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282話 海賊たちの終わり

 「メリア様、工事の進捗についてのお知らせです」

 「見るよ」


 ごつごつとした岩肌が辺り一面に広がる地表。

 ほとんど重力のないそこには大量の宇宙船が集まっていたが、その目的は地下に建設された採掘基地の改装。

 海賊としての規模を拡大し続けると、それなりに大きい拠点が必要になる。

 そのため、メリアは放棄された採掘基地に目をつけた。

 ただ暮らすだけなら、宇宙船の中だけでも充分なのだが、船の修理や改修ができる港としての機能を持たせることが重要だった。

 そして目的はもう一つ。これこそが本命といえるものだが、それは迎撃用の砲台の設置。


 「港としては半分ほど。砲台は予定の九割に到達。これなら、今の段階でも使い物になるか」

 「砲台の用途は、集めた海賊たちを背後から攻撃して刑務所に叩き込むため、と。恨まれますね、裏切る形になるので」

 「もう海賊の時代は終わりだ。どこの国も、海賊とそれを支援する各国の軍の派閥は勢力を大きく減らした。あとはまあ、あたしの仕事の実績にするわけだが」


 防衛用ではなく、仲間だった海賊たちを攻撃するために、砲台は設置されていた。

 普通の戦闘になれば、どうあっても犠牲が出る。

 ならば、圧倒的な戦力差を実感させるしかない。

 そうすることで海賊たちは降伏という選択肢を選ぶことができる。


 「メリア様はなかなかの悪党です。こうして人を集めておいて、自分の利益のために売り払うことができるので」

 「人聞きの悪いことを言うな。公爵からの仕事だから、ほどほどに手を抜きつつ、大きな成果を得られるやり方を選んでるだけだ」


 海賊に対して地道に一人一人対処するのは、はっきりいって面倒。

 なので自分自身が海賊たちを率いる存在になってしまえば、簡単に一網打尽にすることができる。


 「ソフィアが言った二週間は、明日訪れる。……明日、突然延期なんてことがないといいけれど」

 「お別れですね。結構な組織になりましたが、これを捨て去る形に」

 「風船はずっと膨らみ続けることはできない。どこかで破裂してしまう。……短期間でここまで大きくなったのは、とにかく選別しないで人を集めたからだ。見せしめの効果で、今のところ秩序は保たれてるが、この規模を維持し続けることはできない」


 質を問わず海賊たちを集めた。

 組織としては大きくなったが、既に喧嘩などの揉め事は定期的に起こっている。

 組織として機能しなくなる前に、目的を果たしておきたいが、それはすべてソフィアの動き次第。

 荒れ果てた地表を眺めながら、メリアは戦艦内部の一室で眠りについた。




 「起きてください。メッセージが届いています」

 「……んん、ああ」


 体を揺さぶられる感覚と共にメリアは目を覚ますと、ファーナが差し出す端末の画面を見る。

 そこには短い文章で、公爵家の艦隊を送り込みます、とだけ書かれていた。


 「予定通り、と。方面艦隊の総指揮官たるオスカー殿には、既に色々と命令が届いているかな?」

 「どうでしょう? 確認することができないのでわかりません」

 「ま、のんびりしながら待っておこう」


 何か近づいてきたらレーダーに反応がある。

 それまでは、何事もないように振る舞うことが一番。

 戦艦を動かすのは目立つので、小型船に乗り込むと、重力が弱い地表をゆっくりと飛行していく。

 今は配下にした海賊たちをすべて集めているため、かなり広い範囲に海賊船が散らばっており、採掘基地周辺では様々な機械を用いた工事が行われている。


 「メリア様、暗号化された通信が来ています。詳細を話すためにも戻ってきてください」

 「やれやれ、どうやら忙しくなりそうだ」


 ゆっくりできたのは数十分ほど。

 ファーナの動かす戦艦に戻ったあと、ブリッジに急ぐ。


 「どこから来てる?」

 「不明です。おそらく、通信の中身を読み解けばわかるとは思いますが……これはアンナからのようです」

 「わざわざ送ってくるとなると、何か情報を得たみたいだが」


 レラーハ星系においてメリアが暴れることで、色々と注目が集まっている。

 それに紛れる形で、フランケン公爵領の有人惑星において、現地の犯罪者たちに暴れるようお金を出す者がいる。

 目的はおそらく、公爵本人の守りを薄くすること。

 暴れる仕事をもらった者は、よくある貴族同士の争いだろうという意見を口にしていた。

 しかし、私はそうは思えない。

 そもそも、その仕事を引き受けた者を排除するような動きもあったから。

 文章の内容はこれで終わっていた。


 「……まあ、そう単純な仕事にはならないか」

 「誰かが裏で動いている。しかし、誰が?」

 「ちょっかいをかけてくる者がいる。それから自らを守るためソフィアが動いているのは確定として……もしかすると、あたしの作った組織が公爵家の戦力とドンパチやり始めた時、一気に動きを見せてくるか、これは」

