表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

295/302

293話 同じ遺伝子を持つ者同士

 「空いてるところに座るといい。話し合いは長くなるかもしれないから」


 その言葉を受けて、メリアは扉に近い椅子に腰をおろす。

 小屋の内部はそこそこの広さがあり、あと数人入ってきてもまだ余裕がある。


 「さて、どこから話そうか」

 「いつ、どこで、すべてを終わらせる戦いをするのか」

 「いつがいい? 一応言っておくけど、今は駄目だよ」

 「人類とフルイド、この二つの種族間の交流ってのはいつ終わる」

 「一週間ほどを見込んでる」

 「なら移動とかもあるし、二週間後で。場所は……誰にも気づかれない星系外縁部。惑星ドゥールがあるところだ」

 「わかった。お互いに、一隻だけで会おう。艦隊で待ち構えるとかはなしだよ?」

 「しない。待ち構えたところで、逃げられたんじゃ意味がない」


 やりとり自体はすぐに済んだため、メリアは外に出ようとするが、扉の前にレフィが立ち塞がり、背後からメアリが声をかけてくる。


 「まあまあ、帰るのはもう少しあとで。せっかく、こうして直接会えたんだから、もっと話そう」

 「……何を話すって? どうせ、ろくでもないことだろうに」

 「つれないねえ。まあ当たってはいるけれど。このレーヴという建造物に来る途中、宇宙空間で少し揉め事があったでしょ? あれね、私の仕業」

 「どういうことだ」


 メアリは軽い調子で言ってみせるが、それはかなり危険なこと。

 あの時、あの場には、多くの船があった。

 それだけ多くの人がいるわけだが、一歩間違えれば犠牲者はかなり出ていただろう。


 「メリア。君は一時的とはいえ海賊たちをまとめていただろう? 共和国から流れてきた有象無象が周囲に被害を出す前に、自分のところに集めて制御する。良いアイデアだけど、最後の最後で切り捨てられた海賊たちの気持ちは、いったいどんなものだろうね?」

