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58話 報酬の支払い

 コンテナ地帯から回収されて向かう先は、マージナルの地表にいくらか存在する飛行場。

 とはいえ、利用者がほとんどいない古く寂れたところである。

 航空機が滑走路に着陸したあと、アンナ自ら出迎えに出てきた。


 「お疲れ様。外だとあれだから、ついてきて」


 近くにある建物は見た目だけならおんぼろさが目立つが、中はしっかりと改装が済んでいるため、利用する分にはこれといった問題はない。

 とある一室に三人で入ると、まずはアンナが用意した衣服に着替える。奪った装甲服から、市販されている女性向けの服に。

 装甲服は、街中で行動するには悪目立ちする格好であるからだ。

 着替えが済むと、アンナは嬉しそうな様子で話し始めた。


 「あなたたちが戦った生体兵器、そして戦場となった保管所だけど、アステル・インダストリーを糾弾できる証拠がたくさん集まりそう。だからお礼の言葉を言わせてもらうわ。ありがとう」

 「アンナ。言葉よりも、もっと大事なものがあるだろう?」

 「ええ。わかっているわ。あなたのことは上に報告せずに済ませるし、物によるお礼も用意してる」


 メリアが仕事の報酬を求めると、アンナは近くに置いてある頑丈そうなケースを引っ張り出す。

 中には現金が入っていた。国によって多少変動はするが、一年くらいは遊んで過ごせるほど。


 「これだけか」

 「今回の仕事は秘密裏のものだから、私自身の資産から払ってるの。これ以上は将来への備えにも影響が……しくしく」

 「まあいいさ。かかった時間から考えると、まあまあ美味しい仕事になったからね。あとわざとらしい嘘泣きはやめろ」


 報酬を受け取ったあとは、宇宙港付近まで送り届けてもらう手筈となっていたが、航空機に乗る前にメリアはアンナの方を見る。


 「アステル・インダストリーが悪事を二度とできなくなるくらい、徹底的にやってほしい。遺伝子操作であんな存在を作るのは……作られた存在にとっても不幸だ」


 それはメリアの個人的な思いであると同時に、近くにいるルニウのことを考えての言葉でもあった。

 

 「あらあら。メリアからの期待には応えたいけど、それは難しいとしか言えないわ。でも努力はする。だから共和国のニュースには目を通していてね」


 短い会話を終えて別れたあと、飛行する航空機の中でメリアは考え込む。

 それはキメラという生体兵器が口にした言葉。


 「……へいか、かくにん、えらー」


 陛下、確認、エラー。これらは変換できるが、あとは曖昧過ぎて不可能だった。

 茶色い髪の毛の一部を食べてきたことからして、遺伝子関連の生体認証機能があると予想できる。

 そうなると、もし認証に成功したなら、あのキメラという兵器に命令できたりするのだろうか?