 「では、海賊たちを生け贄にしつつ、わたしたちはここを離脱。そして状況の確認といきましょう」


 ファーナはそう言うと、レーダーに引っかかる艦隊の存在を示す。

 話している間に、海賊を討伐する戦力が到着する時刻になっていた。


 「よし、芝居の時間だ」


 メリアは軽くストレッチをしたあと、配下全員に聞こえるよう広域通信を行う。


 「公爵家の艦隊が接近しつつあるので、これを返り討ちにするぞ。なあに、相手は腰抜けだ。恐れることはない!」


 どこまでも威勢のいい呼びかけであり、ほとんどの者は盛り上がって戦闘に同調する。

 一部の者は、さすがにまずい状況であることを自覚していたが、今逃げ出したところで味方に撃たれてしまう。

 せめて一度迎撃して、どこかで混乱が起きてからと考えるも、それは叶わない。


 「あー、ファーナ。なんだか相手の艦隊は速度を落としてないように見えるが」

 「多分、無人の船を前面に配置してますね。壁として、ミサイルとして、まずは突撃させてくるようです」

 「……贅沢な使い方をするもんだね。ソフィアは」


 それはまさかの戦術だった。

 圧倒的な資金力によって大量に無人の艦船を用意すると、それをミサイル代わりに突撃させてくる。

 シールドがしっかりと機能しているため、艦隊としての形を整える前の海賊たちでは、効果的な反撃が行えない。

 大慌てで砲台を動かすも、三割ほど数を減らすことしかできず、残りは地表に次々と衝突していく。


 「……ファーナ、戦艦は迎撃行動を維持。あたしたちは小型船のヒューケラでこの戦域を離脱する」

 「はい。戦艦には特定の行動を続けるプログラムをセットします」


 次々と爆発炎上していき、地表ではかなりの混乱が起きていた。

 死者はほとんど出ていないようだが、本格的な戦闘になれば増えていくだろう。

 重力がかなり弱いせいで土煙はまるで霧のように辺りを覆うが、その場から逃げることを考えると、むしろこれ以上ない好機。

 逃げ出したことを配下に気づかれないまま、メリアとファーナを乗せた小型船ヒューケラは宇宙空間へと飛び去った。

 そしてその時、討伐艦隊から通信が入る。


 「オスカー・バーダーです。海賊たちを一ヶ所にまとめてくださり感謝します」

 「よくもまあ大量に無人の船を突撃させたものだと、文句を言いたいのですが」

 「公爵閣下は幼いがゆえに、驚くべき発想が出てくるわけです。……それに、まともに撃ち合っていては、あなたが離脱する機会はなかなか訪れないので」

 「まあ、こちらに被害はなかったのでこれ以上文句は言いません。ソフィア殿はどちらに?」

 「今は、惑星ヴォルムスにおられるかと」

 「わかりました」


 居場所を聞いたあとは、レラーハ星系を去る。

 戦闘については心配なかった。

 奇襲に等しい無人の艦船の突撃によって、海賊たちはろくな陣形を取れず、砲台についてはファーナが仕込んだウイルスが悪さをしてまともに機能しない。それどころか、背後から撃ってくる始末。

 そして最も重要なことに、海賊たちを率いていた者が消えたことで、組織としての抵抗ができないという有り様。


 「決着、か」

 「逃げ出す者もいるようですが、包囲網は抜けられないでしょう」


 ワープゲートに到着する頃、勝敗は決した。

 複数の艦隊が広く展開しており、バラバラに逃げ出した海賊たちは最終的に捕まっていく。逃げ切れないのがわかると降伏する者もいた。

 有象無象の海賊たちはこれにて無力化されるわけだが、報酬を貰うまでが仕事。

 ソフィアのいる惑星ヴォルムスへ向かうメリアだったが、補給のために一番近い惑星の宇宙港に立ち寄ると、厄介なニュースを見ることになる。

 それは、フランケン公爵領のあちこちで暴れる者が発生したというもの。

 地上で、宇宙で、理由は不明ながらも無軌道な暴動が起きた。

 鎮圧のために軍が派遣されたので安心するように伝える臨時ニュースが流れていたが、メリアは顔をしかめた。


 「急がないとね。トレニアとの合流も含めて」

 「計算では、次のワープゲート付近で合流できます」

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