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80話 巨大な建造物にて

 帝国内部に入ってからは、エルマーの言う通り退屈な時間が過ぎていった。

 移動に次ぐ移動。

 推進機関はほぼ最大まで加速させ続け、途中でいくつかの星系を素通りすることになる。

 睡眠する間も常に加速させる必要があるほどという状況に、メリアは険しい表情を浮かべた。


 「ファーナ、あたしが寝ている間に異常は?」

 「ありません。あのエルマーという人の率いる艦隊の数が少し減ったくらいです」


 常に最大付近まで加速させ続けることは、推進機関などに大きな負担を与えることに繋がる。

 ついてこれずに離脱する船がちらほらと出始めているわけだが、そんな報告を受けてメリアは軽く息を吐いた。


 「……明らかに普通じゃない状況なわけだが」

 「何かさせるつもりかもしれません」

 「やれやれだね。あまり変なことに巻き込まれないことを願うしかない」


 二日が過ぎると、とある星系の中で艦隊は停止する。

 そこは巨大な恒星と、いくつかの惑星が存在するものの、すべて居住不可能な無人の惑星だった。

 それだけならまだしも、恒星の周囲には謎の物体が存在していた。


 「さて、目的地に到着した。ここはシュネトラム星系だ。ところで、その船はいささか古い代物に見えるが、脱落せずについてこれたということは中身は定期的に更新してあるな?」