 そもそも陛下という言葉からして、帝国の現皇帝が作らせた? いや、わざわざ共和国の企業に作らせる意味も、企業が受ける意味もわからない。

 色々と思考が巡るメリアだったが、ルニウに話しかけられるのでそちらに意識が向いた。


 「あの、メリアさん。今のうちに活躍したお礼を」

 「変なことはなし。まずこれが大前提。というか面倒だしボーナスとしてお金をいくらかで」

 「嫌ですよ。もっと価値あるものがいいです」

 「……それは?」

 「もちろんメリアさ」


 ルニウが最後まで言葉を言う前に、メリアは目の前にある顔を鷲掴みにした。片手で。

 もちろんそれだけでは済まず、手に込められる力は少しずつ増していく。


 「あが、あががが」

 「続きを言うつもりがあるなら聞くよ。ほら、言ってみろ」

 「どうせなら素手の方がよかったです」

 「…………」


 無言のまま力はさらに強くなる。

 ミシミシという音が聞こえてきそうなほどで、そのせいかルニウは涙目になりつつあった。

 数秒後には解放されるが、あまりの威力に少しふらつき、そのままメリアの膝の上に頭を乗せる形で倒れる。


 「うぅ……めちゃくちゃ痛いんですが」

 「痛くしたからね」

 「顔の形が変わったらどうしてくれるんですか」

 「変なことを口にしようとするからだが」


 それからルニウのことを放っておいて、窓から地上の景色を眺めるメリアだったが、数分が過ぎても動かないため、さすがに様子が気になった。

 軽く見下ろすと、膝の上に頭を乗せたまま寝ているルニウを目にすることに。


 「こら、あたしの膝の上で寝るな」

 「メリアさん」

 「うん?」

 「もう少ししゃがんでください。あともう少し頭が下がれば、茶色くて長い髪の毛が触れそうなので」

 「いい加減に起きろ!」


 無理矢理に起こしたあとは何事もなく宇宙港に到着する。

 あとは軌道エレベーターで、地上側から宇宙側の施設に移動してしまえば自分の船に戻ってしまえるが、メリアは別の場所を目指した。


 「どこへ?」

 「スラムへ。あの子どもに、払うものを払いに。先に戻ってていいよ」

 「いえ、ここはギリギリまで二人きりを楽しみたいのでお供しますよ」


 エア・カーに乗り、まずは最初に入った都市へ。そこからスラムの近くにまで移動するも、立っている警官から忠告を受ける。

 もうすぐ暗くなるから、この先は危険であるという風に。

 忠告をしてくれた警官にお礼を言ってからスラムの中に入ると、ずっと待っていたのかヌーヌがあくび混じりな様子で地べたに座っていた。


 「ヌーヌ」

 「うぇ? お姉さん誰? 何か用? なんで名前を」


 今のメリアは男装をしておらず、変声機の仕込まれたガスマスクもしていない。代わりに顔を隠すためのサングラスをしている。

 短い付き合いのヌーヌからすれば、見知らぬ女性に話しかけられたので思わず首をかしげた、というわけだ。

 しかし、それについてはルニウが同行しているためすぐに解決する。


 「あれ? んんん? も、もしかして……」


 最初は交互に見比べる。

 やがてメリアの全身を眺め、次は目や髪を見つめていき、最後は驚きに満ちた様子で飛び上がった。


 「嘘でしょ!? ま、まさかそんな……」

 「ここは人目につく。落ち着ける場所は?」

 「え、えーと、こっち」


 どこかぎこちない動きとなるヌーヌについていくメリアとルニウ。

 数分ほど歩いた先は、非常に粗末な小屋があった。

 内部は狭く、普通に立つだけでも天井に頭が触れそうなほど。

 ヌーヌによると、ここに住んでいた人はいつの間にかいなくなったから、今こうして自分の家にしているという。


 「いやあ、驚いたよ。まさかお兄さんが実はお姉さんだったなんて」

 「ま、変装する必要があった。仕事の関係で」

 「そっちのお姉さんは、知ってて黙ってたとか。もう」

 「えへへ、ごめんね」


 メリアが男装していたことに、ヌーヌは軽いため息をつくが、すぐに笑みを浮かべる。

 どんな用件で来たのか理解しているからだ。


 「ふっふっふ、まずはお礼のお金!」

 「じゃあ、とりあえずこれくらいで」


 元気な様子で両手を出してくるため、メリアは現金を渡す。十歳くらいの子が貰う、多めのお小遣いくらいの金額を。


 「よしっ! これで必要な分のお金が貯まった!」

 「そうかい、それはよかった」

 「ちなみにだけど、二人はどんな仕事をしてるの? 変装するとか普通じゃなさそう」

 「……言えないね」

 「右に同じく」

 「えー、残念。まあいいや」


 あっさりと質問を諦めると、ヌーヌは貯金箱らしき代物にお金を入れる。

 もうするべきことは残っていないため、メリアは帰ろうとするが、ヌーヌは呼び止める。


 「待った。茶色いお姉さん」

 「何か用があるなら手短に」

 「その、サングラスを外した顔を見てみたい。だめかな?」

 「……見るだけならね」


 メリアはサングラスを外して、目の前にいる幼い少女を見るのだが、数秒もしないうちに戻した。


 「わお、お姉さんみたいに綺麗な人って初めて見るかも」

 「はいはい、お褒めの言葉ありがとう」

 「むむ、あっさりと返された。……また会える?」

 「死ななかったら、またいつかどこかで会える。まあ、会えない可能性もある、というかそっちの方が高いけれど」

 「結構危険なことしてるし、お姉さんの方が先に死んで会えなくなりそう」

 「ふん、なかなか大胆なことを言うもんだ」


 軽く笑ったあと、今度こそ粗末な家を出て宇宙港へと向かう。停泊している自らの船へと戻るために。

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