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87話 形ばかりの復讐

 宇宙港というのは、様々な人々がいる。

 そのため、少し不審な行動をしてもあまり怪しまれない。


 「……方向は、こっちか」


 辺りを行き交う人々の雑多な賑わいに紛れる形で、宇宙服姿のメリアは金属質な通路を進んでいく。

 床には足音を抑えるための薄いシートが張り巡らされており、場所によっては傷んだ箇所を張り替えているのを見ることができる。


 「そこのお兄さん、ちょっと商品を見ていかないかい? 安くしとくよ」

 「いらない」

 「おっと、お姉さんだったかい。まあまあ、そう言わずに。こっちも色々長くやってきてるから、少し見れば相手がどういう人間かわかるのさ。お姉さん、あんたはそれなりに後ろ暗い世界で過ごしてきただろう」


 宇宙港の中でも、一般人が足を踏み入れない奥の部分。

 狭く、巡回する警備員の姿がほとんどないそこは、ガラの悪い者たちが集まっている。

 メリアが歩いていると、通路の端で商品を広げている露店商らしき人物に声をかけられる。

 明らかに宇宙港側の許可を取らずに販売されている怪しげな品物の数々。

 大半はなんらかの薬だが、他には分解された銃器も混じっている。


 「なら、しつこい奴がどうなるかについてもわかるはずだが。そもそも、性別すらわからないんじゃね」

 「うーむ、それを言われると返す言葉がない。あ、さすがに撃つのはやめてくれよ。この辺りは警備とかがあまり来ないが、銃声が響いたりすれば、代わりに武装した奴らがやって来る」


 これ以上は商売相手にならないと考えたのか、露店商らしき人物は、別の客を探すためにメリアから離れた。

 犯罪歴のある人物であっても、宇宙港までならそれなりに利用できる。

 惑星へ降り立つとなると、さすがに厳しさは増すのだが。

 海賊たちが利用する非公式な宇宙港とは違い、何かあれば厳重に武装した兵士がやって来るため、誰もが騒ぎを起こさないようにしている。


 「対象に動きはない。となると、あの建物の中……」


 しかし、メリアは違う。騒ぎを起こすためにやって来た。

 そこはこじんまりとした酒場であり、基本的に常連客だけで成り立っているようなところ。

 若い新顔の登場に、飲んでいた数人の視線が集まる。

 中にはこっそりと武器に手を伸ばす者もいたため、メリアは敵対する意思がないことを示しながら酒場のマスターがいるカウンターまで向かう。


 「おや、初めての顔だ。何か頼むつもりならヘルメットは外してもらおうか」

 「マスター。ここで何か起こるとして、それを見逃してもらうにはどうしたらいい?」


 メリアは、ビームブラスターに指を触れさせながら言う。


 「いきなりそれか。よくないお客さんだ」

 「お金をそれなりに払えるが」

 「なら、ここの常連に奢ってやってくれ。そのあと外に連れ出すなら、こっちは何も言わない」


 酒場のマスターが示す先にあるのは、高いお酒ばかり。

 メリアは振り返って常連客の方を見たあと、示されるお酒をすべて注文した。

 お金自体は渡された分がそれなりにあるため、全員に奢ってもだいぶ余る。

 そして端末の方を見ながら、反応が示す先へと歩けば、酒場の隅に寝転がっている男性の前へと立つ。

 そこそこ高齢なのか、髪は大半が白くなっており、手や顔には深いしわが刻まれている。


 「起きろ」

 「ぬうぅ……誰だ……」


 足で軽く小突くと、うめき声と共に起き上がるものの、彼の顔を見たメリアは少しばかり険しい表情となる。

 その目は白く濁っており、求められる機能を既に失っているのを理解したからだ。


 「少し、ついてきてもらいたい」

 「ずいぶんいきなりなことを言う。どういう用件かくらいは、教えてくれてもいいはずだが?」

 「ここじゃちょっとね。人が多い」

 「仕方ない」


 目は見えなくとも、この辺りの地形には慣れているのか、動き自体は一般人とそれほど変わりがない。

 関係者以外立入禁止となっている、メンテナンス用の通路に入ると、中では男女のカップルがいちゃついていたため、メリアは無言で出ていくように促す。

 ビームブラスターをちらつかせながら。

 そして余計な者がいなくなったあと、盲目の老人へと向き直った。


 「それで、どんな用件か教えてくれるかね? 若いお嬢さん」

 「モンターニュ家を知っているか?」


 その質問をした瞬間、老人はあとずさる。

 一歩、二歩と下がり続けるも、やがて動きは止まり、弱々しく呟いた。


 「知っている。それが最後の仕事になったから」


 言葉と共に示されるのは、白く濁った目。

 もはや使い物にならないそれは、一種の見せしめのようでもあった。


 「口封じ代わりにやられたか。どこの誰にされた?」

 「わからない。代理人を通じて仕事をこなしたあと、いきなりこれだ」

 「そうか、それは大変だったね。ところで、あたしはモンターニュ家の者だが」

 「……消しに来たのか。こんな有り様だが、それで気が済むならやればいい」


 帝国貴族を狙ったことで、既にある程度の覚悟はしていたのか、意外にも自らの死を受け入れる様子を見せる。

 メリアはビームブラスターを構え、引き金に指をかけると、もう一度質問をした。


 「他に言うことはないのか」

 「何を言えと? 目を潰されながらも短い余生を過ごそうとしていたところに、復讐をしにきた者がいる。いつかこうなると予想していたことが、こうして形になっただけだ」

 「……そうかい」


 相手がこれ以上何も言うつもりがないのを確認したあと、メリアは引き金を引いた。

 光線が老いた身を貫き、盲目の老人はあっという間に命を失う。

 そしてその直後、警報が鳴り響くと、数分もしないうちに武装した兵士がやって来るため、メリアはビームブラスターを床に投げ捨てて投降した。


 「なんのために撃った」

 「両親の仇を討つため」

 「なんだと?」

 「私はメリア・モンターニュ。モンターニュ家は既になく、ただ復讐のためにそうした」


 数日後には、宇宙港での小さな騒ぎは大きなものとなった。

 なにせ、既になくなっているはずの貴族の家の者が、復讐のために宇宙港内部で銃を撃ったからだ。

 宇宙港の担当者だけでは手に負えないと判断し、近隣の帝国貴族が呼び寄せられる。

 だが、その貴族が言うにはモンターニュ家は実際に存在していたとのことで、事態を把握した他の貴族がどんどん加わり、やがて皇帝の耳にも入るようになった。


 「近々、皇帝陛下が訪れる。嘘偽りなく答えるように」

 「わかりました」


 留置場の中、手足に枷をかけられた状態でメリアは答える。

 普通に考えるとまずい状況であるが、今のところ事前の筋書き通りに物事は動いていた。

 とはいえ、これは始まりでしかなく、本番は皇帝が到着してからだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] お話の都合とはいえ、簡単に殺人を展開しないで欲しい。
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