 「そうしないと、色々と危ないので」


 シュネトラムと呼ばれる星系に到着してすぐにエルマーからの通信が来るが、メリアは当たり障りのない答えだけで済ませる。


 「まあそれはともかく、だ。あの恒星を目にした第一印象は?」

 「眩しいですね、とだけ」

 「おいおい、もっとあるだろ? ほら、周囲に」


 わざとらしいエルマーの態度が少し鬱陶しく感じてきたメリアだったが、露骨に表に出すとそれはそれで問題になるので、今はなんとか我慢した。


 「……なにやら、工事しているようです。恒星が巨大なせいでわかりにくいですが、コロニーより大きい建造物に思えます」

 「ふむ。それが一般人の感想といったところか。それと、別に演技はしなくても構わない。そちらも疲れるだろう?」

 「……そろそろ本題に入ってほしいんだが。ここに公爵様がいるってのかい」

 「ああ。恒星の周囲に浮かぶ建造物。そこにソフィアはいる」


 操縦室のスクリーンに映し出される謎の建造物は、移動していくうちに、他にもあることが判明する。

 位置的に、恒星を囲もうとしているのがわかるが、その段階になってメリアは何かに気づいたのか、顔をしかめてからエルマーへ通信を行う。


 「とんでもない代物を作るようだけど、上手くいく見込みはあるのか」

 「ようやく気づいたか。今はまだ、実験的に作ってるだけに過ぎない。とりあえず、細かい話はあの中でしようじゃないか」


 宇宙船の通信でだらだらと話してもしょうがないため、まずは恒星の周囲に存在する建造物へと向かうことに。

 それは遠い時はわかりにくかったが、近づけば近づくほどに、巨大であることを実感できてしまう。

 学園コロニーはかなりの大きさだったが、目の前に存在する建造物はそれ以上。

 無機質な壁面には六角形の継ぎ目が規則正しく存在し、遠くで作業している機械を見ていくと、モジュール式になっているのを組み合わせていくだけ。

 カメラをズームさせれば、なにやら指示を出している人の姿を見ることができた。


 「メリア様、これはなんでしょうか?」

 「あたしも詳しいことは知らない。恒星からのエネルギーを効率よく利用するための、コロニーとは違う人工的な建造物。としか言い様がない」

 「大きいですね。およそ百メートルくらいの六角形のブロックが、大量にくっついてます」

 「まあ、これだけの大きさがあるなら、内部で過ごしても不自由しなさそうだね」


 エルマー率いるリープシャウ家の艦隊が大きな宇宙港部分に入っていくので、案内に従ってヒューケラも中に入って停泊する。

 建造物内部へは、船を専用通路にドッキングしてから入ることになるが、かなりの低重力なので移動には気をつける必要があった。


 「恒星を囲むように配置されてるわけですか。壁みたいな感じです」

 「……なんでついてきてる」

 「護衛です。人前では無口なロボットでいるのでご安心を」


 あまり安心できないが、監視カメラに映ることを考えると揉めるのは避けた方がいい。

 宇宙服の通信機能で会話を済ませたからか、今のところファーナは無口でおとなしい少女型のロボットに見えなくもない。

 少し通路を歩くと、見覚えのある女性が立っていた。


 「フリーダ・セレウェルと申します。メリア・モンターニュ殿、ここからは私がご案内いたします」


 青い髪と目をしている彼女は、アスカニア家に仕えている騎士であり、メリアがソフィアを帝国の首都星に送り届けた際、顔を合わせている。

 そのせいか、何度かチラチラとメリアの顔を見たあと、やや挙動不審な様子となる。


 「何か言いたいことがあるならどうぞ」

 「……いえ、ここは監視カメラなどが色々ありますので」


 気になることは多いが、記録に残ることを考えると質問できないらしく、フリーダはしばらく無言のまま歩いていく。

 途中、内部を移動するためのモノレールに乗り込むことになるが、窓から見える光景はメリアを少しばかり驚かせる。


 「これはまた……ずいぶんとまっさらな……」


 巨大な六角形のブロックの内部は、何もなくスカスカな状態であったのだ。

 一応、作業用機械が点在しているものの、これといって何かを作っているわけでもない。

 そんな驚きに対してフリーダは横から言う。


 「ここシュネトラム星系は、人類が居住不可能な惑星しかなく、それゆえに恒星を利用した実験を行う許可が出され、スフィアと呼ばれる巨大な建造物を作成することとなりました」

 「外から見たところ、進捗はほんのわずかのようだけども」

 「……お恥ずかしながら、安く仕上げるために内部は手を抜いているのですが、それでもわずかしか進んでいないのが現状でして」


 恒星というのは巨大であり、その周囲を囲もうとするなら、かなりの資材が必要となる。

 当然、各種費用も膨大なものとなるため、形だけでもそれらしくなるには、数百年ほどかかる見込みであるという。


 「ところで、これを建造しているところがどこなのか教えてもらうことは?」

 「エルマー様が当主のリープシャウ家です。最近になって、ソフィア様のアスカニア家が加わりました」

 「へえ? それはまた……」

 「シュネトラム星系はリープシャウ家が所有しており、そのせいで他の貴族からの支援は少ない状況にありました。……幼くして公爵位を相続したソフィア様を支える見返りとして、エルマー様はアスカニア家に資金などの援助を求めました」

 「なるほど。だから、あの時あんなにあっさりと……」


 姪を殺して公爵位を手に入れようとした。

 しかしそれが不可能になると、殺そうとしていた姪を積極的に支える方向に変化する。

 敵対していた相手にすぐさま取り入るエルマーは、ある意味典型的な貴族であり、人の生き死にをただの手段として考える厄介な人物。

 とはいえ、今は味方であるため、メリアは無言のまま頭を振るだけで済ませた。


 「こちらへどうぞ。あそこから先は、労働者などの居住区となっておりますので、案内なしに立ち入らないようにしてください」


 スフィア内部を移動するモノレールが止まった先は、ちょっとした町が存在している区画。

 その中でもやや高級そうな建物に向かうと、危険物がないか専用の機械で軽く調べられたあと、奥へ移動する。

 ファーナに関しては、ソフィアかエルマーに通すように言われているのか、特に調べることのないまま通される。

 エレベーターで上の階層に移動し、ホテルのような通路を進んだ奥の部屋にソフィアはいた。

 結んだ茶色い髪をプラプラと揺らし、端末の画面を退屈そうに見ていたが、人が来たのに気づくと顔を上げた。


 「ようやく来てくれましたね。連絡したのに無視するなんてひどいとは思いませんか?」


 ソフィアが開口一番に切り出した言葉は、メリアとしてはあまり言い返すことができない。


 「せめて連絡の一つだけでも入れるべき。違いますか?」

 「……当時は色々と仕事が立て込んでいまして」

 「言い訳は聞きたくありません」


 これは困ったといった様子でメリアが黙っていると、ソフィアは何が楽しいのか笑みを浮かべる。


 「怒ってはいません。ただ、ちょっと困る顔を見てみたかっただけです」

 「……そうですか」

 「お久しぶりです。今の姿があなたの本当の姿なのですか? あ、この部屋には監視カメラのような物はありません。なので正直に話しても大丈夫です」

 「今の姿が、変装のない姿ではある。服装と髪型を変えれば、だいぶ別人のようにできるけれど」


 久々の再会ではあるが、救助した時と比べると少しおふざけを交えるようになっていた。

 それは喜ぶべきか面倒に思うべきか悩ましい。

 だが、久々の再会はすぐに終わる。

 エルマーもやって来たからだ。

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