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287話 一時的な停戦の提案

 一時的に戦闘は中断され、数を減らした艦隊同士が向かい合うと、お互いの旗艦だけが前に進み出る。

 そしてある程度近づいたら、有線での通信が行われる。


 「元気そうでなにより」

 「わざわざ小型船で外に出てやったのに、仕留め切れない誰かさんのおかげでもある」


 漂う雰囲気は最悪の一言。

 メリアは敵対心を隠そうともせずに煽り、それを受けるメアリはため息混じりに肩をすくめてみせるが、表情はやや険しくなる。


 「せっかくの映像通信なのに、いきなり煽ってくるとはね」

 「糞面倒な襲撃をしてきたのが悪い。……それに余計な死人も増えた」

 「人が減れば増やせばいい。そのための技術は揃っているし、実際過去の帝国ではそうしてきた」


 それはとても単純なもの。

 人を数字として見ることの多い皇帝だからこその思考。

 領地を持った貴族も大なり小なりそういう部分を持っているが、さすがにここまでではない。


 「……そもそもの話、どうしてこの公爵領を狙った? 狙わなくても、古い時代を生きてきた皇帝ともなれば、現代では不自由なく暮らせるだろうに」

 「まあね。色んな人が私を呼ぶ。歴史学者の人とかにお呼ばれして、当時のことを語ったりしたし、いくつかの番組に出たりもした」


 数百年も昔を実際に生きてきた人物。しかも皇帝ときた。

 当時の暮らしや人々を語るだけでも、食べるには困らない。

 なのになぜ、戦力を用意してまで襲いかかってきたのか。

 メリアの問いかけに、メアリは数秒ほど待ってから答える。


 「私は権力がほしい。皇帝としての立場、それはどれほどのことを成し遂げられるだろうか。できないことなどないと言えるほどだよ。かつて皇帝だった私だからこそ、そう言い切れる」


 答えは単純だった。

 そしてわかりやすくもあった。

 それゆえに厄介であることが改めて示されるのだが。


 「内戦の勝者になれたなら話は早かったけども、もう一人の私とも呼べる者に邪魔されてしまったからねえ。おかげで“元”皇帝だよ」

 「公爵領を襲わなくても、皇帝になる機会はあると思うが」

 「いやいや、馬鹿を言っちゃいけない。君も貴族としての教育を受けたならわかるはず。権力の源泉となるのは何か、という話だから」

 「……金と暴力」


 メリアは舌打ちしそうな様子で言う。

 表の社会だろうが、裏の社会だろうが、結局のところ金と暴力で成り立っている。

 暴力があれば大抵の人間は動かせる。恨みを買う確率も高いが。

 その暴力を、あらゆる面で支えるのが金だ。

 兵士の給料、兵器の購入や維持、暴力を用いたあとの後始末、とにかく色々と費用がかかる。


 「よくわかっているようでなにより。そう、金と暴力だよ。しかし、今の私には領地となる星がない。有人や無人を問わず。一応、テラフォーミング途中のタルタロスという惑星があるが、監獄としての悪名が轟くその星は、フルイドに引き渡すことになっているからね。私の収入にはできない」

 「……で、そろそろ今回の話し合いを持ちかけた理由を聞きたいところだが。決着をつけるための方法、だったか」


 いい加減に本題を話すよう促すと、長々と語っていたメアリは、口を閉じて真面目な表情となる。


 「人類とフルイド、異なる知的生命体の交流が数週間後に始まる予定でね。私はそれを主催した立場であり、絶対に失敗させるわけにはいかないと考えている」

 「フルイド側と事前に話をつければ、何が起きても失敗はしなさそうだが」

 「フルイドは大丈夫だろうね。でも、人類の方に何か起きてしまったら? これは二つの種族の今後にも影響する。そこで提案だけれど、種族間の交流が終わるまで、一時的な停戦といこう」

 「一時的、ね」

 「そうだよ。私は皇帝となるための足掛かりが必要であり、君はそれを止めたい。なら最終的な決着がつかないと、どうしようもない。妥協点は存在しないのだから」


 果たしてこの提案を受け入れるべきか?

