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56話 偽装された保管所

 銃声に爆発、たまに大きな断末魔。

 スラム内部のゴミ山に隣接するコンテナ地帯にて、二本の足と四本の腕がある巨大な謎の生物が暴れており、辺りは騒がしいどころではない。

 メリアとルニウは騒ぎを無視して走り抜ける。

 傭兵から奪った装備に身を包み、謎の生物に見つからないようコンテナに隠れたりしながら。


 「さて、そろそろあの厄介なのが出てきたと思わしき場所に来たが」

 「これ、登るんですか」


 崩れたコンテナの山。

 それは小さなスクラップなどで構成されたゴミ山と比べ、一つ一つが大きいので登るだけでも一苦労。

 登っている間に攻撃されたら危険なため、ルニウは嫌そうな表情になるも、ここまで来たら進むしかない。

 周囲の状況を確認しながら上を目指した。


 「うぅ……重力がある中でこうやって登るのは、学生の頃以来ですよ」

 「まあ、船内に重力を発生させてるが、あたしもこういう機会は初めてだね」

 「そう言う割にはどんどん登っていきますけど」

 「子どもの頃から海賊やることになったんだ。これくらい簡単にできなきゃ、とっくに死んでるよ」


 十五歳になり検査を受け、失敗作の烙印を押されてからは、一人で生きるしかなかった。

 自らの姿を隠し、誰とも深く関わらず、ひっそりと生きてきた。

 それが変わったのは、廃棄された宇宙船におけるファーナとの出会い。

 あまりにもろくでもない出会いなため、思い出すと怒りが湧いてくるが、それも少しずつだが減ってはいる。


 「メリアさんが一番死にそうだと感じた時っていつですか?」

 「今聞くことじゃないだろう。……まずい、あそこのコンテナの中へ」


 一つずつコンテナを登る途中、メリアの表情は変わる。

 その視線の先には、こちらへ近づきつつある謎の生物を見ることができたからだ。

 動きからして、いるべき場所から離れ過ぎたので戻るような感じであり、見つかったからではない。

 すぐに空のコンテナへと入り、影となっているところに伏せて息を潜める。


 「……緊張しますね」

 「……静かに」


 謎の生物が歩くたびに、わずかな振動が足を通じて届いた。

 離れるまでじっと待ち続けていると、銃声などのうるさい音がいくらか減っていることに気づく。

 このままだと、どんどん見つかりやすくなるため、あまり悠長にしているとまずい状況になる。


 「……いち……に……さん……よし、今だ」

 「はい」


 振動は遠くなり、激しい戦闘音がどこかから聞こえてくる。

 今のうちに調査を再開する二人だったが、ある程度コンテナの山を登ったところで動きが止まる。

 山が崩れて破損したコンテナの中から、見慣れない機械を発見したからだ。

 しかも、その機械は電源が生きているのか稼働しており、謎の生物が現れたすぐ近くに存在するので明らかに普通ではない。


 「大当たりってところか」

 「コンテナだらけなところに、コンテナに囲まれた施設ですか」

 「木を隠すには森の中。よく見ると、いくつものコンテナをくっつけて、中をくりぬいて一つの建物みたいにしてある」

 「……アステル・インダストリーが所有する極秘の施設とか?」

 「どうだかね。詳しいことは行けばわかるはず」


 元々の出入口はどこかにあったのだろうが、今はコンテナの山が崩れているため、破損した壁の穴から内部へと侵入する。

 内部の構造は、二階建てで正方形の箱のような広い空間となっている。

 歩くことなく全体を見ることができるため、少しして生存者を発見した。

 密売人の類いらしく、わずかな武装をしている。


 「なんだ、お前たちは!?」

 「ちょっと調査に来ただけの旅行者だよ」

 「嘘を言うな! どこかに雇われた傭兵だろう」

 「……メリアさん、どうやら勘違いしてるみたいですけど」

 「ならそういう風に振る舞うとしよう。そこまで外れてるわけでもないしね」


 密売人らしき男性が発砲してくるため、メリアは非殺傷設定にしたビームブラスターを何度か打ち込んで無力化する。


 「ぐ、うぅ……」

 「これで話をしやすくなった」


 あとは近づいて拘束してしまうことで、色々と聞き出す用意が整う。


 「それじゃ、まずここは何なのか。そしてあの謎の生物について知っていることは?」

 「…………」

 「言うつもりがないなら、さっさと殺してデータを持ち帰るだけに済ませる」


 最初は脅しに耐えていたものの、やがて耐えられなくなったのか、男性はポツポツと語り始めた。


 「……ここは保管所だった。違法な商品を一時的に預かり、販売するための。お前たちが言っている謎の生物とやらは“キメラ”だろう」

 「キメラ?」

 「アステル・インダストリー製の生体兵器だ。動物や昆虫などの遺伝子をいくつも組み合わせて作り出されたその存在は、宇宙船やステーションといった閉所における優れた兵器となる、はずだった」


