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39話 企業に雇われている傭兵

 パンドラの四層部分は、美術館と博物館が一緒になっているだけあって人が多い。

 軽く歩いてみるだけでも、大勢の人がいるのがわかる。


 「見える限りでは、フロア全体で三百人……いや、警備を含めればもっと多いか」


 のんびりと見物している人々の他に、武装した警備員が数十人ほど巡回していた。

 パンドラは宇宙船なため、内部に不届き者が現れようともすぐに閉じ込めることができる。

 脱出するには、ドッキングした部分から宇宙船に乗り込むか、パンドラに備え付けられている脱出艇を利用するしかない。

 だからなのか、警備員の持つ武器らしい武器は片手で扱えるビームブラスターのみだが、厄介なことには変わりない。


 「しっかしまあ、色んなところから集めたもんだ。まとまりがないというか」


 展示されている物を眺めていくメリアだが、最初に出た感想はそれだった。

 無節操にあちこちから集められたせいか、展示されている物には統一感がない。

 古い時代に作られた金属製の全身鎧があるかと思えば、その隣には宇宙開拓の最初期に開発された宇宙船のエンジンが置いてある。

 人類が初めて入植した星の土や、どういう生物か不明な謎の骨格標本もある。

 時代、種類、そのどれもが合わないチグハグな配置は、それらを初めて見る者からすれば、ある意味退屈しないものではあった。


 「コレクションを自慢するにしても、もう少しやり方というものが……」

 「まったくだ! あんたもそう思うか!」

 「うお……ど、どなた?」


 いきなり背後から声が聞こえてくるため、さすがに驚くメリアだったが、振り返った先にはパワードスーツを着込んだ男性が立っていた。

 頑丈そうなヘルメットのバイザーは、今は何事もないからなのか解除されており、金色をした獰猛そうな目がメリアのことを観察している。

 髪も目と同じ色をしているが、こちらはしっかりと刈り込んであるのか目立たない。

 武器を持っていることからパンドラの関係者のようだが、一人で行動している理由はわからない。


 「おっと、これは失礼した。俺はウォレス。見ての通り……経験豊富な傭兵でね。病気で警備員に欠員が出たから、急遽任されることになった」

 「そうですか。それは大変でしたね」


 適当に相づちを打ってその場を離れようとするも、ウォレスと名乗った男性はなぜかついてきた。

 スーツも相まって大柄なため、どうしても視線を集める。

 そうなると、一緒にいるメリアに気づく人々も出てくるわけだが、何人かはメリアの美しさに見惚れるという状況に。


 「ほほう、どうやらあなたの美しさに気づく人が増えてきたようで。いやはや、美術品よりも価値ある美貌ってのは末恐ろしい。見たところまだ原石とはいえ、しっかりと磨いていけば、やがて銀河を揺るがすに違いない。お名前をお聞きしても?」

 「……離れてくれませんか?」


 ウォレスという傭兵は、見た目には三十から四十歳の間といったところ。

 スーツを含めた装備品を見ると、だいぶ使い込まれているのがわかる。

 経験豊富と自称するだけの実力はあると考えてよかった。


 「おっと、いきなり品定めしてくるとは、只者じゃないな。どうもドンパチする世界に身を置いた経験があるらしい」

 「いきなり話しかけてきた男性がいます。どういう人物か見ることはおかしいですか?」

 「いいや。いきなり話しかけてくる男がいたら、警戒するのはおかしくない。だが、その目がな。明らかに荒事を経験した奴のそれだ」


 ただのナンパかと思いきや、これは面倒なことになった。

 そう言いたくなるメリアだったが、ある意味周囲からの注目を集めている状況なため、目の前にいる傭兵の男性ともう少し話すことを決める。


 「ナンパはお断りです」

 「む……そう返されると困る。下心はないとは言えないからな」

 「そもそも、警備員の代役をしているのならば、しっかりとそちらの職務を遂行してはいかがです?」

 「いやいや、それがな? そこそこ自由にしていいという上からの命令があるんだ。なので、巡回がてら観賞してるってわけ」

 「それはまた、不思議なことですね。特別扱いされる理由があるのですか?」


 警備員の代役となっているのに、自由にしていいというのは、普通ならあり得ない。

 辺りに存在する展示品の数々は、少なくないお金を使って集められているだろうからだ。

 あからさまにナンパ込みで話しかけてくるウォレスという傭兵の男性。

 もしかすると、もっと深い何かを聞けるかもしれないため、メリアは質問していく。


 「そりゃあ俺の実力……と言いたいところだが、やはりアステル・インダストリーの仕事を受ける機会が多かったからだろうな。この巨大な船の持ち主である大企業様だ」

 「それほどまでの大企業からあなたは信頼されている、と?」

 「そうだとも。だから、他の傭兵たちなんかと違って自由に動けてる」

 「他の傭兵と言いますと……パンドラの三層で武装した集団を見かけましたが」

 「はっ、あんな海賊紛いの奴らなんて役に立たない」


 さりげなく、途中で見かけた傭兵のことを話題に出すと、どうやら何か知っているような反応がウォレスから返ってくる。

 あまり踏み込み過ぎれば怪しまれるため、メリアは慎重に言葉を選ぶ。


 「そうは言いますが、このパンドラに雇われているのでしょう? つまり身辺調査などは済んでいるはず」

 「ははは、お嬢さんはデカイ企業で働いたことがないな? だからそんなことが言える。共和国のデカイ企業の筆頭であるアステル・インダストリーってところは、それなりに汚いことをしてきた。俺もそういう仕事を任されたことがある。詳細は言えないが」

