289話 開発の途上で
廃工場の修復がいくらか進むと、本格的に開発が行われるようになる。
前回の戦いでは機甲兵に乗っていたことから、新しく専用の機甲兵を作ることに。
搭乗するタイプのロボットの設計図だが、これは裏社会を利用すれば、市販品だけなら簡単に入手することができた。
軍の一部が採用しているような代物になると、これはさすがに難しい。
「射撃テストを開始します。武装は、一般的な機関銃となります」
「準備はできてる。始めてくれ」
工場の一部は、改築によって機体テストを行う区画となった。
装甲がほとんどなく、フレームが剥き出しな機体に乗ったメリアは、激しく飛び回る飛行機械を撃っていく。
連射し続けるのではなく、小刻みに撃っていく形だ。
「反動はそこそこ抑えられてる。ただ、動きが硬い」
「さらなる調整が必要ですね」
工場に戻ったあと、メリアは機体から降りる。
実験的に作られたそれは、各種データを集め、個人に最適化されたものを作るために存在していた。
ファーナの動かす作業用機械がいくつもやって来ると、その場で機体を弄っていく。
「手っ取り早いのは大型化することですが、戦う相手が相手なので、小型のまま性能の向上を目指す必要があります」
「難しいもんだよ。小型化と性能向上の両立ってのは」
大型化すれば、諸々の問題は解決する。
だが、相手はあのメアリ。古い時代を生きた皇帝。
少なくとも、前回の戦闘と同じ感覚で行けば、負けるのは目に見えている。
だからこそ彼女に勝てる兵器が必要だった。
様々なテストによってデータを集めたりしていくうちに、近くにいたルニウが慌てた様子でやって来る。
「これ見てください、これ」
「……わざわざ持ってこなくても、リンクさせて画面の共有をすればいいだろうに」
やれやれとでも言いたげなメリアだったが、端末の画面にメアリが映っているのを見て、わずかに表情を変える。
そこで流れている映像は、人類とフルイド、二つの種族の交流が近いうちに行われることを宣伝するものだった。
「人類とは異なる知的生命体。新しく人類の隣人となった彼らですが、未だに謎が多い。とはいえ、その謎の一部を明らかにすることができるかもしれません。惑星テラにおいて、交流を行うこととなりました。残念ながら、すべての方々が参加できるほど会場は広くありませんが、交流する各種イベントを増やすことで、少しでも多くの人々に機会が訪れるようにしたいと考えています」
メアリはニコニコと笑みを浮かべ、彼女の横には、フルイドが乗っ取ったと思わしき機械が人の形状となって立っていた。
宣伝をしているのは、そんな両者の間に挟まれる形となった若い男性。
よく見ると、少しばかり緊張しているのか顔がひきつっている。
「……場所は、よりによってあそこか」
「うわ。何を考えてここを選んだんですかね?」
「どういうことですか?」
メリアとルニウの否定的な反応を受け、ファーナは横合いから質問をする。
宇宙は広大であり、各国はいくつもの星系を保有している。
そうなると多数の惑星が存在するため、どうしても知らない惑星というのは出てくるわけだ。
「……昔、貴族としての教育を受けていた時だけどね、歴史の勉強をすることがあった」
「古い時代の歴史となると、やっぱり比重は減っていくものですけど、転換点となるような出来事は絶対に教えられます」
「それは、どのような?」
ファーナはある程度のことを知っているとはいえ、人類の歴史については疎い。
どういうことか尋ねると、メリアは端末を弄って人類の歴史について書かれたページを表示させる。
それは教科書に書かれている内容をざっくりと説明したものであり、大まかな内容を知るならこれで事足りる。
「最初、人類は一つの惑星で暮らしていた。その星の名はテラ」
「ここ関連のって、テストに絶対出るので嫌でも覚えますよ。多分、他の国の学校でも同じかと」
今の人類の領域は、かなりの範囲に拡大しているが、元々は一つの惑星から始まった。
最初は空を飛ぶことすらできなかったが、平和と争いの日々を繰り返すうちに、とうとう宇宙に進出する技術力を得た人類。
