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286話 学習とフィードバック

 ワープゲート付近から宇宙空間に戦場が移ると、お互いに艦隊を広く展開していき、少しでも相手を減らそうと膨大なビームが放たれる。


 「小型と中型は無視しろ。優先すべきは大型のやつだ」

 「では、無人戦闘機に機甲兵を乗せた組み合わせを突入させます」


 メリアは戦場を見渡しながらも、後方の惑星やコロニーにも目を向けた。

 急いで生産されたわずかな艦船と艦載機が増援として運ばれている途中であり、焼け石に水な戦力ながらmp戦力の補充ができているというのは大きい。

 対するメアリの艦隊は、新たに補充できる戦力はない。

 現時点において、数では同等、質ではだいぶ負けているものの、耐えることができれば勝利できる。


 「ふう……」


 基本的に宇宙での戦闘、特に艦隊戦は目視よりもレーダーに頼ることが多い。

 人間の目では見えないくらい遠いところから撃ち合うためだ。

 レーダーには、大量に小さい光点が前身しているのが確認できる。

 取っ手がつけられた無人戦闘機に、これまた無人の機甲兵が取っ手の部分を掴むと、敵艦隊へと運ばれていく。


 「有人じゃ、乗ってる中身がもたないね」


 近くのモニターでは、機甲兵のカメラが捉えた映像を見ることができるが、目まぐるしく動くせいでまともに見ていると酔う。

 ビームに当たらないよう回避するのだが、急激過ぎる機動のせいでそうなっていた。

 無人機だからこそ可能な動きだが、動かしているのがファーナという人工知能なのも影響している。


 「一割が撃墜されましたが、残りは敵艦隊の内部に入り込みました」

 「迎撃してくる艦載機は?」

 「数は少ないです。なのでこのまま大型の……」


 ファーナの言葉は途中で止まる。

 レーダーにあった小型の光点が、一気に半分ほど消し飛んだからだ。


 「方針を修正。艦隊は後回しになります」

 「ああ、わかった。どうやら、さすがにそう簡単には勝たせてくれないみたいだね」


 無人機を送り込んでも、迎撃されるのでは意味がない。

 残った無人機で、攻撃してきた敵の正体を把握しようとするも、それは意外な相手だった。


 「敵の艦載機らしき兵器を破壊しましたが……どうやら無人機のようです」

 「無人か。それでファーナの動かす戦闘機とかを消し飛せたということは……嫌な考えが思い浮かんでくる」


 ファーナという、まともではないからこそ強力な人工知能。

 それと同等の人工知能が相手側にはいる。

 そのことをほぼ確信するメリアであり、ルニウを呼びつける。


 「はいはいー、突然呼ばれましたけど、なんですか?」

 「あたしと一緒に、小型船にでも乗って艦隊の守りを固める。艦隊の撃ち合いじゃなく、送り込まれてくるだろう無人機に備えて」

 「ええと、つまり、ファーナがやってるのと同じことを、相手もこっちにやってくる可能性が?」

 「そうだ」

 「うわぁ……死にそう」

 「生き残ったら臨時ボーナス出してやる」

 「そういえば、表向きには公爵からの仕事でしたっけ。よーし、生き残れるよう頑張ります」


 ルニウが格納庫へ走っていくのを見送ったあと、メリアは歩きながらファーナへ通信を入れる。


 「あたしが小型船で宇宙空間に出てることを、それとなく向こうに知らせろ。いくらか動きを誘導できる」

 「危険ですよ」

 「今更な話だよ。これまで散々危険なことをしてきた」

 「わかりました。メリア様の要望通りに」


 戦っている間にも、戦場は少しずつ動いていた。

 じわじわと惑星ヴォルムスに近づいていき、ある段階から防衛衛星による支援攻撃が始まる。

 レールガンによる狙撃が行われると、敵艦隊の動きがやや乱れる。

 直撃しても一発で撃沈とまではいかないが、シールドを貫通できるため、運良くビーム砲台に当たった場合は戦闘能力を奪うことができたためだ。


 「メリアさん、意外と余裕で勝てそうじゃいですか?」

 「さすがにそれは楽観しすぎだ。状況は厳しいが、よくなりつつあるとはいえ、決定打となる無人機による攻撃が防がれてるのは痛いね」


 千を越える規模の艦隊。

 宇宙空間からすればちっぽけなものだが、その内部を飛ぶと圧巻される。