 ファーナはどんな決定でも従うのか、軽く頷くだけ。

 ルニウも似たような感じではある。

 セフィは、自分の血が混ざった水入りの容器をチラチラと見せてくる。直接会って操ってしまえということだろう。


 「直接会うことは?」

 「たっぷりの護衛つきでなら。単独では無理。そっちが単独で来るなら受け入れるけど」

 「それこそ、こっちも護衛つきじゃないと」


 直接会うことは不可能。

 だからこその映像通信であるわけだが、最終的にメリアはため息混じりに答える。


 「一時的な停戦の申し出を受けよう」

 「それじゃ、数週間後にまた。種族間の交流の時、細かいことを話そう」

 「その前にくたばってほしいけどね」

 「やれやれ、どうせならもっと別の言葉ならよかったのに」


 このまま通信が終わろうとしたその時、メリアはさらに話していく。


 「そういえば、そっちも使い物になる人工知能を投入してきたろ」

 「否定はしない」

 「どういう代物か見てみたい」

 「おやおや、やがて決闘があるのに見せるとでも? 対策を取られるかもしれないのに」

 「決闘には、人工知能を役立てることができる物を使うつもりか」

 「いけないかな? 大きな出来事となれば、それに相応しい戦いがあって然るべき。君と私が生身で殴り合うよりは、よっぽどいい」

 「……ふん、それならどういう条件でやり合うのか聞いておきたいところだが」

 「機甲兵やパワードスーツを使う。いわゆる白兵戦。宇宙船を使う戦いとなると、予期せぬ事態が起こるかもしれないから」


 一時的な停戦のあとどういう方法で戦うか決められるも、話し合っているところにファーナが横から言う。


 「それはつまり、そちらの人工知能は宇宙船の扱いに不慣れで、機甲兵やパワードスーツといった小さいものしか満足に扱えないからですか?」

 「おい……こら」


 割と直球の煽りを口にするため、横で聞いていたメリアはさすがに注意する。

 だが、その煽りは向こう側の人工知能に効いてしまったのか、突如通信画面にノイズが走ると、見慣れない少女のような女性のようなデフォルメされた存在が現れた。


 「ずいぶんなことを言いますが、これは余計な犠牲を防ぐためでもあるのですよ? 自分の力を過信すると、このように失礼な仕上がりになるのですね」

 「……言い返したくなるのはわかるけどね、もう向こうとは話がついたから」


 せっかく話がまとまったのに、無駄に揉めることを避けたいのか、メアリはやや困ったような表情となる。


 「わたしは目覚めてから長い期間を過ごし、世の中を見てきました。あなたはいつ生まれました?」

 「数年前ですが何か? まずは実験的なアプリによって、大勢の人間から学び、日常を経由して成長してきたため、無駄に長く存在し続けただけのものよりは優れていると思います。あなたの長い期間というのは、数十年? 数百年? どちらにせよ、こちらの数年分でしかないのでは?」


 人工知能同士の争いは、留まることを知らない。

 あの手この手でマウントを取ろうとし、そのたびにどちらかが言い返す。

 それが数分続いた辺りで、メリアは近くのモニターに映像が表示されていることに気づく。

 そこには、なんともいえない様子のメアリが映っていた。


 「ファーナといい、あの人工知能といい、なんでまともなのを作れない」

 「それを言われると痛い。けれど、感情豊かな方が一緒にいて楽しいわけでね?」

 「その結果、不毛な言い争いが起きているというのに?」

 「あの程度可愛いものだよ。私たちの戦いという、来るべき本番に比べれば」


 これだけを言うと、メアリは通信を切った。

 人工知能同士の言い争いも一段落したのか、睨み合う状況になっていたため、メリアはこの場を離れるようファーナに指示を出す。

 メアリの方も似たような命令を出したのか、ブリッジにおける映像通信は途切れると、少しずつお互いの旗艦は離れていき、艦隊の中に入り込む。

 そしてメアリ率いる艦隊がワープゲートを利用して去っていくと、フランケン星系における戦闘は完全な終わりを迎えた。

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