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45話 生きた証拠としての存在

 通路の真ん中では目立つため、メリアはアンナと共にクマを近くの部屋に運ぼうとするも、無重力ならともかく重力が機能しているため重すぎて不可能だった。

 そこで、クマが動けるようになるまで待つことに。

 武器となるものをすべて奪ったあと、自分たちは武器を構えたままで。


 「……俺を殺さないってことは、何が聞きたいんだ」


 少しすると、クマはゆっくりと体を起こして話し始める。

 現在の状況を理解しているのか、抵抗する様子はない。


 「言葉を話すとはね」

 「そういう風に作られた。生まれる前に遺伝子を弄ることで。人間の道具を扱えるよう、前足も動物のとは少し違っている」

 「場所を変えたい。動けるか?」

 「ああ。誰かさんが何発も撃ってくれたが、クマの肉体は人間とは比べ物にならないくらい丈夫で回復も早い」


 のそのそといった感じで遅いが、それでも自力で動けるようになると、あとは簡単だった。

 おそらく船員用の個室だったのだろうが、パンドラを襲撃した者に荒らされており、中はかなり散らかっていた。

 そんな部屋に入ったあと、メリアは椅子に座り、アンナは武器を持ったまま扉の近くに。

 そしてクマは、ベッドに座り込んだ。


 「それじゃ、まずは名前を教えてもらおうか」

 「アルクトスだ」

 「なんでこのパンドラの中に?」

 「商品として売られる予定だった。遺伝子を弄ることで、人間に匹敵する知性と言葉を得たクマ。物好きな奴にとってはこれ以上ない商品になるだろうよ」

 「どうして武器を持って行動していた?」

 「自由の身になるチャンスだったから。ドッキングしてるどこかの船でも乗っ取って、逃げるつもりだった」

 「成功の可能性は低いだろうに」

 「それでもだ」


 茶色いクマであるアルクトスは、人間のようにため息をついたあと天井を見上げる。


 「俺からも質問いいか?」

 「いいよ」

 「襲撃側と防衛側、あんたらはどっちなんだ?」


 これはつまり、アステル・インダストリー側かどうかという質問である。

 メリアは扉の方を軽く見てから答える。


 「あえて言うならどっちでもない。このパンドラ内部にある、アステル・インダストリーの悪事の証拠を得るためにやって来た」

 「できる限り誰とも戦いたくないの。面倒だから」

 「……どの企業にも所属してないわけか。なら、頼みたいことがある」

 「言うだけ言ってみな」

 「遺伝子を弄った生き物を作り出し、しかも売買しようとする。俺はアステル・インダストリーのこれ以上ない悪事の証拠というわけだ。……証拠を求めるあんたたちに協力する代わりに、命や自由を約束してもらいたい」


 アルクトスを生きたまま連れて帰ることができれば、証拠としては十分だろう。

 メリアはそう考えてアンナを見るが、意外なことに判断に迷っているようだった。


 「アンナ、どうした? このアルクトスというクマは、これ以上ない証拠だと思うが」

 「……まだ決定的とは言えないわ。アステル・インダストリーが、これは我が社を陥れようとする他企業がそう喋るようにしたんだ、と発表してしまえばそれが通ってしまう」


 アステル・インダストリーは、共和国一の大企業。当然ながら、その財力と権力はかなりのもので、共和国政府に対する影響力も強い。

 少しばかり根回ししてしまえば、真実と偽りを入れ換えることなど造作もない。

 それができるだけの力がある。


 「やれやれだね。そうなると、争ってるところに向かう必要があるが?」


 今は襲撃側と防衛側の戦闘に巻き込まれていないため、それなりに余裕がある。

 メリアは肩をすくめると、自分が持つビームブラスターをヒラヒラと振った。


 「武器が問題だ。とてもじゃないが、今の状況で突っ込みたくはないね」

 「それは……」


 装備の問題は大きい。

 貧弱な武装のまま危険に向かうよりも、この辺りで妥協するのが一つの選択かもしれない。

 その考えが強まるアンナだったが、ここでアルクトスが横から口を出す。


 「武器が必要なら、保管しているところへ案内してやれる」

 「それならそこまで道案内をお願いするわ」

 「……そういうことは、黙ったままでいてほしかったねえ。そうすれば諦めてくれるかもしれなかったのに」


 アルクトスの言葉を受け、アンナは武器を調達してさらなる証拠を探しに行くことを決心する。

 メリアとしては面倒な限りだが、まともな装備が調達できるならということで、渋々ながらも受け入れた。


 「で、場所は?」

 「少し離れてるが、誰にも見つからない道がある」


 アルクトスについていく形で通路を歩き続けると、やがて機械のパーツが大量に置かれている大きな部屋に入る。

 そして部屋の床にある古びたハッチがアルクトスによって開けられると、どこか他の場所へ繋がっていると思わしき通路が現れる。


 「真っ暗だね……ライトを付けないと見えない」

 「この通路は?」

 「パンドラはかつて資源を輸送する船だった。その巨大さゆえに、メンテナンス用の通路もたくさんある。とはいえ、忘れられた通路もいくらか存在している。俺はそこを通ったってわけだ」


