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81話 公爵となった少女

 「全員揃っているようでなにより。メリア社長、少しお話をしたいのだがいいかな?」

 「……どんなお話なのやら」


 エルマーはいくつかの酒瓶を持ち込んでおり、一つの栓を抜いてグラスに注ぐと、メリアへと差し出した。


 「口を湿らせるものがいるだろう?」

 「せっかくの高そうなお酒だけど、いらないよ。宇宙船を操縦している身なんでね」

 「おっと、飲酒運転になるか。とはいえ、既に開けてしまったことだし、一人で飲むことにしよう」


 一気に飲むのではなく、一口か二口ほど味わったあとグラスを置いた。


 「そういえば、気になることがありましてな? 帝国と星間連合で活動しているオラージュという組織が存在するのだが、なにやら動きが縮小している。主に密輸をしているところで、弱小な貴族やあちらの有力者との繋がりがあるため、捕まえるだけでもやや面倒な組織だ」

 「……犯罪組織の活動が縮小しているなら、喜ばしいことでは?」


 メリアは、いったい自分になんの関係があるんだと言いたげな様子で言い返す。

 実際には関わりがありすぎるのだが、それを隠した態度で。


 「まあ、待ちたまえよ。ここから面白くなってくるのだから。そのオラージュでは内部での争いがあったようで、実行部隊となる者が大勢死んだ。ブラッドと呼ばれる薬物を巡るものと聞いているが、なんとそれには民間人も関わっていたらしい」

 「…………」

 「心当たりがあったりはしないか?」

 「さあ? なんでも屋の仕事をしていたので、犯罪組織と関わっている暇なんてありません」


 相手はいったいどこまで知っているのか。

 素知らぬ顔で答えるメリアに対し、エルマーは軽く息を吐いてから中身の入ったグラスを持つ。


 「宇宙というのは広く、通信技術が発達しようとも、遠くで何かあっても全容を知ることは難しい。社長が知らないと言うのであれば、それを信じるしかないわけだ」


 これ以上話が進展しないのを悟ると、エルマーはフリーダを呼びつける。


 「君の主と、そこにいるお客人が話をする間、飲むのに付き合え」

 「皆様の護衛をする必要があるので、飲酒はお断りさせていただきます」

 「やれやれ、それではのんびりと待つしかないな」


 部屋の隅に移動したあと、自分のことは気にするなと手を振り、端末を起動して画面上に何かを書き込んでいく。


 「あれは何を?」

 「領地に関することを処理しているのだと思います。叔父上は、リープシャウ伯爵領だけでなく、フランケン公爵領についても色々と行う立場にありますから」


 ソフィアはまだ十歳と幼く、貴族として領地の経営をするには何もかもが足りない。

 油断していると領地を狙う他の貴族に食い物にされてしまう。

 エルマーは、そんな姪を陰から支える叔父として振る舞っているわけだ。


 「まあ、それで上手くいっているなら、あたしから言うべきことはない」

 「それでは、次はわたくしとのお話なわけですが……」


 何が気になるのか、ソフィアはメリアの全身を眺める。

 上から下まで、たっぷり数十秒ほどかけて、ようやく視線は離れた。


 「なんだい」

 「変装した時の姿と、今の姿を比べると、とても興味深いなと思いました」

 「……そりゃあね、自分で言うのもあれだけど、美人ってのはそれだけで目立つ。なら少し印象が変わるようにすれば、骨格を弄ったりとか特殊メイクとかをしなくても別人になれる」

 「そうなのですね」


 うんうんと頷くソフィアと、そんな彼女を心配そうに見つめるフリーダ。

 主が主なので、従者もなかなかに苦労している様子。


 「そういえば、叔父上は社長と言っていました。そしてあなたは、なんでも屋の仕事をしている。昔は海賊だったのに」

 「……足を洗って一般人として暮らすことにしたんだよ。いつまでも海賊稼業なんて続けられない」

 「悪いことして稼ぐというのは、なんだかんだ長続きしますよ? 根回しは必要ですけど」

 「待った。どこでそういうのを学んだ」

 「叔父上からです」


 その言葉を受けて、メリアはまずフリーダの方を見る。


 「わ、私は、一介の騎士という立場でありまして」

 「はぁ……」


 使えない従者だなという視線をぶつけたあと、次にエルマーの方を見た。


 「おや、そんなに睨まれると怖いな」

 「まだ小さい子に、なんてことを教えてやがるんだ」

 「荒い言葉は控えてもらいたい。どうして教えたのかについては……帝国の貴族であるから。しかも公爵だ。このような年齢の時から、帝国の汚ならしい部分を教える必要がある」

