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283話 仕組まれた計画

 「これ、何がどうなってるんですか?」

 「あたしもわからないから聞くな。今から確かめに行く」


 フランケン公爵領はどこも混乱に満ちていた。

 軍が各地への移動のためワープゲートを優先的に利用するので、一般人の多くは後回しにされて宇宙空間で待機することになる。

 これは宇宙港でも、軌道エレベーターの利用で似たようなことが起きていた。

 そのため少し盗聴できる通信を探すと、様々な文句を聞くことができる。


 「いったいなんなんだ? 内戦の時でもこんなことは起きてなかったぞ?」

 「大丈夫なのかな……。もっと安全なところに避難した方が」

 「ああくそっ、納期に遅れる。どうしてくれるんだ。ふざけんなよ」

 「あー、給料に影響しそうだな」


 メリアは大型船のトレニアと合流したあと、ルニウからどうなってるのか聞かれるが、自分も知らないので答えようがない。


 「どこ行くんです?」

 「フランケン公爵たるソフィアのところ」


 政治的にも経済的にもフランケン公爵領の中核となっている、フランケン星系。

 その星系唯一の有人惑星であるヴォルムスに、ソフィアはいる。

 おそらく、自分たちよりも色々知っているだろうということで、メリアは会おうとするのだが、一般人はワープゲートの利用を後回しにされてしまう。


 「……ちっ、仕方ない。貴族としての身分を振りかざす」

 「わーお、嫌な貴族がやることの一つですね」

 「ルニウ、ちょっとその口閉じてろ」


 モンターニュ伯爵という身分を振りかざすのは、とても効果的だった。

 軍の者は何か言いたそうにするが、帝国において貴族というのは特権階級。

 しかも公爵の知り合いということも相まって、フランケン星系まで邪魔が入らない道のりとなった。


 「さて、到着したはいいが」

 「一見すると、慌ただしいながらも平穏のようです」

 「惑星の方とかはどうなってるかな?」

 「実際に行けばわかるのでは」

 「セフィの言う通りだ。とりあえず近づいて通信を入れる」


 戦闘らしい戦闘は起きていないため、数時間もしないうちに惑星ヴォルムスに到着できた。

 宇宙港には入らず、軌道上を漂いながらソフィアへ通信を試みると、険しい表情を浮かべた幼い少女が現れる。


 「大変なことになりました」

 「何が起きた? 詳しいことを教えてほしい」

 「つい先程、通達が届けられました」


 ソフィアが持つ端末の画面上には、こう書かれていた。

 公爵という立場にありながら、その広大な領地を統治しきれぬ有り様を見るに、幼き身で公爵という地位は重荷であり、不釣り合いと言う他ありません。

 であるならば、大勢の人々が暮らす領地の混乱を静めるためにも、武力を用いてでもソフィア殿を保護する方針となりました。


 「“保護”ときたか」


 そして文章の最後には、メアリ・ファリアス・セレスティアという名前が記されていた。

 この名前を目にした瞬間、メリアは盛大に舌打ちをする。


 「……幼く、後ろ楯のない公爵。どんな形であれ、その領地を奪い取れたなら、豊富な収入を得ることができる。そして収入に見合うだけの大規模な軍隊も。まったくもって、くそったれな話だよ」


 なんとも厄介なことに、ソフィアから奪い取ってもそこまで問題にならない根拠をメアリは持っている。

 ソフィアには、メアリの遺伝子情報がいくらか混ざっている。一応とはいえ、遺伝子上の母であるわけだ。

 それを世間に明かしてしまえば、法をわずかに違反するだけで公爵領を自分のものにできる。

 非難の声は出るだろう。

 しかし、領地を得てしまえば有耶無耶にできてしまう。

 結局のところ、最終的には武力がすべてを決めるのだ。多少の建前は必要ではあるが。


 「それで、公爵閣下はどうされるので? 相手の言い分を呑むのか、はね除けるのか」

 「既に亡き叔父上が、わたくしを殺そうとしてまで得ようとした公爵位。つまりは、それだけの価値があるということに他なりません。もし渡してしまえば、これまでの犠牲が無意味なものとなります。なので、どうにかはね除けたいとは思っています」

 「そうかい、わかった。あたしも協力する。あいつの計画を阻止することに繋がるから」


 メアリという忌々しいオリジナル。

 彼女のクローンであるメリアからしたら、計画の阻止という嫌がらせができる時点で、ソフィアに協力しないという選択肢は存在しない。

 とはいえ、本人に抵抗する意思がないとどうしようもないが、それは解決した。


 「では、一度降りてきてもらえますか? 今後について話し合いたいので」

 「宇宙船で直接乗りつけても?」

 「構いません。建物にぶつからないのなら」


 行動は早い方がいい。その方が対策を取られにくくなる。

 ソフィアのいる屋敷の位置を教えてもらい、大気圏に突入できる小型船で付近の土地に着陸すると、すぐさま屋敷の中へ。

 通信機器を利用しての会話は避けたいのか、一室に集まるよう言われるため、その通りにする。


 「何か打つ手は? ないなら、こっちは勝手に動くが」

 「既に、動かせる者を動かして怪しい者を排除して回っています。ですが、各地での暴動を止めることができていません」

 「向こうからすれば、火種を仕込めるだけ仕込んだはず。海賊などの犯罪者といった、わかりやすい奴ら以外にも」


 状況はよくないと考えていい。

 あのメアリが、強硬手段を取ってくるということは、盤面はだいぶ向こうの望む通りに進められている。

 それを覆すにはどうすればいいか。


 「結局のところ、武力のぶつけあいになる。使える戦力は? 宇宙のだけでいい」

 「公爵家の私兵として、全体で五千隻ほどの艦隊がいます。ただ、各地に分散しているので、今すぐに動かせるものとなると、五百にも満たない数しかありません。あとは防衛衛星がありますが、だいぶ数が減ったので……」

