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83話 皇帝からの関心

 「止まれ。止まらなければ撃つ」


 居住区画までは近いものの、既に武装している近衛兵が通路に立ち塞がっていた。

 メリアは一番前に出ると両手を上げ、どこか困ったような表情を浮かべつつ演技をする。


 「お待ちください。こちらにおられるのはアスカニア伯爵にしてフランケン公爵でもあるソフィア様です。そして私は護衛として付き従う騎士であり、どうかそこを通ることを認めてもらえないでしょうか?」

 「……横のロボットは?」

 「ソフィア様の盾になる、ただのガラクタです」

 「ふむ……行っていいぞ。一部の例外は見逃すよう命令を受けているのでな」


 少しばかり怪しまれつつも、無事に居住区画へと到着する。

 既に人が集まっており、非殺傷設定ながらもビームブラスターを持つ者ばかり。

 内部で戦闘が起きているからか辺りは非常にピリピリとしていた。

 ソフィアのことはいくらか知られているのか、労働者の代表らしき男女が数人やって来る。


 「我々はいったいどうすればいいのですか?」

 「皇帝陛下が自ら兵を送り込むだなんて……」

 「皆さんには、生き残るためにアスカニア家の騎士になってもらいます。特例として、アスカニア家の者と騎士は見逃してもらえるとのお言葉がありましたから」


 ソフィアがそう宣言すると、ざわめきで辺りは騒がしくなる。

 だが、疑問をぶつけたりする者は出なかった。

 現在進行形で警備員と近衛兵による戦闘は発生しているため、生き残る手段がそれしかないことを理解していたのだ。


 「他の区画には、どれくらい人がいますか?」

 「民間人は全員ここにいます。あとは、他の宙域に建設途中のところがありますが」


 居住区画は一つの町と呼べる規模であり、様々な機器で宇宙空間を見ることもできる。

 すぐに確認が行われるが、幸か不幸か、皇帝の艦隊は他のところへは向かっていなかった。

 それはつまり、今いるところを重点的に攻めていることに他ならないわけだ。


 「騎士メリア、わたくしはどうすればいいと思いますか?」


 大勢の前だからか、ソフィアは演技をする。

 騎士でもなんでもないメリアも、周囲を見てから相手に合わせた。


 「どう、とは? 我々の命はひとまず保証されています。ここの民間人も含めて」

 「しかし、他の宙域にも大勢の人がいます。皇帝陛下がそちらへ攻撃しないとも限りません」


 それは懸念すべき事柄だった。

 スフィアという巨大な建造物は、恒星を囲むために複数の場所で同時に建設が進められていたが、まだ途中なこともあって繋がっておらず、それぞれ別々に宇宙を漂っている。

 当然、別々となったところにも人が大勢いるため、ソフィアは困ったような様子でいた。

 それを目にしたメリアは、少し顔をしかめながら言う。


 「いっそのこと、皇帝陛下へ直接尋ねるというのはどうでしょう? 公爵位を相続しているソフィア様ならば、問題ないかと」


 伯爵であるエルマーでも繋いでもらえたのだから、公爵であるソフィアならばほぼ問題ない。

 その提案を受けて、早速通信をするのだが、画面上に映る皇帝はため息と共に話し始める。


 「何が言いたいか予想できているが、聞くだけ聞こう」

 「わたくしの叔父が亡くなったあと、皇帝陛下はどうされるのですか」

 「残る部分を制圧する。遠くに見える場所も含めて」

 「それをやめてもらうことは可能でしょうか?」

 「さて、どうしたものかな」


 横暴な振る舞いをし、それに振り回される者の姿を見て、どこか楽しむような表情を浮かべる皇帝であったが、通信画面にメリアが映っているのを目にすると、楽しむような表情は消えて真面目なものとなる。


 「そこの茶色い髪をした女性は何者であるか。それを嘘偽りなく答えるなら、リープシャウ伯爵の死だけで済ませよう。元々は伯爵家すべてを潰すつもりであるが、ほんのわずかな犠牲で済む」

 「アスカニア家の騎士です」

 「幼い時から、見え見えの嘘を口にするのはやめておくべきだ。改めて質問をしよう。そこにいる女性は何者であるのか?」

 「……相談する時間がほしいので、またあとで通信をしても構いませんか?」


 どう言えばいいか迷ったソフィアがそう言うと、皇帝は自らの口に手を当ててなにやら考え込み始めた。

 とはいえ、それは数秒ほどで終わり、皇帝は大きく頷いた。


 「よかろう。リープシャウ伯爵をどうにかしたあと連絡を入れる。それまでに決めておくように」


 通信が切れた瞬間、ソフィアは緊張の糸が切れたのか、崩れるように床に座り込む。


 「うぅ、緊張しました。それで、どうしましょうか?」

 「……言う以外の道はなさそうだがね」


 皇帝と通信を行うため、一時的に民間人からは離れていた。

 なので少しは演技をやめる余裕があるわけだが、メリアは舌打ちをしたあと、ため息をついた。


 「あたしの顔を見た瞬間、皇帝の雰囲気が変わった」


 帝国の皇帝という立場にある者がそうする理由は何か?

