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47話 案内のある脱出劇

 「くそったれ! ここも駄目か!」


 怒りの声と共に金属製の壁を殴る音が響く。

 メリアは苛立っていた。

 隔壁の閉鎖、通信のジャミング、明らかな異常事態に、これ以上パンドラに留まるのは得策ではないと判断して船に戻ろうとするも、ファーナからの支援を得られないため時間がかかることが判明。

 そこで備え付けられている脱出艇を利用することを考えるも、どれも利用不可能なほどに破壊されていた。


 「完全に閉じ込められた」

 「どうしましょうね」

 「ジャミングをどうにかするのはどうだ? パンドラは広いから、いくつかの装置によって行われているはず」

 「なるほど。アルクトスのアイデアは悪くない。で、どこに装置があるかわかるのかい?」

 「そ、それは……」


 メリアからの突っ込みに、アルクトスは言葉に詰まって黙り込んでしまう。


 「この邪魔な隔壁がなければ、どうにでもなるんだがね」


 ガン!


 拳で殴るのは痛いので、持っている銃で殴りつけた。

 その行動はメリアの憂さ晴らしでしかなかったが、その時、船内通信によるものか近くの壁からノイズ混じりの音声が聞こえてくる。


 「もしもし……聞こえますか。返事をください」

 「その声は、ファーナ……か?」

 「もう一度大きな声でお願いします」

 「ファーナ! あたしだ! メリアだ! これで聞こえるかい!?」


 壁に設置されている通信端末に向かって大きな声をぶつけるメリア。

 少しの沈黙のあと、よりはっきりとした声が聞こえてくるようになる。


 「メリア様、そこにいましたか」

 「今、パンドラで何がどうなっている?」

 「監視カメラはさらに破壊され、ジャミングのせいで通信も遮断されました。そのせいで、とりあえず船内の通信できるところすべてに呼びかけました」

 「……なるほど。あたしの声が聞こえたところにだけ、こうやって返事してるわけか」


 なかなかの荒業だが、一時的にでも連絡できるようになるなら些細なことではある。


 「船内での戦闘は襲撃側が有利でした。しかし、謎の生物の解放によって防衛側が押し返しているという状況になります」

 「……その謎の生物とやらに出会わないことを祈りたいね。とりあえず、脱出できそうなルートはありそうか?」

 「隔壁の少ない最短ルートがあります。もしかすると戦闘になるかもしれないので、備えてください」

 「ああ。それについては大丈夫だよ」


 その後、目の前にある隔壁が上がっていき、道ができる。


 「次の隔壁まで進んでください」


 言われるがまま全員で走っていくと、またもや壁に設置されている通信端末からファーナの声が聞こえてくる。


 「次は左に曲がったあと、十字路をまっすぐ進んでから右に」


 道中、敵対的な相手と遭遇することなく進み続け、十数分ほど走り続けたあと、わずかな休憩となった。


 「ふう、宇宙服のまま全力で走るのはいつ以来だったか」

 「それだけならまだしも、武器とかもあるからね。ああ、重くて困っちゃうわ」

 「……あんたたち、ずいぶんと慣れた様子だが」

 「あたしはこれまでに色々と経験しててね。道案内がある脱出劇なんて楽なもんだよ」

 「そうね~。やっぱり支援のあるなしは大きいから。たった一人で調べものをするのって大変なのよ?」


 思い思いに話したあと、そろそろ休憩を終えて走る用意をするが、遠くからこちらに近づいてくる集団を発見する。

 慌てた様子はなく、やや早足で移動しており、全員がパワードスーツを着込んでいた。

 そしてとても厄介なことに、こちらを認識した瞬間撃ってきた。


 「ちっ、撃ってきた! 迎撃!」


 曲がり角に隠れ、壁を盾にしつつの銃撃戦。

 このまま無事に戻れるという時に現れた敵に、メリアは顔をしかめつつも、一人一人じっくりと狙い撃つ。

 大型のライフルで腕や足を。

 パワードスーツは多少の攻撃を防ぐとはいえ、損傷すれば性能が低下する。

 そうなれば、弱った相手にさらに銃弾を叩き込めるというわけで、少しずつだが有利な状況へ傾いていく。


 「うっ……」

 「アンナ、被害は?」

 「大丈夫よ、腕に当たっただけだから。弾は小さめだから、これくらいの穴なら自動修復機能ですぐ塞がる。宇宙空間には出れるわ」


 戦いが続けば、無傷というわけにはいかない。

 まずアンナが腕を負傷してしまう。

 やや遅れて生身のアルクトスも、かすり傷を増やしていく。


 「ぐぅぅ、これが実戦の痛みか」

 「死ぬんじゃないよ。お前は生きた証拠なんだ」

 「なに、まだ大丈夫だ。それにクマだぞ? 人間よりよっぽど頑丈だとも」


 有利不利はあれども、勝敗はつかない。

 このまま時間だけが無駄に過ぎていくのを嫌ったのか、敵の集団から隊長らしき人物が前に出てくる。

 恐ろしいことに、パワードスーツという代物のおかげか、生身では持ち運ぶことすら苦労しそうな巨大なビーム兵器を軽々と構えていた。


 ドォン! ドォン!