だが、それゆえにテラの環境は悪化していく。
テラが駄目になろうとも、他の惑星があるじゃないか。
そんな意識が続いたせいで、宇宙への進出から数百年が経とうとした時、とうとうテラは人類が居住できる惑星ではなくなってしまった。
「その結果、人類にとって故郷とも呼べる惑星は、放棄されることが決まった」
「人々は、開発の進んだ他の惑星に向かいました。まあテラに残っていた人は数億もいたので、どこにどれくらい住まわせるか、滅茶苦茶揉めたらしいですよ? 当時のことを語る資料とかは、図書館に行けば見れます」
「テラは今も放棄されているのですか?」
ファーナの問いかけに対し、メリアは首を横に振る。
そしてやや顔をしかめた。
「いいや。人間がいなくなることで環境は回復していった。早く回復するよう民間の団体が活動していた分も、いくらか影響しているとは思われる」
「その顔からすると、環境が回復したテラという惑星は、奪い合いになりましたか」
「……ああ」
元々、人類という存在が生まれたところであり、環境が悪化していなかったら、テラは最高の居住可能惑星である。
そうなると、環境が回復したなら誰もいない豊かな惑星ということになり、誰もが欲しがるわけだ。
「人類の始まりの星ということで、どこの国のものでもない扱いだった。ある意味、中立と言える」
そこまで言うと、メリアは自らの茶色い髪に手をやり、指先で軽く弄り始める。
「当時は帝国がまだ存在せず、いくつもの国があった。当然、帝国に対抗するための星間連合も生まれてない」
「群雄割拠の時代ということですか」
「そうなる。で、色々なところが争った結果、軌道上の戦いなどで生まれた残骸がテラの地表に落下したりするせいで、環境は再び悪化」
「なんというか、人類というのは……」
「まあ、あたしも人類だから耳が痛いね。とはいえ、人間が暮らしてないから放っておけば回復するんだが、戦闘による環境悪化に危機感を覚えた有力な国が主導して、色んな国を巻き込んでテラを改めて中立な惑星に指定した」
「自分のものにするのが難しいなら、いっそのこと誰の物にもならないよう手を打ったように思えます」
「さてね。真実は大昔の中だ」
メリアは端末の画面に表示されているページを消すと、今度は銀河の全体図を表示させる。
より正確には、各国とテラの位置が映し出されている。
それを見たファーナはわずかに驚く。
「この位置は、三つの国に接していませんか」
「ある意味、世界の中心と言える。これは平面的に出してる簡易的な図だから、かなり精細に出す三次元タイプの地図の場合は割とずれてるけどね」
帝国、共和国、星間連合。
その三つの国に接している、中立の惑星。
なんともまあ厄介なところで、人類以外の知的生命体との交流を行うものだと、メリアはため息をついた。
「わざわざ、人類の最初の惑星において、人類以外の知的生命体と交流を行う。それはもう、主催したあいつは目立つだろうね」
「名前とか顔を売るためのイベントだったりして」
話が長くなっているからか、お菓子を食べながら呟くルニウ。
「なるほど。自分を他の奴らに売り込むためか。あと、食べるなら別の場所で食べろ」
「ええー、少しくらいいいじゃないですか。というか、メリアさんはあれに参加します? フルイドと交流できるみたいですけど」
「……どうしたもんかね」
メリアは頬杖をついたまま悩む。
無理に行く必要はない。フルイドとはそれなりに見知った関係だし、それにフルイドという種族の特性についてもある程度は理解している。
タルタロスで囚人として過ごした日々を思い返していると、ファーナに呼ばれる。
「メアリから連絡が届いています」
「内容は?」
「“テラに来るのか、来ないのか。返事が欲しい”とのことです」
「行くよ。どういう決着をつけるか話し合う必要もあるし。まあ、変装はするけれども」
同じ顔の者が二人いれば、悪目立ちする。
なのでメリアは変装をして向かうつもりだった。
そして日程ギリギリまで、新兵器の開発やデータの収集にテストを繰り返したあと、残り日数を見ながらテラへと向かう。