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90話 どう動くか

 大型船であるアルケミアのブリッジ。

 多機能で本来なら大勢の人がいるはずのそこは、ファーナとルニウの他に、ちゃっかりセフィの姿もあった。

 なぜ集まっているのかというと、それはメリアから届いた音声通信のせいである。


 「メリア様からの短い通信には、タルタロスという惑星に向かうから出るためのお金を用意しろという言葉がありました。これをどう思いますか?」

 「はいはいはい、私はその惑星のこと知ってる」

 「では教えてください」


 ルニウが即座に手をあげるため、ファーナはルニウに説明するよう求めた。


 「えー、これは私がファリアス大学の学生だった時に学んだことなんだけども、惑星一つが刑務所というところ。ちなみに、表向きには凶悪犯とかが収監されているけど、中にいる囚人はそこそこ自由だったりする」

 「その理由はわかりますか?」

 「もちろん。クラスメイトだった貴族の一人から聞いた話によると……タルタロスってところはテラフォーミングをしている最中。でもテラフォーミングって、お金も人手も時間もかかる」


 そこで一度言葉を切ると、ルニウは意味深な笑みを浮かべてみせる。


 「ちなみに、タルタロスって惑星には全部で二億ちょっとくらいの人が暮らしてる。大半は囚人だけど。ここでクイズを一つ……」

 「結構です。早く続きを話してください」


 少しおふざけを交えてみせるも、ファーナにばっさりと切り捨てられるため、ルニウは不満そうに口を尖らせる。


 「少しくらい付き合ってくれてもよくない?」

 「メリア様はこれから凶悪犯たちの中に放り込まれるわけですが」

 「今までにやってきたこと考えると、メリアさんも結構な凶悪犯だと思う。ちょっとやそっとの相手なら返り討ちにしてしまうだろうから」

 「それはそうですが、その話よりも優先すべきものがあります」


 少し話は横に逸れてしまったものの、ここで一度軌道修正が行われる。


 「ええと、じゃあ、どうしてテラフォーミングが行われてるタルタロスが、監獄惑星なんかになってるかというと、それは囚人を労働力として使うため」

 「様々な費用の節約のためですか」

 「そうそう。最初は普通にやってたみたいだけど、いつからか囚人を投入するようになり、やがて監獄惑星として各地の厄介な犯罪者が送り込まれることに」

 「メリア様のことが心配になってきました……」


 状況が状況なため、割と余裕のないファーナであったが、その時セフィが口を開く。


 「ところで、その惑星から出るためのお金がいくら必要なのか調べることは?」

 「会話と並行していますが、距離があるのでわかるのは数日後になります。セフィも心配ですか?」

 「はい。心配は心配ですが、ただ種類が違います。このままでは犯罪者の娘という評判がついてしまうので、早急に解決しなくては」


 それは割と切実な問題だった。

 入学から一ヶ月も経っていないのに、書類上は親となっている人物が犯罪者となってしまったという出来事は、隠していてもやがて学園の中に広まってしまう。

 これでは困るということで、セフィはやる気に満ちていたのだが、そのやる気はなかなか踏み込みにくい部分に向かった。


 「まずは、すぐ使える資産がどれくらいあるのか確認を」

 「むむ、メリア様の資産については大部分を把握しているので、今後の活動で必須な分を抜いておくと……およそこれくらいになります」


 メリアの資産についての話題になったあと、人工知能としての性能を使ってあっという間に計算してしまうファーナ。

 出てきた数字を見て、セフィは少し表情を変えるだけだったが、ルニウはわざとらしく驚いてみせる。


 「うおおお! 私の予想以上に溜め込んでいる! というか遊んで暮らせる!」

 「それについては、わたしやルニウの給金とかもここから出ているからです」

 「ん? ということは、もしタルタロスから出るために資産すべてを使うようことになれば、しばらく給金無し!?」

 「そうなる可能性は高いですね」

 「んんん……とはいえ、メリアさんが出てこないことには始まらないわけだし、仕方ないか」


 お金は大事。しかしメリアのことはそれ以上に大事。

 そういう優先順位を決めると、ルニウはブリッジの中をうろうろと歩き始める。


