであった。

まるで本当の祖父のように振舞ってくれたこともあった。それがラミエルにとって心の支えとなっていた。真正面から自分を受け止めてくれるウィルド。ウィルドのおかげで人に優しく接することの大切さを学べた。ラミエルの尊敬する人物の一人である。



自室に戻ろうとしたとき、何やら兵士たちが集う談話室が騒がしいことに気付いた。


(何かあったのかしら・・・?)


兵士たちのそばに寄ろうとしたとき、階段の下から叫び声が聞こえた。

思わず廊下の柱の陰に隠れてしまった。


「侵入者だッ!全員配置につけ!姫様を早く安全なところへッ!」


兵士たちの顔色が変わるのが遠目から見てもわかった。

(ここにいたら皆に迷惑がかかるッ)

兵士たちに誘導される前にラミエルは自室へと駆けて行った。


部屋の前で立ち止まる。後方に気配・・・否、殺気を感じたからだ。


後ろを振り返ると一人の青年が一本の剣を握り立っていた。

青年の後ろには城の兵士が倒れていた。


(まさか・・・皆を倒したっていうの?そんな・・・一体、どれだけの数を・・・)


静寂が辺りを包んだ。

窓の外では魔術増幅光(シルヴァンティア)が降り積もっていた。



















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