 艦隊同士の撃ち合いは未だに劣勢であり、消耗する速度はこちらが上回っているものの、その比率は少しずつ縮まっていた。


 「メリア様、敵艦隊から無人機の部隊が。先程わたしが送り込んだのと同等のものです」

 「こちらでも確認できた」


 戦闘経験の差か、敵の無人機部隊は、艦隊に到達する前に三割が落ちた。

 そして生き残ったらものが内部に入り込むと、真っ先にメリアを狙ってくる。


 「ふむ、あたしを狙いに来たってことは、楽なもんだね。ルニウ、援護しな」

 「言うほど楽ですかね。あれって」


 無人機は、人間だけを相手していたなら対応できないように思えるほど、いきなり直角に動いたりする。

 慣性を無視した動きは、攻防を両立させていた。

 しかし、メリアとルニウのどちらも、ファーナという人工知能のおかげで人間ではない相手との訓練相手には事欠かないため、余裕をもって対処できる。


 「数多くないですか」


 ルニウはぼやいた。

 艦隊の内部を飛び回りながら、無人機の部隊と戦うのは、なかなかにきつい。

 常に動き続け、慣性による肉体への負担が増していく中、厄介な機動をする相手を撃っていく。


 「ファーナと向こうの人工知能の処理能力は同等と仮定して、あたしに対して処理能力を費やすなら、その分ファーナの動かす艦隊による攻撃は通りやすくなる」


 メリアは、ルニウよりは余裕をもって相手していた。

 基本的には、逃げ回りながら生き残ることを優先するが、時には稼働できるビーム砲台を背後に向けて反撃を行う。

 正面からの攻撃を敵無人機は避けてしまうが、そうすると代わりにファーナやルニウからの攻撃が命中しやすくなる。


 「ま、向こうの人工知能が何を考えてるかわからないから、あたしの考えが当たってるかどうかはわからないが」

 「いっそ話しかけてみるとかは?」

 「なかなか面白い考えだけどね、さすがにもう少し安全にならないと」


 追ってくる敵をすべて撃ち落としても、さらなる無人機が投入されてくる。


 「メリア様、先程よりも多くの部隊が入り込みました。戦闘を学んでいるのか、だいぶ生き残ったようです」

 「ちっ……学習からのフィードバックが早すぎる」

 「あの程度ならわたしもできますが」

 「張り合うな」


 人工知能が動かす無人の機械。

 通常の人工知能ならば、多少のランダム性があろうともパターンは読み切ることができる。

 しかし、今この戦場に存在するのは、敵味方のどちらもまともではない代物。

 まるで人間のような意思を持ち、それでいて人間以上の処理能力を用いることができるのは、危険以外の何物でもない。


 「お互いに残りの戦力は?」

 「敵は二千隻、味方は千隻、これに防衛衛星が五十。ただし、数十という規模ながら、こちらは定期的に補充ができるので、時間の経過と共に有利になります」

 「……ソフィアからは、たっぷりと仕事の報酬を貰えそうだ」


 メアリが打ってきた思いもよらぬ一手。

 それを防いだとなれば、表の社会を生きるために立ち上げたなんでも屋の業績は大きく伸びるだろう。

 数千隻がぶつかる戦場となれば、実績としても申し分ない。


 「社長、私のボーナス期待してますからねえ~」

 「気が早いね。そもそも生き残らないと貰えないからまだ油断するな」

 「わかってますよ」


 勝利が見えてきた。まだ確実ではないが。

 ここからが大事だということで、メリアは油断しないよう言い含めるが、その時ファーナから困惑混じりの通信が入る。


 「メリア様、メアリから通信が」

 「降伏ってわけでもなさそうだね。内容は?」

 「“これ以上の戦闘はお互いのためにならない。無駄に戦力を消耗する前に、決着をつけるための方法を話し合いたい”とのこと」

 「…………」

 「どうします? 一応、このまま戦い続ければ、被害は大きくとも勝てるとは思います。向こうの人工知能は経験をだいぶ積みそうですが」

 「攻撃を中断するなら、その話し合いに乗る。そう返信を」

 「はい」


 話し合いがどのような結果になるとしても、時間稼ぎができ、それは戦力の補充に繋がる。

 全体的な火力で負けているため、勝ち目だけでなく負ける目も残っていることから、メリアは少し迷った末に、話し合いを受けることにした。

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