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76話 セフィの今後について

 共和国と星間連合の領域が接する星系はいくつもあるが、その中でも星間連合側の一つにおいて、メリアはアンナから示された座標へと向かっていた。

 だが、その顔はどこか険しい。


 「メリア様、どうかされましたか?」

 「向かう場所がね。よりによってそこかと言いたい」


 基本的に人類は星系内部で活動しており、他の星系へはワープゲートを使って移動する。

 普通に飛んでいくことは、何光年もの距離があるせいで不可能であるがゆえに。

 人類の活動範囲から外れ、ワープゲートに頼ることのできない深宇宙。

 そこは一歩間違えれば永遠に放浪してしまうような場所。

 アンナと会う必要があるとはいえ、できるなら避けたいという気持ちがメリアにはあった。


 「人類が宇宙に出てから千年以上。それでもまだワープゲートに頼らないと長距離を移動できない。未知の領域を開拓するため、いったいどれだけの者が送り込まれて、結果を出せず宇宙に消えていったか」

 「宇宙船とワープゲートを合体させた船というものは」

 「あるよ。一億か二億ほど。一般向けに出ている情報は限られてるから正確じゃないけど」

 「結構ありますね」


 ワープゲートが設置してある場所同士なら、簡単に移動できる。

 しかし、ワープゲートのない場所へ開拓を進めるとなると、普通に船を向かわせるしかない。

 かつては船員をコールドスリープさせた船だが、今はワープゲートを合体させた船を送り出している。

 億を超える数に、ファーナは驚いてみせるが、メリアは頭を横に振る。


 「それだけの船やワープゲートを投入して、これといった成果は百年に一回あるかないか」

 「……かなりのお金の無駄に思えます」

 「とはいえ、そのおかげで人類は広大な領域を手中に収めた。宇宙に出た当時は、一つの恒星に一つの星系というところから始まったのを思えば、先人の苦労には感謝しておこうと思える。まあ、そのせいでワープゲートは一般には出回らないんだが」


 需要が供給を上回っているため、ワープゲートというのは国家が管理している。場所によっては共同で。

 特に、修理用の部品を揃えるだけでも大変なため、一般に出回ることは最低でも百年以上は先だろうというのが、メリアの見立てだった。


 「ところでメリア様。ワープゲートその物を盗んだりとかって」

 「大昔、そんなことを考えた大きな海賊があったよ。結果は、すべての国が協力して叩き潰した。見せしめの意味もある」

 「見せしめ、ですか」

 「ワープゲートってのは、人類が広大な宇宙を移動するために必須の代物。それに手を出すとなると、国どころか文明の維持にも影響が出てくる。……子どもの頃、帝国の教科書にそう書かれていた。似たようなことは、共和国や星間連合の教科書にもあるはず」