 「戦力が足りないとなると、かさ増しするか。公爵閣下には悪いけど、資金の援助をしてほしい」

 「売っているものとなると民間の船ばかりですが、買い物をするならこちらのカードをどうぞ」


 公爵家の口座に直結しているクレジットカードが手渡される。

 買いたい物を好きなだけ買えるわけだが、対象が艦船となると、相当な金額が動く。

 なのにあっさりと渡せたのは、それだけ信頼していると考えていい。


 「……大盤振る舞いだね」


 それゆえに、さすがのメリアもやや驚いていたが、すぐに気を取り直す。


 「向こうが何をしてくるとしても、ソフィアを確保できないと意味がない。……身の回りは大丈夫なんだろうね?」

 「大丈夫です。ヴォルムスにおける怪しげな者はほとんど排除を終えているので地上は問題ありません。ちなみに、ここの周囲には対空砲台を見えないよう設置してあるので、宇宙から何か来ようとも撃ち落としてしまえます」

 「それなら、一応は安心か」


 もし誘拐でもされたら、メリアが何をしようとも手遅れになる。

 その可能性が低いことに安堵すると、話は次に移る。


 「こちらをご覧ください」


 ソフィアがそう言うと、壁に設置されている大きなモニターに、公爵領の全体的な地図と各地に派遣されている艦隊の数などが映し出される。


 「既に、元皇帝のメアリ率いる艦隊が地図の東部に位置する星系に侵入しています」

 「迎撃できる艦隊は……いないね」

 「一応、宇宙の犯罪者に備えたパトロール艦隊はいますが、軍と戦えるほどではないため、素通しするしかなく、足止めは期待できません」


 地図に記されている公爵家の艦隊の配置、そして東部から迫るメアリ艦隊の位置を見ていくと、メリアは再び舌打ちをした。


 「まずいね。各地に艦隊が分散したせいか、道ができてる。メアリにとって、この星系に到達するまでの一本の道が」


 星系から星系への移動には、艦隊の規模が大きいほど時間がかかる。

 それは敵味方共にほぼ同じ。

 公爵家の艦隊は問題に対処しているため、メアリの足止めのために引き返したところで間に合わない。

 無理をすれば少数は間に合うだろうが、それだけではあっという間に蹴散らされるだろう

 つまり、メアリを足止めできるのは実質的にメリアしかいない。


 「ファーナ、好きに買い物をしな。できる限り急いで戦力を整えろ」

 「はい。それでは一度宇宙に戻りますね」


 ファーナがいなくなったあと、メリアは地図に目を戻す。


 「相手の戦力はどのくらいなのか」

 「報告によると、複数の艦隊が行動しているのではっきりとした規模はわかりませんが、およそ五千隻とのこと」

 「それだけで済むなら嬉しいけれども」


 五千隻というのは戦力としてはかなりの規模だ。

 しかし、大事なのは数よりも質。


 「大型船の割合は?」

 「半分ほど」

 「……本気も本気だね、向こうは」


 大型の宇宙船は、一キロメートルを超えたものがほとんど。

 それだけの大きさがあるということは、当然ながら艦載機の類いにも警戒しないといけない。

 数字以上の戦力と考えるべきだが、そうなると対抗できるのかという不安が生まれてくる。


 「味方してくれそうな貴族は?」


 この質問に対し、ソフィアは無言のまま首を横に振ることで答えた。


 「ちっ、周囲の貴族の気持ちはわからなくもないけどね」


 メアリ・ファリアス・セレスティア。

 古い時代の皇帝でありながら、コールドスリープによって現代まで生き永らえていた人物。

 当然ながら、帝国中に彼女の信奉者がいる。そうでなければ、コールドスリープを続けることも、目覚めたあと内戦を引き起こすことも不可能だからだ。

 そんな彼女の邪魔をして、もし負けたなら、そのあとが怖い。

 それならいっそ、傍観する方がいいと考える気持ちは、幼少の頃貴族としての教育を受けたメリアにとっては、むかつくことに理解できてしまう。


 「はぁ……やれるだけやるしかないか。ソフィア、連絡を取ってほしい相手がいる」

 「どなたでしょうか?」

 「イネス・ジリー公爵。多少は手助けしてくれるかもしれない。傍観者となる可能性もあるが」

 「わかりました。こちらへどうぞ。専用の通信設備があります」


 当主となる予定だった自らの兄を“事故”によって排除し、両親に対しても“事故”を起こすと、弱った両親から都合の良い遺言を得て、当主の座を自分が得られるようにした。

 そんな公爵であるイネスとは、かつて協力関係にあった。

 メアリが引き起こした、帝国を二分する内戦において。

 それゆえに、メアリを敵に回した仲間ということで、今回の件でなんらかの手助けを期待して連絡するも、返事は少しばかり期待外れといえるものになる。


 「手助けね。もちろんしましょう。しかし、内容は言えません」

 「……それはまた、反応に困るお言葉ですが」

 「その時になればわかります。こちらとしても、色々と表に出したく関係とかがあるので、納得してもらう他ありません」

 「……わかりました。期待しておきます」


 通信が終わったあと、メリアはため息をついた。

 どんな手助けか内容がわからないのでは、無いものとして考えるしかない。

 果たしてメアリの計画を妨害できるのか。

 不安は増すばかりだった。

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