 「何が言いたい」

 「捕まらずに逃げ切れた海賊に、とある噂を流したのさ。君たちのお頭だった人物は、惑星テラに来る、というものをね」

 「あたしを、襲わせようとしたのか」

 「ああ、そうなるね」


 その問いかけにメアリは頷いた。

 それと同時に、レフィが盾になるような位置に立つため、メリアはビームブラスターを握ろうとしていた手をゆっくりと離していく。


 「本当にろくでもない話だね」


 舌打ちのあと、表情は険しくなるが、ここで戦うのは得策ではないため、なんとか怒りを抑え込む。

 今ここで戦闘を起こしても、勝敗がどうなろうとも捕まってしまう。外には各国の戦力が存在するために。

 なので、相手の話を不機嫌になりながらも聞くしかないのだ。


 「確証のないただの噂なのに食いつきはかなりのものだったよ? いやはや、ひどい切り捨て方をしたんだねえ」

 「そういうお前こそ、利用するだけ利用して、使い物にならなそうだと判断したから、そこの人工知能を差し向けたんだろうに」

 「無関係の者を襲ってしまった時点で、ああなる結末なのは仕方ない。君を襲ったんなら、もう少し様子見をしてたけれど」


 心底どうでもよさそうに肩をすくめるメアリ。

 彼女にとっても海賊は駒でしかないようだ。


 「次は……そうだ。メリア・モンターニュ。君にとって帝国はどう見える?」

 「馬鹿馬鹿しい国」

 「もうちょっと真面目に答えてほしい」

 「真面目に答える価値がある国なのか?」

 「うーん、そう言われると苦しい」


 苦笑しつつ、これ以上国については尋ねないメアリだったが、なにやら笑みを浮かべるとじっとメリアの顔を見つめ始めた。


 「なんなんだ」

 「ふと思った。例えば、私が君のことを好きだとする。その場合、結構なナルシストになるのかな?」

 「どうだかね。気色悪い話だ」

 「同じ遺伝子を持っている。今のところ外見も同じ。不摂生な生活をしてないようでなにより」

 「…………」

 「睨まなくてもいいだろうに」

 「とりあえずナルシストでいいだろう。そもそも、遺伝子が同じでも違う人間だが」


 オリジナルとクローン。

 その関係性がどうなろうとも、結局のところそれぞれ異なる意思がその肉体を動かしている。

 それゆえに他人でしかない。


 「メリア。私のクローン。一つお願いがあるけどいいかな?」

 「内容次第」

 「私と手を組もう。同じ遺伝子を持つ者同士で争うというのは、無駄が多くてもったいない」


 メアリは手を差し出してきた。

 これはいったいどういうことなのか。

 メリアは無言でそう問いかける。


 「私たちが戦えば、どうあっても無事では済まない。自分で言うのもあれだけど、私は優れた才能を持っていて、それはクローンである君も同じ。そしてなにより、普通では不可能なことをできてしまう人工知能も、お互いに揃えている」

 「確かに、無事では済まないか」


 優れた能力を持つ人間のクローンであるからこそ、メリアは十五歳から海賊になっても今まで生きてこられた。

 それを否定することはできない。

 しかし、差し出してきた手を握ることはなく、軽く払いのける。


 「どうしてだい? 君が手を組むなら、フランケン公爵であるソフィアという子の命までは取らない。それに、私が皇帝となれば、君はその右腕として栄光を手に入れることができる。銀河の三分の一を支配している帝国の皇帝。その側近ともなれば、帝国においてはかなりの立場だ」

 「お前が気に食わない。メアリ・ファリアス・セレスティアという人間が」

 「へえ……? ずいぶんなことを言うじゃないか。でも私は寛大だから改めて問う。メリア・モンターニュ。もう一つの私。一緒に手を組もう。帝国における栄光を手に入れよう」


 皇帝という立場を経験した人間にしては、それはとても寛大な対応に思えた。

 少なくとも、他の人間がその手を振り払うなら、ただでは済まないことは明らか。

 けれど、改めて行われる問いかけに対しても、メリアは首を横に振るだけ。


 「決着をつけるんだろう? 今更そんなことを言われたところで、あたしが頷くとでも思ってるのか」

 「……やれやれ、強情だね。まあ、これで素直に頷いてくれるような相手なら、そもそも私がこういう状況にはなっていないとも言える」


 メアリは諦めたのか、手を引っ込める。

 そしてレフィに小屋の扉を開けさせた。


 「もう戻ってもいいよ。それともまだお話するかい?」

 「いいや。せっかくだし、このフルイドとの交流を数日ほど楽しむことにする。それじゃ、次は殺し合いだ。ファーナ、行くぞ」

 「はい」


 なにやらレフィと軽く睨み合っていたファーナを呼びつけると、一緒に小屋から出ていく。

 帰りは、来た時と同じように列車に乗ることで、駅から分かれ道のところまで戻ることができた。


 「ルニウたちが向かったのは、あの道か」

 「どう楽しみます?」

 「それは合流してから決める」


 歩き続けると、これまた駅のようなところに出る。

 既に到着しているモノレールがあるため、それに乗り込むと、遠くに都市区画があるのを窓から見ることができた。


 「そういえば、ずっと無言で睨み合っていたようだけど、向こうの人工知能とは何か通信でもしてたのか?」

 「ちょっと罵倒しあってました」

 「……そうかい」

 「あれ? 内容とか聞かないんですか?」

 「聞きたくない。不毛過ぎる」


 人間以上の処理能力から繰り出される罵倒。

 それは一つ一つの内容が人間と変わらなくても、膨大な量をぶつけ合っていたことは容易に予想できる。

 なので聞くだけ意味がないとメリアは考えていた。

 しばらくすると、レーヴ内部の都市区画に到着し、大勢の人で賑わっている広間へ出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