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291話 軽い挑発

 「変なもの食べたっけ。いや、でも、みんなと同じものしか食べてないし……」

 「何をぶつぶつ言ってる」

 「ルニウのことは気にしないでください。お母さん、外はどうなってますか」


 あと何時間か待つ必要があったはずが、外で何か動きがあると聞いては、のんびり湯船に浸かってはいられない。

 だいぶ急いで出てきたルニウとセフィは、最低限の部屋着姿でブリッジに。


 「ファーナ、ちょっと画面の一部を拡大」

 「はい」


 着替えてる途中のメリアは、ファーナに指示を出す。

 すると大きなスクリーンに、とある場面が映し出される。

 いくつかの宇宙船に機甲兵らしき存在が乗り移り、携行している火器を、乗っている船体に向けていた。

 既に砲台の一部は破壊されており、船側はろくな抵抗ができない状態だった。


 「なにやら揉めてるようで、一触即発の事態になってる」

 「パトロール艦隊の一部が周囲にいますが、死者が出ることを警戒しているからか、今のところ包囲して説得をしているといった感じです」


 厄介で面倒なことに、トレニアは揉めている船団と距離がそれほど離れていない。

 大型船なので強力なシールドが存在し、多少の流れ弾があろうと損傷しないとはいえ、イベントが中断する事態になるのはメリアとしては避けたかった。

 わざわざ、こんな面倒なところに足を運んだのは、因縁のあるメアリと細かい話をするためであり、これで帰るしかない状況になったら大きな時間の無駄となる。


 「これって、まずい状況なのでは? 私たち、無駄足になる可能性が」

 「大勢が集まるイベント。もし死者が出れば延期か中断は確実。けれど、そこまでの心配はいらないと思います」


 セフィは濡れた髪を新しいタオルで拭きながらそう言い切った。

 当然ながら、周囲からはその根拠が何か聞かれるわけだが、これにも堂々と答える。


 「メアリは自分の名前を売るためにこのイベントを主催しているわけです。となると、多少の揉め事が起きようとも問題ないよう備えているはず」


 人類とフルイド。

 異なる種族ながらも、お互いに意志疎通ができる存在であるため、その交流ともなればすべての国が注目する。

 ゆえにメアリ・ファリアス・セレスティアという名前を売る、これ以上ない機会であるわけだ。

 そんな貴重な機会が潰れることを、あの者がおとなしく受け入れるか?

