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55話 装備品の現地調達

 「誰か助けてー!」


 若い女性の叫び声が辺りに響く。

 しかし助けようとする者はおらず、代わりに銃声が聞こえてくるだけ。



 「各員、あの女を逃がすな」

 「了解です。こんな場所にあの格好、怪し過ぎる」


 金属製のスクラップが積み上げられたゴミ山に隣接するコンテナ地帯。

 そこでは、武装した集団に追われるルニウの姿があった。

 

 「うーん、即座に撃ってくるとは想定外。とはいえ、追ってきてるので一応はセーフ……?」


 ダダダン!


 使用しているのは強力な銃なのか、すぐ近くのコンテナにいくつもの穴が空く。

 その威力は、当たらずにかすめただけでルニウの着ている服が損傷するほど。

 直撃したらどうなるかは、火を見るより明らか。


 「うおっととと、言ってる場合じゃない」


 水色の髪も何本か空中に散るほどに撃たれており、慌てて場所を変えていく。

 普通なら恐怖で動けなくなるところだが、今の彼女は恐怖を塗り潰すほどの興奮に満ちていた。


 「うん、上手くいってる。私は仕事ができるんだ。あの人の役に立てる。ふ、ふふふふ」


 今はファーナがいない。そうなれば、メリアさんは嫌でも私を頼るしかない。

 そこで活躍すれば、今までよりも対等な相手として見てもらえる。

 多少は予定と違っているが、大筋では問題ないのだから。

 頭の中を巡るそれらの思考は、無謀な行為を成功へと近づけていく。

 怪我のないまま順調に目的地へと近づき、相手を誘い込むことができているのだ。


 「くそ、なんだあいつは。一発も当たらないだと?」

 「降下地点からだいぶ離れました。まだ追いますか?」

 「仕事が優先される。そろそろ引き上げ……」


 言葉は最後まで出なかった。

 途中でいくつもの爆発に巻き込まれたからだ。

 それは、装甲服に身を包んでいる者からすれば、致命傷からは程遠い攻撃。

 しかし、一時的な混乱を引き起こすには十分であり、近くのコンテナが開くと、そこからビームによる攻撃が行われる。

 そのせいで武器を取り落とす者が出てしまう。


 「ルニウ!」

 「よーし、反撃の時間ですよ」


 あとは一方的な戦いだった。

 爆発による土煙が、煙幕となって視界を奪う。

 その間に廃材によって一人また一人と殴り倒されていき、武装した集団は最終的に全員が床に倒れ伏すことに。


 「わーお。いくらなんでも強すぎでしょ。お二人さん」


 武装した集団相手に、ほぼ生身の状態で勝ってみせたことに対し、隠れて見物していたヌーヌは驚きのあまり口をぽかーんと開けていた。

 そのあと、倒れている者を足の先でつつく。

 わずかに動くので生きてはいるようだった。


 「しかも殺さずに済ませるとか。ただ者じゃないね」

 「ふふふふ、どうですか私の作戦は」

 「浮かれるな。結果的にそうなっただけでしかない」


 腰に手を当てて自慢そうにするルニウとは対照的に、男装に加えてガスマスクをしているメリアは警戒したままでいた。


 「ルニウの叫び声を含めて結構な騒ぎのはずだけど、誰も関わろうとはしないか」

 「そりゃ、銃声するところに突っ込みたい人なんていないでしょ」

 「そうですよ、メリアさん。しかも爆発があったので、近づけば危険なことは嫌でもわかります」

 「その危険なことを実行したのは……いやよそう。まずは取れるものを取らないと」


 武装した集団は全部で五人。

 全員の武器や通信機器などを奪う。

 そして手足を拘束したあと、リーダーらしき者の顔をペチペチと叩いて無理矢理に起こした。


 「起きろ」

 「うぐ……くそ、なんだってんだ。お前たち、どこに雇われてる?」

 「どこの雇われでもない。ただの旅行客だ」

 「嘘つくな。ガスマスクするような旅行客がどこにいる」

 「……ファッションだが?」


 自分でも苦しいと感じる言い訳を口にするメリアであり、武装した集団のリーダーは怪訝そうな顔をする。

 とはいえ、このままでは話が進まないので、ルニウが横から割り込んだ。


 「まあまあ、細かいことはいいじゃありませんか。私としては、あなた方が何をしにここに来たのか知りたくてですね?」

 「どうして話す必要がある」

 「言わないなら、装備品は返しませんが? なんなら、着てる装甲服を奪ったりもしますけど? 今の状況を理解しておくべきですよねえ。誰も死なずに済んだという事実を、噛み締めるべきですよ」