 「つまり、このパンドラも汚いことに関係していると言いたいのですか?」


 メリアがそう返すと、ウォレスはさすがに口が滑ったという表情を一瞬浮かべ、すぐにナンパしてきた時の表情に戻した。


 「……おっと、勘違いはいけないな。このパンドラは惑星の軌道上にある。当然、色んな監視の目があるわけでな。汚いことができるはずもない」

 「だといいんですが。せっかく色々な物を見ることのできるパンドラに来たんです。面倒な事には巻き込まれたくありません」


 あくまでも一般人を装い、自然な感じでとぼける。


 「そうだろうとも。ところで、美しいあなたのお名前をお聞きしても?」

 「特に、ナンパなんて面倒事の最たるものです。警備員としての職務はしっかり遂行してください。さようなら」

 「これは手厳しい。……そうそう、一つ忠告しておくが、怪しい行動をしたなら撃つからな。撃たせないでくれよ?」


 ウォレスという男性は、警備員の持つ武器とは比べ物にならない大型のライフルを見せつける。

 メリアは足早に離れたあと、再び話しかけられるのを避けるため、ひとまず五層へと移動する。

 エレベーターに乗っている間、少し考える。

 ウォレスが口を滑らせたのはほんの些細なこと。

 事前にアンナから、このパンドラという超巨大船で禁制品の取引があると聞いていなければ、気にすることがない程度のもの。


 「……どこから情報を」


 そうなると気になるのは、どうやってパンドラで違法な取引が行われていることをアンナは知るに至ったのか。

 わざわざ、海賊である自分を協力者にするというのは、公的な立場にある者がするにはおかしい。

 表ではバレても問題ない者を使い、裏では共和国軍が支援している可能性もあるが、それはそれで変な部分が残る

 いくつかの疑問が浮かんでくるメリアだったが、エレベーターが開くので外で待っている人と入れ替わるように出ていく。


 「意外と誰も信用できない、か……?」


 フロアの隅に移動したあと一息ついた。

 こうなるとファーナと通信したくなるところだが、持っている小さな端末では周囲に内容が聞こえてしまう。

 もうしばらくの間、一人で行動するしかないため、とりあえず宇宙船内部に作られた動物園とやらを見て回ることに。


 「うおー、なにあれ!? でかーい!」

 「ちょっと、あまり大きな声を出さないの」

 「お客様、ガラスの向こう側にいる生物が興奮しますので、どうか静かに見て回ってください」


 パンドラの五層は、動物園となっているだけあって親子連れの姿が多い。

 たまに大きな声を出す子どもはいるが、大半は静かにしていた。これは客層がお金持ちばかりなのが理由としては大きい。

 頑丈そうなガラスの向こう側には、様々な生き物がいるのを見ることができるが、見慣れない生き物に溢れている。


 「……足が六本の、ウサギ? あっちは、前足が小さいから二足歩行している恐竜みたいなトカゲ。奥は半透明な羽で空飛ぶムカデか」


 さすがに四層とは違い、展示される生き物は種類ごとに大雑把に分けられていた。

 哺乳類らしき生き物、爬虫類らしき生き物、昆虫らしき生き物、という風にエリアがそれぞれ存在する。さすがに水中に暮らす生き物はいなかった。

 そんな中、メリアは足を止める。端末に連絡が入っているからだ。

 急いで客や警備員のいない方へ移動したあと、小声で対応する。


 「……どうした?」

 「ファーナです。ヒューケラの方に通信が来ています。普通のではなく暗号化されたやつで、ディエゴという人から。わたしではなく、メリア様にしか話せないそうです」

 「ああ、そうなると船に一度戻らないといけないね」


 ディエゴは、海賊しか利用しない非合法な宇宙港における修理工場を経営しているため、メリアにとってはそれなりに接触する機会が多い人物。

 当然、向こうからわざわざ通信をしてくるということは、海賊関係の出来事なのが確実。

 パンドラでの行動を一時中断するため、メリアはアンナへと連絡を取る。


 「ええと、もしもし? 何かあったの?」

 「悪いけど、今日はそろそろ帰りたい。少し用事ができた」

 「そう。まあ初日だし、いいわよ」

 「いきなりで悪いね」

 「のんびり見物しましょ? 焦っても仕方ないから」


 パンドラと宇宙港を行き来する連絡船は、一時間刻みで往復するため、メリアは次の移動に遅れないよう乗り込む。

 そして宇宙港に到着したあとは、すぐにヒューケラへと向かった。

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