 答えは否。

 むしろ、面倒な状況を自分にために利用してしまうだろう。


 「ふむ……セフィの言い分にも一理ある。主催者がどんな手で解決するのか、お手並み拝見といこうか」


 そうこうしているうちに、一隻の中型船がやって来る。

 その瞬間、ファーナの動かす少女型の端末は顔をしかめた。


 「どうした?」

 「あの船、レフィという人工知能が動かしてます。わざわざ、向こうからこちらに連絡が来ました」

 「なかなか、むかついてるような表情だが」

 「“優秀さを見学するように”という文章を送ってきたんですよ」


 お互いに人工知能であるからか、妙な対抗意識を燃やしているファーナだが、メリアとしてはレフィという存在がどう動くか気になった。


 「向こうは、どう出るのか」


 眺めていると、すぐにレフィの動かす中型船は動いた。

 いきなり船体ごと体当たりしたかと思えば、格納庫から小型の無人機らしき存在がわらわらと出てきて、機甲兵たちに次々と取りついていく。

 その無人機はどこか球形をしていて、海に暮らす生物のようにいくつもの触手を持っている。

 まず武器を奪って破壊し、次に手足を縛って身動きできないようにすることで、生け捕りにしてしまう。

 あっという間の出来事であり、体当たりされた船が大きく損傷した以外、これといった死者は出なかった。


 「……あれと戦う可能性がありそうだ」

 「一つ一つは小型なので、機械などに効果的な電磁パルスが放てるよう、専用の装置を開発しておきます」

 「どうせなら、小さな範囲で済むやつがいいね。グレネードみたいに使える代物とか」

 「それなら、メリア様の乗る機体への影響を大きく減らすことができるので、並行して開発を進めます」


 トレニアの内部に工場はないが、ちょっとした設計ならできる。

 今のうちにいくつか設計と開発をしておき、戻ってから実物を作ったあと、問題を発見してもすぐ改良できるようにすれば、多少は時間の節約になるわけだ。


 「中型船、去っていきます。それと、再び連絡が」

 「何が送られてきた?」

 「……“鮮やかな手腕、あなたにはできないことでしょう”」

 「わかりやすい挑発だね。向こうも向こうで、ファーナのやり口を知りたがってるんだろう」

 「まあ、わたしは優れた人工知能ですから」

 「自分で言うな」


 挑発してきたのは、ファーナがハッキングか何か仕掛けてくるよう仕向けるつもりと考えていい。

 とはいえ、相手に手の内を見せてもいいことはないので、メリアはなだめる。

 大きなイベントだからか、そもそも交流を行う場所とは離れているからか、これといって延期や中断のお知らせは来ない。

 そして何時間か経って、惑星テラに近づいていくと、惑星を取り囲む巨大な輪があるのを目にする。

 惑星というのは巨大だが、それを取り囲めるほどの輪となれば、さらに巨大である。


 「とてつもなく大きいですね」

 「おおー、教科書でしか見たことない施設だけど、実際に見てみると迫力ありますよ。これ」

 「確か、三つの国が共同で輪の形をした施設を運営していて、維持する費用を分担してあるものの、近年施設をどう有効活用するべきか議論されているとか。これは比較的最近のニュースにありました。扱いは小さいですけど」


 それはとてつもなく大きかった。

 一キロメートルはある大型の宇宙船を、何百隻も内部に格納できるほどには。

 惑星テラには軌道エレベーターがなく、その巨大な施設は、軌道上にただ存在し続けている。


 「……採算度外視で作られた巨大な施設。これを作るくらいなら、惑星の環境が悪化しないよう努力した方が安上がりだったろうに」


 惑星一つを丸々取り囲む巨大な施設を見て盛り上がる一行とは別に、メリアは離れたところで軽く頭を振っていた。

 この巨大な施設が作られるまでの過程については、子どもの頃に教科書で学ぶことがあったからだ。


 「なにやら表情が優れないようですが」

 「あっちとは別の個体か」


 ファーナは人工知能であるがゆえに、同時に複数の肉体を持つことができる。

 ルニウやセフィと一緒にいながら、メリアと一緒にいることは不可能ではない。

 ただし、普段はメリア自身が嫌がるので、一対一となるようにしているが。


 「そんなに大したことじゃない。昔の人間の馬鹿さに呆れてただけだよ」

 「と言いますと?」

 「あの輪っか状の施設はレーヴ。教科書からの受け売りだけどね。口が悪い者は、あれを儚い夢の残骸と言ったりする」


 メリアはため息をつくと、教科書で学んだことを語っていく。昔のことなので、うろ覚えな部分が多いという前置きをしつつ。


 「前も話したけど、テラの環境は悪化していくばかり。その中で対策の一つとして考えられたのが、この輪っか状の施設の建造」

 「惑星に暮らす人間を、宇宙に移すわけですか」

 「ああ。数億人は暮らせるという売り文句だったよ。当時の記録を読む限り。とはいえ、建造には何十年もかかってね。その間に環境の悪化も進んで、何億もの人間が移住したところで意味がないところまできてしまった」

 「これだけ巨大となると、膨大な資源と時間を費やしますね。その分を環境の改善とかに費やした方が、まだ効果的ではありますか」


 メリアは頷くと話を続ける


 「それでテラから人がいなくなったあとも、このレーヴという施設では数億人が暮らし続けるが、これまた数百年が過ぎる頃には、他の星系とかに移ったりするから最終的には誰もいなくなった」

 「そして今に至る、と」

 「そのあとも細かいことは色々あったけど、そっちについては個人がブログとかにまとめたものを読むといい」

 「あれだけ巨大なら、維持するだけでも大変そうです」

 「けれども解体するのはもったいない。だから、有効活用したいという議論が出てくる」

 「今回、メアリが主催したイベントは、その一環ということですか」

 「おそらくは。あいつは、いったいどれだけの金を用意したのやら」


 レーヴという輪っか状の施設は、惑星以上の直径を誇る。

 つまりそれだけ大きいわけだが、そんな施設が事実上の貸し切りとなっている。

 かなり前からメアリが裏で工作を進めており、お金という実弾を大量に使用したことは間違いない。


 「警戒だけはしておくように」

 「カメラとか、気をつけないといけませんね」


 やがて、レーヴにドッキングするよう案内が出されるため、指示に従って施設と船を繋ぐ。

 あとは中に入るだけだが、その前に着替えや変装を済ませておく必要があった。

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