 「とりあえず、メリアさんを助けるためにメリアさんのお金を使うとして」

 「足りるのならいいですが、問題は足りなかった場合です」

 「うーん……このメルヴ星系じゃ大きく稼げる仕事がないから、こつこつ稼ぐしかない。とはいえ、それじゃメリアさんが出てくるまでどれくらいかかることやら」

 「いいですか? 一つ考えがあります」


 その時、セフィは手をあげる。

 学園の制服姿なため、まるで質問に答える生徒のような印象を感じさせるが、それどころではない内容を口にする。


 「血の力を利用して稼ぐというのはどうですか? 具体的には、目的となる相手にこの血を接種させることで、お金に繋がりそうな様々なものを手に入れるわけです。奪うとも言いますが」

 「いやいや、私たちが犯罪者になってどうするの」

 「ちょっと昔は犯罪者だったのですから、少しだけその時に戻るだけです」

 「確かにそうだったけど、今は違う。そもそもそんな気軽に言うものじゃないって……」


 犯罪組織で生まれ、育ったからか、セフィは一般人とは異なる考え方を披露する。

 せっかく海賊から足を洗ったのに、再び犯罪者に戻るようなことはしたくないのか、ルニウはセフィの考えに対して首を横に振る。


 「とりあえず、どうするかはファーナが調べ終えてから」

 「確かにその方がいいです。犯罪はしないで済むならそれに越したことはありません」

 「それでは、この場は一度解散ということで。ルニウはいつも通り、なんでも屋の仕事を。セフィは真面目な学生として、問題を起こさずに頑張ってください」


 すぐには結論を出せないため、数日後になってから改めて行われることに。

 その間、これといった出来事はないものの、ファーナは少しずつ資材の購入と小型船の製造を進めていた。

 交易が活発なコロニーで最も安い資材を選び抜き、できる限り安く済ませているわけだ。


 「これ無人機?」

 「そうです。無人の戦闘機です。いざという時、手数が必要になることもあるはずなので」

 「手数ねえ。まあわかるけど、戦闘になった時点でやばいと思う」

 「それでも備えはしておくべきです」


 今はメリアの解放のため、あまりお金を使えないが、それでも打てる手を打っておくことを忘れない。

 それから数日が過ぎると、タルタロスにいるメリアを外に出すにはいくら必要なのかが判明する。


 「……ちょっと待って。これ本当?」

 「残念ながら」


 端末の画面上に表示される数字はかなりの桁があった。

 数百億という数字。これにメリアの保有する資産を比べる。


 「……と、届かない! 桁が違いすぎる」

 「これは困りました」


 とてもではないが足りないため、次はどうやって大金を稼ぐかという問題が立ちはだかる。


 「セフィちゃんの案を使うのは……血を抜かなきゃいけないのがちょっと」

 「では、真っ当に海賊でもしますか?」

 「それはそれであれなんだよね。でもメリアさんのためだし、手段を選んではいられないか」

 「どこを狙うかについてですが、これは海賊を対象にしましょう」

 「そうしよう。もし正規軍と戦闘することになっても大変だしね。それに、海賊同士の争いなんてありふれてるし」


 ファーナとルニウは、大金を稼ぐために一時的に海賊に戻ることを決断した。

 ただし、狙うのは一般人ではなく同業者たる海賊。

 各国の正規軍と戦うのは物量の差からして危険だが、海賊相手なら物量はそれほどでもないため質での戦いに持ち込める。

 元は一般人の財産とかもあるのだろうが、それについては気にしない。

 むしろ、危険な海賊を減らした代金として堂々と頂くつもりでもあった。


 「よし。なんでも屋は休業。これからは一時的に海賊」

 「まずは外観を変えるところからですね。なんでも屋に戻った時のことを考えると」


 さすがに学生であるセフィを海賊にするわけにもいかず、この行動はファーナとルニウだけで行われることとなる。

 内容については、学園から来たセフィに直接話して共有する。通信越しでは記録に残るため。

 そしてメルヴ星系から巨大な船が一隻いなくなったあと、海賊同士による争いが各国で少しだけ増える。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

感想や評価をいただけると嬉しいです。次回もお楽しみに。

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