 キメラという存在は、当初求められたスペックを十分に満たしていた。

 多少の火器をものともしない強靭な肉体、人間の道具を扱う最低限の知能、そして一時的に透明になれる擬態能力。

 すぐさま秘密裏に生産と販売が行われた。

 だが、無理にいくつもの遺伝子を組み合わせたせいか、まともに言うことを聞かない。

 そのせいで生産は中断されたものの、そこそこの数が既に作られているという。


 「生体兵器たるキメラは、命令を受け付けないので倉庫で眠らせているはずなんだが、眠らせる装置か何かに異常が起きたせいか、暴れて脱走してしまった。それで俺は、警察や軍が来る前にここから逃げようと準備をしていたというわけだ」

 「……やれやれだね。制御できない生体兵器なんて存在があるとは」

 「なあ、あんたらが知りたいことは教えただろう。見逃してくれよ」

 「条件がある」


 メリアは目の前にいる男性にこの施設のデータを一通り渡すよう要求した。

 それに加えて、預かっている違法な商品についての一覧も。

 この提案に男性は悩んでいたが、外で断続的に続いている戦闘音がなくなると、渋々といった様子で頷いた。


 「これ以上ここにいるのはまずい。わかった。その提案を受け入れるから、拘束を解いてくれ」

 「もし逃げようとしたら撃つ。非殺傷設定のブラスターじゃなく、殺傷できるこいつでね」


 そのあとはルニウが見張りとなり、メリアは内部を軽く探索した。

 保管所と言うだけあって、様々な物を目にすることができるが、そのすべてが違法な代物である。

 つまり、これらを求める客がいることに他ならないが、そういう相手を捜査して逮捕するのは自分たちの仕事ではない。共和国警察の仕事だ。

 やがてデータをまとめたという報告が行われるので、メリアは男性から小さな記録媒体を受け取る。


 「もういいだろう? キメラが来る前にここを離れたい」

 「ああ、データをまとめてくれて助かったよ。好きなところに行くといい」


 立ち去っていくのを引き留めることはせず、近くに転がっている椅子を見つけると、メリアはその上に座って大きく息を吐いた。


 「ふう……これで今回の仕事も無事に終わりそうだ」

 「そういえば、さっき出ていった人ですけど、あのキメラから逃げることって」

 「できないだろうね」


 会話の途中、どこか遠いところから男性の叫び声が聞こえてくる。


 「どうやら見つかって襲われたようだ」

 「こうなることがわかっていながら行かせるなんて、なかなかにひどいですね、メリアさんって」

 「相手の意見を尊重しただけだよ。無理に引き留めても無駄に揉めるだろうし」

 「あとは待つだけですか?」

 「そうなる。あたしたちだけじゃ、キメラに勝てそうもないしね」


 増援が到着するまでの間、念のために記録媒体のデータを確認する。

 もしかすると、何も入っていない可能性があるために。しかしそれは杞憂だった。

 そして、経過の報告と、あとどれくらいで増援が到着するのかアンナへと連絡を行う。


 「こちらアンナ。何かあった?」

 「怪しい施設を見つけて、色々なデータを入手した。今はキメラという生体兵器から隠れてる状況だ」

 「おお、それは嬉しい報告ね」

 「それで、増援はあとどれくらいかかる?」

 「そうねえ……十数分ってところかしら」

 「のんびりと待っておくよ」


 通信が終わったあと、メリアは自らの茶色い髪を軽くかきあげた。

 ここまでの行動によって、汗で少し蒸れていたからだが、それを目にしたルニウは少しずつ距離を縮める。


 「メリアさん」

 「なんだい」

 「お疲れでしょう? 私がお手伝いします」

 「……いや、必要ない。よからぬことを企んでそうだから」

 「ちょっとメリアさんの髪の毛を触ってみたいだけです」

 「気色悪いことを言うな」

 「少しだけ、少しだけお願いします! ほら、私の提案で装備品とか手に入りましたし。どうしても嫌なら、私の髪の毛に触るという案も」

 「くどい。どれも断る」


 待つ間することがなくて暇なせいか、ルニウは積極的に絡んでくる。

 これはメリアにとって面倒な限りだが、今のところ言葉だけで引き下がるのでそれほどの問題はない。

 非常に厄介な問題がこの直後に起きてしまうせいで、これは些細なことになってしまうからだ。


 「……ググググ。ギギギギ!」

 「見つかったか。ルニウ、構えろ」

 「うわ、これはまずいですね。でも逃げ場はない」


 破損したコンテナは外に通じているが、今は外に生体兵器たるキメラがいた。

 それだけならまだしも、明確にこちらを認識し、破損部分をこじ開けて中に入り込もうとしている。

 今はまだ安全であるが、すぐに対処しないと危険だった。

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