 忘れられたと言うだけあって、今進んでいるメンテナンス用の通路には明かりの類いはない。

 ライトを点灯し、進んでいくが、メリアはアルクトスに質問をする。


 「アルクトス。どうしてそこまで色々知っている? 商品の割には、自由に行動させてもらってたのかい?」

 「知性とやらがあっても、ただのクマと変わらないんじゃ意味がない。商品価値を高めるために、色々と勉強させられたよ。おかげで、どこが怪しいか予想できたりする」

 「この通路は、ぶっつけ本番で利用したわけか」

 「ああ。襲撃による混乱のおかげで探索する余裕があったってのも大きい」


 話しているうちに、今度は別の部屋の中に出る。

 そこは倉庫のようだが、どう見ても長い間利用されていないところだった。

 アルクトスが近くに置いてあるコンテナを開けると、その中には銃器がいくつも存在していた。


 「ほら、この辺りのコンテナ全部に武器が入ってる。好きなのを取るといい」

 「……大量にあるけど、密輸目的かい、これは」

 「どうかしらね? 長く放置されてるみたいだし、その可能性があるだろうけど、今となってはわからないわ」

 「お二人さんの疑問はごもっとも。俺から言えるのは、このパンドラという船はでかすぎるから内部のことを完全に把握してる奴はいない、とだけ」


 ちょっとした軍の部隊を編成できるほどにある大量の武器。

 銃器以外にも、特殊合金製のナイフや斧、各種グレネードといった代物があるが、色々と物色していくうちにメリアはとあることに気づく。

 ここにある武器には、ビームを放つようなものが一つも見当たらないのだ。


 「実弾しかないとなると、弾薬も含めて考えないといけないか」

 「私は組み立てたこれがあるから、この中から持つとしてもハンドガンくらいので」

 「だったら……あたしはこれとこれにする」


 メリアは色んな銃器を試し撃ちしたあと、大型のライフルとショットガンを選ぶ。

 どちらも一発の威力を重視し、反動が強いものとなっているが、これは機甲兵やパワードスーツを着た者と戦うことを想定しているから。

 威力の弱いものを何度も当てるよりは、威力の高いものを当てて速攻で倒す方が身の安全に繋がる。


 「わお、無重力では使いたくないわね」

 「あたしだって使いたくないよ。腕とか肩の負担がね」

 「選び終えたか。あんた方を手伝おう」


 そのあとアルクトスも武器を手に取る。

 このままメリアの船に避難するよりは、メリアたちを手伝った方が早く脱出できるだろうという考えから。

 一人、この場合は一匹とも言えるが、戦力が多ければ多いほど選べる手段は増える。

 全員が装備を整えたあと、暗い船内はいきなり明るくなった。


 ビーッ! ビーッ!


 危険を知らせるアラームが鳴り響いたあと、音声が流れる。


 「特別保管庫にて異常事態を確認。船内の安全を確保するため隔壁を起動します。船内にいる方々は、焦らずに避難をお願いします。繰り返します、特別保管庫にて──」


 それは船内の状況を一変させる出来事だった。

 慌てて武器庫となっている倉庫を出るものの、通路の至るところで隔壁がおりている。


 「くそ、何が起きてる!? ファーナ!」


 今の状況を少しでも知ろうと、メリアはハッキング途中のファーナに通信を行う。


 「メリア様、早急に避難を」

 「そっちでわかることは」

 「監視カメラの断片的な映像からは、防衛側の傭兵が謎の生物を解放したのを確認できました。そこが特別保管庫のようです。その生物は強力で、襲撃側の者たちを蹴散らしながら船内を徘徊し……」


 通信は途中でノイズに満ちていき、最後まで聞くことができなくなる。

 ここぞいう場面でジャミングをやられたことに対し、メリアは盛大に舌打ちしたあと、アンナの方を見る。


 「アンナ、どうする? あたしとしては、そろそろ引き上げる状況だと思うが」

 「……隔壁がおりているんじゃ、証拠集めどころではないわ。一度船に戻りましょう」


 わけのわからぬまま、パンドラの内部を進むことはできない。

 ひとまず船に戻ることにした一行だが、隔壁がおりているせいで、今までの道を戻ることができなくなっていた。

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