 その威力は凄まじく、まるでビームでできた榴弾と呼べるほど。

 着弾したところに爆発を起こすため、体を出して攻撃することが難しくなる。

 そうなると一気に距離を詰められるが、メリアはショットガンに持ちかえると物陰から飛び出した。

 攻撃の機会はわずかしかないが、真正面から撃ち合うのは自殺行為なのでこうするしかない。


 「そっちから近づいてくれるなら、ありがたい限りだよ!」


 それは連射のできるショットガンであり、短い間に四発も撃ててしまう。

 これにはパワードスーツと言えども無事では済まない。

 火花を立てながら崩れ落ちると、内部の人間にも被害が出たのか血が床に広がる。


 「よし、これで面倒なのを仕留め……」

 「……まだだ。この程度で死ねるものかよ」

 「馬鹿な、至近距離からのショットガンだ。致命傷だぞ!?」


 明らかな致命傷にもかかわらず、完全には倒れない。

 それどころか反撃をしてくるので、メリアはすぐにその場を離れた。

 危ういところで直撃を避けたが、衝撃を受けて壁に叩きつけられてしまう。


 「がはっ……」

 「とにかく逃げないとまずいわね。アルクトス、メリアを引っ張ってちょうだい」

 「あ、ああ」

 「逃がすか……ぐっ、さすがに限界か」


 相手は膝をついて身動きできない。

 通路の真ん中なので、後方の者たちを塞いでいる。

 それを見て、すぐさまアンナとアルクトスはメリアを引っ張りながら場所を移す。


 「いたた……とんでもない化物がいるね。ショットガンをまともに受けて死なないとか。中身は人間なのか?」

 「愚痴ってるところ悪いけど、向こうはもう復活してるわ」


 そっと見てみると、なにやら謎の薬品が入った容器を自らの首筋に打ち込んでいた。

 目に見える速度で中身の液体が減っていき、それと同時に出血は止まって肉体は回復していく。


 「即効性があり過ぎる」

 「人体を治療するナノマシンの、一番グレードが高いものでもあそこまではいかないわ。つまり……大企業の試作品とかだったりして」

 「ああ、嫌だね。他にも厄介なものを持っている可能性があるわけだ」

 「メリア様、とりあえずこちらへ。隔壁をおろします」


 ファーナの指示に従い、隔壁がおりることで厄介な集団とは別れることができた。

 あとは、やや遠回りになるが脱出ルートを進むだけ。


 「……ア様……えます……」

 「一応は。まだノイズがひどい」


 少しすると、かなりひどいノイズ混じりとはいえ、宇宙服の通信機能を通じてファーナが話しかけてくる。

 パンドラは広く、一番外側の通路ともなればジャミングは弱まっているのだろう。

 この分だともうすぐパンドラを脱出できるということで、メリアの足にも力が入る。


 「到着したようですね。では、そこにある脱出艇に乗ってください。ほとんどの機能は死んでいますが、射出はできます」

 「待った。こっちには宇宙服がないのがいる」


 クマなので人間用の宇宙服を着ることができないアルクトスのことをメリアが話すと、設置された通信端末から、空気に関しては大丈夫だというファーナの説明があった。

 それを信じて全員が乗り込むと、ファーナが操作しているのか勝手に起動していき、発射まであとわずかとなる。


 「準備する時間もないとはね。全員、どこかに掴まれ」

 「まあまあ、無事に出られることを喜びましょう」

 「……命と自由の保証を頼むぞ」


 脱出艇の加速は、最初からかなりのもの。

 肉体に負荷がかかるが、それもすぐに弱くなる。宇宙空間に出たからだ。

 減速を繰り返し、ほぼ静止状態になったところへヒューケラがやって来る。


 「メリアさん、今から回収します」

 「あたしの船を、どこかにぶつけたりはしてないみたいだね」

 「するわけないじゃないですか」


 そのまま貨物室へと回収されたあとは、内部が空気で満たされるまで待ってから船内へ。


 「ほほう、あの時見かけたお二人さんが、メリアの仲間ってわけ」

 「その話はあとにしてくれ」


 にやにやとした笑みを浮かべるアンナに、メリアは適当に手を振ってやり過ごす。


 「うわ、そのクマはいったい」

 「ルニウは知らないか。こいつはアルクトス。遺伝子操作されて生まれた動物で、オークションの商品だった」

 「短い間だが、よろしく頼む」

 「遺伝子操作……ええ、どうぞよろしく」


 遺伝子操作された動物ということで、ルニウはわずかながら不愉快そうな表情となったが、すぐに操縦席へ向かうので気づく者はいない。


 「メリア様、お帰りなさい」

 「周囲の状況は?」

 「襲撃した者たちは、失敗を悟ったのか少しずつ星系からいなくなっています。今も残ってるのは、たった数隻とわずかです」

 「面倒な仕事は終わった。あとはどんな見返りを得るかとして……」


 アンナに報酬の相談をしようとするメリアだったが、ファーナに呼び止められてしまう


 「お待ちください。パンドラに動きが」

 「動き?」


 いったいどういうことなのか、操縦席に移動してスクリーンを見てみると、一目で理解できた。

 パンドラの推進機関が作動し、ほんの少しずつだが加速を始めていたのだ。

 現在存在するのは軌道上。

 そこから向かう先は……惑星マージナル。

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