 「意外と重要なようです」

 「だから、色んなところにあるワープゲートは無事なわけだ。どんな悪党でも手を出さないから」


 話しているうちに、指定された座標へと到着するが、周囲にはそれらしい船は存在しない。

 とりあえず数分ほど待っていると、映像通信が入ってくる。

 出てくるのは、ちょっとおめかしをしているアンナであり、その姿を見た瞬間メリアはわずかに苛ついた。


 「ごめんね。船は光学迷彩してて見えないと思うけど、こちらとしてもあなたたち以外の誰かに見つかるのは不都合があるの」

 「はいはい。バッチリ着替えておいてよく言うよ」

 「だから、光学迷彩を維持したままドッキングしたいわけ」

 「とのことだが、ファーナ」

 「問題ありません。ただ、怪しまれないようにとなると、少し準備が必要ですね」


 準備自体は簡単なものであり、少しするとアルケミアの船内にアンナはやって来る。

 まるでパーティーに向かうかのようなドレス姿の彼女は、まずセフィを目にしたあと、メリアの方へと近づいた。


 「あの子を預かってくれて感謝してるわ。こっちも色々と落ち着いてきてね」

 「お礼は、言葉よりも物で。ちょっとオラージュという組織と戦闘することになった。なんとか切り抜けたけど」

 「あらら、帝国と星間連合で活動してる大きいところと? 無事でよかった」


 そう言いながらアンナは抱きしめようとするも、メリアはすぐに察知すると回避した。


 「おっとっと……避けるのってひどくない?」

 「過剰なスキンシップは拒否する」

 「待ってちょうだい。過剰なスキンシップというのは、ベッドの中でお互い一糸纏わぬ姿で……」


 ボフッ


 アンナの言葉を封じるため、メリアは近くにあったティッシュの入った袋を投げつける。

 それは顔に命中し、ひとまず余計な言葉を中断させることに成功した。


 「うぅ、痛いわ」

 「箱の奴じゃないからそんなに痛くないだろ」

 「それはそうだけど、私に対する態度がひどいせいで心が痛い」

 「ひどくなる言動をするのが悪い。さっさと本題に移れ」

 「とほほ……それじゃ本題だけど、まずはこれまでの生活で血がどうなっているか確認したい。良いかしら?」

 「セフィ」

 「どうぞ。ただし、取りすぎるのはやめてください」


 注射器によって、セフィの腕から少しだけ血が採取されると、アンナは手のひらに数滴ほど垂らしてから舐める。


 「うーん、これといった異常はなし。ただの血になったと言える。念のためにメリアも確認してくれる?」

 「気が乗らないが、複数人での確認は必要か」


 他人の血を舐めることは正直したくないメリアだったが、自分の手のひらに落ちてくる血を見つめたあと、覚悟を決めて口にする。


 「……幻覚とかはない。この血は、薬物としての価値を失った。今のところは」

 「薬抜きの生活でも問題はなさそうなのが判明したところで、大事な話があるわ」

 「セフィをどうするか」

 「そう。私の方でこの子の経歴を洗浄してから、親のいない子ども向けの機関に預けるか。あるいはあなたが面倒を見るか。その場合でも経歴の洗浄はするけどね」

 「こういうのは本人に聞いた方がいい」


 セフィに視線が集まると、彼女は周囲を見回したあと口を開く。


 「ここに残ろうと思います。退屈しなさそうなので」

 「ふーん? 私としては本人の意思を尊重するけど、色々と大変よ? なにせ普通じゃない人だから」

 「どこであっても大変でしょう。生まれの問題以外に、もしかすると再び狙う者が現れないとも限りません」

 「そうね。狙われることを考えると、メリアのところにいるのが良いかも」


 一通り話が済んだあと、アンナは栗色をした髪の毛を一纏めに束ねてから端末を取り出す。


 「それじゃ、次はセフィの経歴を新しく作るわけだけど。保護者の方々もちょうどいるわけだし、この場で作成しちゃう」

 「そうかい。どんな感じにするつもりなのか、大まかな部分を聞かせてほしいね」

 「とりあえずは……親の顔を知らない捨て子で、孤児向けの施設で育った。そして十五歳になってから少しして、養子として引き取る人物が現れたってところ」

 「……ルニウ、引き取る人物になれ」

 「いや、待ってくださいよ。この流れだとメリアさんがその役目を負うべきです」


 セフィを養子として引き取ることに対し、メリアとルニウの間で少しばかり揉める。


 「そもそもですよ? 私は二十歳、セフィちゃんは十五歳。色々と無理があるわけです。姉妹ですよ姉妹。その点、メリアさんは二十五歳なので、まあ養子を取ってもギリギリなんとかなるわけで」

 「くっ、年齢的な問題が出てくるとは。アンナ」

 「駄目よ。本人が残ると言ったのに。それに、私の職業的に弱みになるような繋がりを持ちたくないの。どこからどういう風に辿られるかわからないから」


 メリアの味方はいなかった。

 しかしながら、心情的に受け入れがたいので抵抗は続く。


 「待った。二十五歳で養子を取ることができるなら二十歳でも問題はないはず」

 「メリアさん、諦めましょう」

 「あたしはまだ子どもとか持ったことがないんだぞ」

 「なら、私と作りますか? 異性よりもちょっとお金とか準備かかりますけど、同性でもいけます」

 「どさくさ紛れに何言ってる」


 あーだこーだと言い合いが続いた果てに、メリアは盛大なため息をついたあと、セフィを養子にすることを受け入れた。

 ただし、ちゃんとした学校に通わせることを条件につけた上で。

 必要な手続きや費用に関しては、アンナがすべて負担してくれることになり、あとは今回の仕事の報酬を受け取って別れるも、メリアは非常に苛立っているのか貧乏揺すりをずっとしていた。


 「くそ、こうなることを見落としていたとは。あたしも耄碌してきたか」

 「どうもよろしくお願いします。お母さんと呼ぶべきですか?」

 「あまり呼んでほしくない。……まあ、人前でどうしても必要な時は我慢する」

 「わかりました」


 メリアにとってはいささか不本意な結果に終わったものの、だからといって投げ出すことはしない。

 自分がかつて十五歳だった時のことを思い返し、せめてセフィはまともな道に進めるようにしておくべきだと考えたからだ。

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