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63話 順調な経営

 なんでも屋としての活動からおよそ一ヶ月。

 ほんの少しずつだが、アルケミアの名前は広まりつつあった。

 美味しい仕事は少ないが、大きい仕事はそれなりに見つけることができる。

 星間連合は他の国々よりも宇宙の開拓に力を入れており、宇宙船を複数所有しているとなると、色々な事業に割り込む機会があるのだ。


 「小さな衛星に採掘基地を建設する予定なので、海賊が潜んでいないか確認してもらえますか?」

 「お任せください。ただ、数日ほど時間はいただきます」


 ある時は、怪しげな存在がいないか武装したまま確認を行う。

 もし戦闘になっても支援はないという条件で。


 「これらの医薬品は、入植が始まった惑星向けに送る必要があるのだが、それを狙う不届き者がいる。護衛として傭兵が同行するが、輸送コンテナが宇宙に散らばるのを確実に防ぐため、アルケミアの格納庫内部に輸送船自体を置きたい」

 「少し料金は増えますが」

 「構わない」


 またある時は、医薬品を大量に積んだ輸送船自体を運ぶようなこともあった。

 流れ弾を完全に防ぐことは難しいため、いっそ大型船の中に入れてしまえば心配事は減るというわけだ。


 「だ、誰か、この通信を聞いているなら助けてくれ! 海賊の襲撃を防いだはいいが、推進機関をやられた!」

 「交換用のパーツをお売りしましょうか? このくらいで」

 「……少し高いが、こういう状況ではどうしようもないか。頼む」


 時には漂流している宇宙船と遭遇することも。

 普通の店よりもやや割高な値段で売りつけることで、これもまた利益となる。

 メリアが社長となって経営するなんでも屋は、今のところ順調であると言えた。

 これは社員がほとんどおらず、人件費がかからないのと、人工知能たるファーナが色々とやってくれるのが大きい。

 そしてそれゆえに、とある問題が起きてしまう。


 「メリアさん、いや社長! 給金上げてください!」

 「メリア様、わたしにも給金があっていいはずです!」


 稼げているからか、ルニウとファーナによる要求が行われる。

 それを受けてメリアは少しだけ目を閉じると、ルニウの方を見た。


 「ファーナをそそのかしたね?」

 「してません! むしろ逆ですって。ファーナが給金を欲しいと言ったからこそ、ついでに私も上げてもらおうかと」


 ただの言い訳に聞こえなくもないが、メリアが今度はファーナの方を見ると、白い髪が動くほどに大きく頷いた。


 「とのことだが?」

 「はい。その通りです」

 「……やれやれ、やっぱり普通の人工知能じゃないね、ファーナは」

 「ふふん、だからこそ色んなことを手伝えるわけです。その中には悪事も含まれてるわけですが」

 「はいはい、今までファーナのおかげで助かってるよ。給金に関しては、ルニウと同じ分をあたしの財布から出すという形でいいね?」

 「はい」


 完全に自らの意思があるため、無給のままでは不満が溜まることは理解できる。

 なのでメリアはファーナの言い分をすべて受け入れるが、まだ何かあるのか近づいてきた。


 「メリア様、もう一つお願いしたいことが」

 「なぜ近づく」


 明らかに何かしてくることが読めたため、すぐに椅子から立ち上がって距離を取ろうとする。

 だが、ファーナが背後から抱きついてくると同時に押さえつけてくるせいで、動くに動けなくなってしまう。


 「もっと触れ合いましょう!」


 今は宇宙服もヘルメットもしていない。

 私服姿であり、服越しでもしっかりと感触は伝わる。

 ファーナが普段、自分として動かしている少女型の端末は、硬質な金属で構成される部位と、そうではない比較的柔らかな素材で構成される部位とに分かれている。


 「この端末は、人間と同じ感覚があります。つまり、こうすることでメリア様を存分に感じられるわけです」

 「…………」

 「無視は悲しいですよ」


 抱きつくだけでは飽き足らず、さらに頬同士をこすりつけるファーナだが、メリアは面倒そうな表情をしたまま無言で無視し続けた。


 「まだ無視し続けるとは強情ですね。こうなったら、無視できないことをしてしまいますよ?」


 何か余計なことを思いついたのか、ファーナは笑みを浮かべてみせる。

 しかし、それが実行に移される前にルニウは呟く。自分の給金についての質問を。


 「あの、ところで私の給金はどんな感じに」

 「どのくらい増えてほしい?」


 この質問に関しては無視することなく返事をするメリアであり、ファーナの機嫌は少しだけ悪くなった。

 具体的には非難するような視線をルニウに向けるも、給金についての話題が優先されるのか、ルニウは知らないふりをした。


 「ここはやはり二倍で」

 「ふざけるんじゃない。もっとまともに考えろ」

 「では、五割増やすということで」

 「まだ多い」

 「むむむ、ならば一割!」

 「はぁ……奮発しよう。給金を一割増やす。それでいいね?」

 「ありがとうございます。……それと、ファーナに好き放題されてますけれども」


 その質問のあと、メリアの表情はついに険しいものとなった。


 「いい加減離れろ」

 「いえ、まだまだ足りません」


 人間とロボット。その力の差は圧倒的であり、無理矢理に引き剥がすことは難しい。