 「……理屈としてはわかるけどね、数年遅らせてもいいんじゃないのかい」

 「それについては君が悪い。海賊という刺激的な存在に関わり合うことになったせいだ」

 「誰かさんが、相続に関してろくなことを企んだりしなければ、海賊の出番はなかったわけだが」


 今は争ってないだけで、もし何かあれば争う関係になるかもしれない。

 そんなメリアとエルマーの二人は、しばらく睨み合うも、この場にソフィアがいることからお互いに視線をずらした。


 「今、我々が争うことは無益だと思うが」

 「同感だね。個人的には、その顔に握り拳を叩き込んでやりたいと思っているけれど」

 「ははは、それは怖いな」


 エルマーとの話を途中で切り上げると、今度はソフィアとの話に戻る。


 「叔父上は胡散臭い人ではありますけど、今は手助けしてくださっているので」

 「貴族でもなんでもないあたしが口を出しても仕方ないか」

 「ところで質問があります」


 どこかウキウキとした様子でいるソフィアに、メリアは少しばかり嫌な予感がしてきた。


 「どんな質問?」

 「なんでも屋の仕事というのは、どのようなことをしてきたのですか? 会社を立ち上げてからそこまで経っていないはず。ぜひとも、最初の仕事から今に至るまでをお聞かせください!」

 「仕事、ね。最初は、軌道エレベーターの建設現場に送り込まれる輸送船の奪還というのを受けた。運ばれていたのは、数日分もの大量の食事」

 「おおー、食べ物は大事ですからね。お腹が空いてはやる気も出ません」


 メリアが仕事についての話をすると、ソフィアは茶色い目をやや輝かせながら興味津々な様子で耳を傾ける。


 「輸送船の中には大量のミールキットと嗜好品があって、取り戻した時には少しだけ海賊に食べられていたものの、とりあえず無事に建設現場に送り届けることができた」

 「それで次はどんな仕事を?」

 「採掘基地の建設のため衛星に海賊が潜んでいないか調査したり、時には医薬品を運ぶ輸送船を護衛したりとかだね」


 セフィを預かったことについては隠したまま、メリアはなんでも屋として受けた仕事を語っていく。


 「どれも荒事の類いのようです。もっとほのぼのとした仕事とかはありませんか?」

 「稼ごうとすると、どうしても危険なものになりやすい。それに、結構強いから」

 「確かに。豪華客船を襲ってきた海賊を一人でバッタバッタと薙ぎ倒してました」

 「あれはそこまで簡単に薙ぎ倒してはいない。それに途中からは騎士たちに任せたわけで」


 メリアがフリーダの方をチラリと見ると、フリーダはやや慌てた様子で話に混ざる。


 「んん、あの時は大変でした。格納庫の機甲兵に乗り込む前、そして乗り込んだあとの両方で海賊と激しい戦いを繰り広げましたから」

 「そうそう。騎士のおかげでどうにかできた部分もある」

 「それはそうなのですが」


 一通り話したあと、ソフィアは次にファーナを見つめる。

 ここに来てからずっと黙ったままでいる姿を目にすると、豪華客船での饒舌な時を思い出しているのか、ゆっくり近づいてから指先でつんつんと突っついた。

 主に顔を。


 「頭部は人間みたいです。そこ以外はロボットに見えるのに」

 「全身を人間に見えるようにするのは法律が許さないのと、そもそものお金という部分が」


 話している間にも、ソフィアはファーナのことを弄っていく。

 今度は頬をつまむと、軽く引っ張ったりする。

 なお、好き放題されているファーナはというと、明らかに我慢している様子であり、どうにかするよう抗議の視線をメリアに送っていた。


 「実は、わたくしも護衛用のロボットを導入しようかと考えていました」

 「いないのを見る限り、諦めたようだけれど」

 「戦闘に備えるとなると、やはり騎士の方が信頼が置けます」

 「そうでしょうとも。昔から訓練などを重ね、いざという時の判断力も鍛えてありますので」

 「騎士フリーダ、少し静かにして。豪華客船の時は捕まってたでしょ」

 「そ、それは」


 主から静かにするよう言われ、騎士であるフリーダは複雑そうな表情のまま黙り込む。


 「ええと、それでさっきの続きですけど、人に似せたロボットというのは、ちょっと扱いに困る部分が多くて」

 「というと?」

 「単純に、整備とかでお金がかかります。あとは、搭載できる人工知能の性能が微妙なせいか、人間よりも柔軟な判断ができません」


 色々と問題点を語っていくソフィアであり、それを聞いていたファーナは、メリアにだけ気づく程度に笑みを浮かべたりした。

 このままとりとめのない話が続くかと思われたその時、領地関係の処理をしていたエルマーが驚いたような声を出す。


 「……馬鹿な、こんな予定は」

 「何か厄介事が起きたか」


 メリアが声をかけると、エルマーは大きく頷いて同意する。


 「とてつもないものがな。二時間後、このシュネトラム星系に皇帝陛下が訪れる」

 「…………」

 「言葉も出ないか。元々の予定は数日前だったのだが、面倒だからという理由で代理の者がやって来た。まさか、今になって皇帝陛下本人が訪れるとは」

 「理由は思いつくか?」

 「さっぱりだ。とりあえず、じっとしてくれるとありがたい」


 ワープゲートまでは、だいぶ距離があった。

 二時間では到着できず、もし違う星系に移動しようとしているところを見つかってしまうと、皇帝の目の前ということもあって、帝国そのものに追われる可能性がある。

 皇帝という嵐が過ぎ去るまで、おとなしくするしかなかった。

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