 「ちっ……」


 誰も死なないまま、全員が捕まって拘束されている。

 それは実力差というものをこれ以上なく示す結果であり、盛大な舌打ちのあと話が行われる。


 「俺たちはクローネ・アームズに雇われ、とある企業の取引を妨害するために送り込まれた」

 「五人は少なくないですか?」

 「偵察と露払いを兼ねている。連絡を入れたら増援が向かう予定になっているが、こうなっては失敗だから来ないだろう」


 仕事は失敗したとはいえ、命があるならやり直せるからか、話す姿はあまり深刻そうではなかった。

 メリアは奪った武器を壁に向けて試し撃ちしつつ尋ねる。


 「そのクローネというところが妨害しようとした企業はどこなのか教えてほしい」

 「一応聞くが、あんたらはどこかの所属じゃないんだな?」

 「そうだ」

 「なら政府辺りか。俺たちはアステル・インダストリーの取引が行われると聞いてやって来た」


 アステル・インダストリーの名前をここでも耳にすることとなり、メリアは少しだけ表情を変えると、目の前にいるリーダー格の人物を見つめた。


 「詳細は?」

 「あと一時間後に取引が行われる予定としか聞いていない」

 「そうかい。なら……」


 メリアが口を開くと、途中で大きな爆発音が聞こえてくる。

 慌てて音が聞こえてくる方向へ目を向けると、コンテナの山の一部が崩れ、五メートルほどの巨大な生物が暴れているのが確認できた。

 それはパンドラでメリアが遭遇した謎の生物と同じ姿形をしており、その時よりも少しばかり大きい。


 「傭兵、さっさと増援とやらに連絡入れろ。こっちはあれをどうにかする」

 「あ、ああ」

 「それと装甲服を二人分よこせ」

 「く、仕方ないか」


 通信機器を一つ返したあと、脱ぎたての装甲服と奪った武器を持ったまま大急ぎでその場を離れるメリア。

 ルニウとヌーヌもその動きに続く。


 「もしかして、探し物ってあれ?」


 ヌーヌが指差すのは巨大な生物。

 既に先客がいるのか、戦闘が行われている。

 ゴミ漁りをしている者たちか、それともなんらかの仕事でここにいる傭兵か。


 「おそらくは」


 メリアはそう言うとアンナへ連絡を取る。

 当たりであれば面倒だが、外れであればそれ以上に面倒である。

 すぐに出てくるので、目の前の状況などを説明した。

 数秒ほどの沈黙のあと、返事が来る。


 「足止めできそう?」

 「とてもじゃないが無理。遠回しに自殺しろって言うなら、このまま帰る」

 「それならビーコンを設置して。変装道具とかと一緒渡したやつ。こっちで動かせる増援を送るから」

 「増援の目印は?」

 「緑色の機体。メリアたちのことは知らせておくわ」

 「早めに頼むよ」


 連絡が終わったあと、ヌーヌは何か言いたそうな表情となっていた。

 明らかに正体について疑っている目である。


 「何か言いたいことあるなら言えばいい」

 「旅行客って偽りの姿?」

 「そうなる。この先は死ぬ可能性が高いから、逃げた方がいい」

 「……わかった。でも、まだお礼をもらってない」

 「はいはい、あとで支払うよ」


 心配しているからか、ヌーヌは何度か振り返りながら去っていく。

 足手まといとなる少女が去ったあと、メリアはビーコンを設置してからルニウの方を見る。


 「さて、あたしらはどうするかだが」

 「いくら武器を現地調達したとはいえ、あんな生き物と戦闘するのはきついですよね。となると、調査ぐらいですか? なんか爆発音ありましたし、そこを探せば何かわかるかも」

 「なら、代わりに戦ってくれてる奴らがいるうちに行こうか」

 「その前に着替えましょう」


 空のコンテナに入ったあと、今までの変装を脱ぎ、奪った装甲服へと着替えていく二人。


 「他人のって結構胸がきつくなりません?」

 「多少はね」

 「もっと明るければ、メリアさんのを見れたのに」

 「言ってる場合か馬鹿」


 ヘルメットに関しては完全にサイズが合わないため、破壊してからコンテナを出る。

 戦闘よりは調査。それを優先して一気に走った。

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