 このままでは我慢の限界に達し、危険なことになるんじゃないかと察したルニウは、ファーナへと質問をする。


 「ファーナはどうしてそこまでメリアさんに……ベタベタとひっつくわけ?」

 「人間としての感覚があるなら、そうしたくなるからです」

 「いやいや、それはいくらなんでも……」


 まさかの答えに思わず苦笑するルニウだったが、続く言葉に思わず耳を傾けてしまう。


 「なら、ルニウはメリア様以外に殺されたいですか?」

 「……それは嫌かな。どうせならメリアさんでないと」

 「おいこら、まだそんなことを考えていたのか」


 思わず突っ込みが出るも効果はない。


 「そりゃ考えますよ。メリアさんにどんな風に殺されるのか、寝る前に想像したりしますもん」

 「……初耳だね。というかこれ以上は聞きたくないが」

 「いいえ、聞いてください。まず、やっぱり素手が一番良いですよね。メリアさんの綺麗な手。細くしなやかで、それでいて力強い指のある手が、私の首を締め上げるんです」


 明らかに普通ではないことを意気揚々と語り始めるルニウに、メリアだけでなくファーナも驚いた様子を見せる。

 嬉しそうに語るものではないからだ。


 「ゆっくりと、その力は強くなっていき、やがて息ができなくなる。できるなら、嫌そうに首を締めてほしい。ああ、私は死んだあとも、ずっとこの人の中に残り続けるんだなと思えますから」

 「普通に気色悪いことを言うな」

 「自覚はありますよ。でも、メリアさんが魅力的過ぎるのが悪い。首を締められることを想像している時にメリアさんの匂いがあったりすると、お腹の奥が熱くなってきます」

 「……ファーナ、一人になりたいから、どいてくれ」

 「は、はい」


 それはあまりにも重苦しい声だった。

 だからなのか、ファーナは思わず離れてしまう。


 「しばらく戻らない。仕事を受けたいなら勝手に受けるといい」


 自由の身となったメリアは、そう言い残してその場から立ち去ると、自らの船であるヒューケラに移動する。


 「ああ……くそっ……まともではないにしても、あれほどまでとは思わなかった」


 操縦室の中での呟きは、隠すことのできない疲れが混じっていた。

 思い出されるのは、以前カミラという女性の味方となって敵対してきた時のルニウ。

 その時は、素晴らしい終わりだと口にしていた。

 しかし、それが今ではあんな風になっている。

 とてもではないが一緒に過ごすことはできない。


 「これじゃ仕事どころじゃないね。はぁ……」


 順調な状況から一転し、なんでも屋の経営には早くも暗雲が漂い始める。

 少ししてヒューケラへ通信が入るので確認してみると、それは暗号通信だった。

 アルケミア以外から来ているわけだが、いったいどこの誰がしてきているのか、メリアは首をかしげつつも通信に出る。


 「こちらヒューケラ。どこの誰だ?」

 「もう、そんな警戒しないで。私よ私。あなたの大切なお友達よ」


 聞き覚えのある女性が聞こえてくるも、メリアは無言で切った。

 すると、再び暗号通信が入ってくる。


 「ちょっと、無言で切るとかひどくない? か弱い私の心が傷つくわ」

 「平気で海賊からの助力を得たりするくせに、よくもまあそんなことが言えるもんだね、この特別犯罪捜査官殿は。アンナ、いったい何の用だ?」


 通信相手は、共和国の特別犯罪捜査官であるアンナ。

 彼女がわざわざ暗号通信をしてくるとなると、普通ではない出来事が関わっていることが予想できた。

 なのでメリアの声は自然と真面目なものになる。


 「表沙汰にできない相談があるの」

 「なんであたしに?」

 「どことも繋がっておらず独立しているから」

 「共和国とか帝国とかが関わってるのかい」

 「今はまだ関わってない。けれど、このままだと関わるかもしれないから、しばらくメリアに任せたい」

 「はっきりしないね。何が言いたいのか明確に」

 「では単刀直入にいきましょう。……遺伝子関係の犯罪をやらかした組織から、とある子どもを保護したの。あなたにしばらく面倒を見てもらいたい。その子の存在が表沙汰にならない形で」


 その子どもは、普通ではあり得ない超能力があるという。

 もし、遺伝子をどうにかすることで超能力を持った人間を作り出せる可能性があるとなると、様々な国が面倒事を引き起こし、特別犯罪捜査官は忙しくなってしまう。

 それを避けるため、今回の犯罪組織の処理が終わるまで任せたいとのことだった。


 「……ふん、超能力ときたか」

 「信じてないわね? 一ヶ月ほど面倒見てくれたら、個人的なお礼を出すけど」

 「安くはないよ」

 「なんでも屋してるんでしょ? 相場に見合った値段でお願いするわ。食費とかは、すべて終わったあとで私に請求していいから」

 「一応、痕跡は消すよう依頼したんだけどね」

 「駄目よ? 本当に痕跡を消したいなら、声を知ってる者とかも殺しておかないと」

 「なんとも物騒な捜査官殿だ」

 「それじゃ、引き渡しの予定日とかは、あとで送るから」


 通信が切れたあと、メリアは操縦席を倒して船の天井を見る。

 子どもの面倒を見るというのは、気色悪いことを言ったルニウから距離を置くちょうどいい機会ではある。

 数時間後、アンナから予定日を記した文章が届いたあと、新しい仕事を受けたことを伝えるためにアルケミアへと戻るメリアだった。

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