 明らかに、大昔の皇帝のクローンであることを知っているような素振りだった。

 あるいは、クローンを生み出す計画自体に関わっているのではないか。

 考えれば考えるほど、ろくでもない状況なのが理解できてしまい、メリアは顔をしかめた。


 「メリア、さん。あなたにお願いしたいことがあります。死ぬ人を減らすために、皇帝陛下へあなた自身のことを話してください」

 「……ほぼ確実に捕まって監禁されそうだが」

 「その場合は、フランケン公爵としての立場を使って、どうにか監視付きながらも自由の身になれるよう取り計らいますので」

 「はぁ……まあ、殺されないならやりようはあるか」


 気乗りはしないものの、自分だけ逃げ出すことは難しいため、消極的ながらも認めるしかなかった。

 宇宙船の停泊している区画に向かうには、モノレールに乗る必要があるが、既に近衛兵たちが出入口を押さえているため向かうに向かえない状況であるのだ。

 そしてソフィアは次に、今かなり忙しいであろうエルマーへ連絡を取った。


 「……どうした? 私は資産の権利を移したりとかで忙しい。リープシャウ家はお取り潰しとなり、資産の大部分は帝国のものになる。その前に少しでも外国にいる遠縁の者に相続できるよう手を回しているのだが」

 「こちらにいるメリアさんが、皇帝陛下に何者であるかを話すことにより、叔父上だけの死で済むそうです」

 「非常に複雑な気分だな」


 複数の感情が混ざった様子で苦々しげに言うエルマーだったが、メリアの方を見ると表情を戻した。


 「因果なものだな。皇帝ならば、一目見ただけである程度予想できてしまうか」

 「せめて死なないといいんだけどね」

 「そこは大丈夫だろう。作られた中で唯一の生き残りだからな」

 「……それはそれで心配な部分がある」

 「ふん、皇帝直々に死を宣告されるよりはマシだろう」

 「もう会えないだろうから、死を宣告された伯爵様に言うことがある。その顔に一発、拳を叩き込んでやりたかったよ」

 「銃弾が叩き込まれるだろうから、それで我慢しろ」


 お互い良い印象があるとは言えなかったが、死が間近に迫ると、言えないことを言いやすくなる。

 メリアの言葉に、エルマーは肩をすくめたあと、ソフィアの方を見てから軽く目を閉じた。


 「帝国貴族というのは、色々な恩恵があるが、時にはこういう終わりもあり得る。皇帝を恐れて親皇帝派となるのか、あるいは不満に思って反皇帝派となるのか。私が死ぬまでの間に決めておくことだ」

 「わかりました」


 そのやりとりのあと、通信は切れる。

 そしてそれが、エルマーとの最後の会話となった。

 旧式の艦隊や設置された砲台は、苛烈な反撃を恐れて運用できず、スフィア内での銃撃戦が主なものとなる。

 ガードロボや各種タレット、さらには騎士の操縦する機甲兵によって、エルマーが指揮する警備部隊は、皇帝の近衛兵相手に十時間近く持ちこたえる。

 だが、戦力差からやがて抵抗は破綻し、エルマーが死んだことが広域通信によって伝えられる。


 「それなりに抵抗したけど終わった。今度はあたしの番、か。ファーナは公爵様についていけ。皇帝に捕まって調べられたら、解体されるかもしれない」

 「それだと、いざという時に助けることができません」

 「そのために宇宙を駆けずり回れ。ルニウと一緒に」

 「セフィのことはどうしますか?」

 「学校の費用とかはアンナが出してくれるから、そこまで心配はいらない。血の能力を使わないことを願うだけだよ。あとはまあ、学園の伝手を利用できる可能性がある。あそこはクローンを作った関係者がいるらしいから」

 「忙しくなりそうです」


 やがて皇帝からの通信が入る。

 民間人に聞かれては困るため、ファーナに見張りをしてもらいながら、メリアとソフィアはそれに出た。


 「返事を聞きたいところだが」

 「それにはあたし自身が答える。かつて帝国貴族のモンターニュ家の養子だった。名前はメリア・モンターニュ」

 「……続きを」

 「そして大昔の皇帝である、メアリ・ファリアス・セレスティアという人物のクローンでもある」

 「やはり、か。ひとまず来てもらうぞ」

 「丁重な扱いをお願いしたいね」

 「それとソフィアとやらに命じておく。今聞いたことは、自らの内に留めるように。もし他に漏らしたなら、広い範囲に処罰が下される」

 「……はい」


 少しして近衛兵がやって来ると、メリアのことを呼び出す。

 拒否することはできないため、メリアは一人で前に進み出ると、厳めしいパワードスーツに身を包んだ近衛兵と共に、非常に大きな宇宙船へと乗り込んだ。

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