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292話 出迎えと案内

 内部は賑やかだった。

 巨大な輪の形をしたレーヴ。

 その基本的な内装は、一般的なコロニーとそれほど変わらない。

 だが、その巨大さゆえに大勢の人々を抱え込める。

 内部を移動するための乗り物も揃っており、それなりに快適ではあるようだ。


 「まずは船をドッキングして、この連絡通路。そして進んだ先に広いターミナル。そこから色々な建物、といったところだね」


 髪を黒く染め、青い目に見えるコンタクトをして変装したメリアは、宇宙生活者といった装いのまま、端末の画面上に表示される電子的なパンフレットを歩きながら読んでいく。

 その後ろをついていく二人と一体と一匹は、初めての場所ということできょろきょろと辺りを見回していた。


 「うひょー、でかい! 一つのブロックでこれなのに、これが大量に連結して惑星を囲む輪になってるとか、どれくらいの資材と労力がかかったんですかね」

 「ルニウ、盛り上がり過ぎないように。悪目立ちしてはいけません。メリア様に迷惑がかかるので」


 ルニウとファーナのありふれたやりとりを後ろから見つめるセフィは、歩いている途中で軽くしゃがむと、自分の足元にいるルシアンの頭を撫でた。


 「ルシアン。よっぽどの危機が起きない限り、おとなしくしておくように。ここには、銀河の各国から大勢の人が集まっていて、それなりに武力を持った者もいます。……おそらく、元海賊もそれなりにいるはず」

 「ワオン」


 大勢の人が集まっているだけあって、これまた多種多様な肌の色を持つ人がいる。先天的なものか、後天的なものかはともかく。

 なので褐色の肌をしたセフィでもそこまで目立たないが、サイボーグ犬たるルシアンがその戦闘能力を発揮してしまったら、さすがに色々な意味で悪目立ちすることは間違いない。


 「お待ちしておりました。少々、お時間をよろしいですか?」


 もうすぐでターミナルに到着するという時、目の前に旅行客といった装いの男性が立ち塞がる。

 よく見ると、その男性は配下にした海賊のルガーだった。


 「どうせなら、宇宙の方で連絡が欲しかったけれども」

 「まあ、色々ありまして。その説明も兼ねて、少し歩きましょう」


 人が多いところでは話せない。

 今回のイベントを主催した者に聞かれる可能性も減らしたい。

 それゆえに、連絡通路からターミナルまでの間を、ゆっくり歩きつつ話すことに。


 「で、何か情報は得られたか」

 「あまり良い報告はできません。メアリですが、彼女は人工知能と会話する様子が増えたというのを、周囲から聞きました。それはまるで何かを教えたりする感じとか」

 「親や教師みたいに?」

 「さすがにそこまではわかりません。まあ、帝国で内戦を引き起こした人物が、独自に人工知能を保有している。明らかに警戒すべきことではありますが」


 ルガーからの報告は、あまり使い物にはならなかった。

 レフィという人工知能を、より使い物になるようにしていると考えていいわけだが、今の自分たちの立場ではどうすることもできない。


 「……期間の問題もあるか」

 「使えた時間は短いですからね。数ヶ月とか、それくらいに長ければ、もうちょい良さげな報告ができたとは思いますよ。それと、今回のイベントについて聞きます?」

 「何かあるなら聞こう」


 ルガーは足を止めるとしゃがみこむ。

 そして靴紐を結び直す動きをするのだが、その間にメリアへ知っていることを語っていく。


 「大勢の人々に対応するため、これまた大量のフルイドがこのレーヴにいるそうです」

 「何ヵ所かに分けての交流という形か。そうでもしないと追いつかないんだろう」

 「主催となるメアリは、基本的に放送だけで挨拶をするそうで」

 「本人がどこにいるかは不明、と」

 「あ、飲食とかは無料らしいですよ。他人の目を気にする必要はありますが、普通に楽しむのもありかと」

 「そういうお前は楽しむつもりか。問題起こすんじゃないよ」

 「そこは大丈夫です。それでは」


 長く一緒にはならず、ルガーは自分だけ一足先にターミナルへと入っていき、受付に並ぶ行列の一員となった。

 メリアたちはやや遅れて入ると、あちこちにできている行列を眺め、少しばかり険しい表情となる。


 「ターミナルに到着したあとは、ここから都市区画に向かう必要があるわけだが……」

 「人が多いですね。落ち着くまで待つか、今から並ぶか。どちらにしますか」


 どうしたものかと考え始めるメリアだったが、その時遠くから近づいてくる人影があった。

 明確にこちらを見ながら近づく姿は、一見するとただの少女のように思えるが、すぐにメリアは顔をしかめる。

 かなりファーナに近い姿をしているのだ。

 白い髪に青い目、頭部は限りなく人間に近づけてあるが、それ以外の胴体や手足はロボットそのもの。

 知らない人が見れば同じに見えるくらいには、そっくりな姿をしていた。


 「案内します。ついてきてください」

 「……聞きたいことがある」

 「人が多いここでは無理です。今から向かうのは、臨時に設定されたスタッフ用の通路なのでご安心を」


 少女型のロボットが示した先には、関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉があった。

 メリアはしかめっ面のまま歩き始めるので、他の者たちもあとに続く。

 人々の賑やかさに隠れる形で全員が扉の中に入ると、その先は無色で殺風景で通路となっていた。

 人の気配は欠片も感じられず、先程までの賑やかさはどんどん遠くなっていく。


 「歩きながらですが改めて。レフィと申します」

 「その人型の端末は、新しく作られたのか」

 「そうなりますね。あなた方を迎えるために急いで作られたものなので、そちらのファーナとは違い、戦闘能力は皆無です」

 「その姿は……いや、本人に聞くことにする。このあとメアリには会えるのか」

 「会えます。ただし、同行者の方々は途中で別れてもらいます。最も関係性が深い者同士での話し合いがしたいというのが、メアリ様の望みなので」


 最も深い関係性。

 オリジナルとクローン。

 それはある意味、親子以上に深い関係性を持っていると言える。

 血の濃さ、遺伝子の同一性、その他のあらゆるもの。

 進み続けていると、分かれ道の途中でレフィは立ち止まり、メリアとファーナには一方を示し、残りの者にはもう一方を示した。


 「ここから先は、限られた者だけ。残りの方々は、あの先にあるモノレールで都市区画へ向かい、ホテルで待っていてもらいたいです。ああ、料金は無料なのでお好きなところをどうぞ」

 「……とのことだが」

 「私たちじゃ踏み込めないあれこれがあるってことですか。気になりはしますけど、ここはおとなしく言われた通りにしときます」

 「ペット可のところに行くので、合流する時はそれを目印に」


 ルニウとセフィは離れていき、ルシアンは置いていかれないようあとを追う。

 その後、再び通路を進んでいくのだが、途中からどこかの駅のようなところに出る。

 小型の列車が存在し、それにレフィは乗り込むと、手招きをしてメリアたちを呼んでくる。


 「さあ、こちらへ。別の区画に向かいます」

 「どこに向かうんだ」

 「農業区画です。稼働していないので、農作物を目にすることはできませんが」


 共に列車に乗ると、すぐに移動が始まる。

 最初はゆっくりだが、数秒ごとに加速していくため、数分ほどで目的地らしき場所へ到着した。

 がらんとしており、照明はあまり機能してないのか薄暗い。

 ただ、一ヶ所だけ明るいところがあった。

 それは明らかに真新しい急造の小屋。

 レフィはそこに向かうため、メリアたちもそれに続く。

 そして小屋に入ると、見覚えのある忌々しい顔が現れた。

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