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280話 依頼した者の苦悩

 レラーハ星系において、メリアは海賊として暴れていたが、それを遠いところから眺める者もいた。


 「ソフィア様、レラーハ星系の件で定期報告が」

 「聞かせてください」


 ソフィア・フォン・アスカニア。

 元々は貧乏貴族だったアスカニア家の当主であった彼女は、フランケン公爵という地位を相続することで公爵となった。

 その際、メリアと接点を持つ。

 しかし、十歳という幼すぎる年齢は、公爵という地位を背負うにはどうしても経験不足なところがある。

 配下の騎士などが支えるものの、まだ公爵となってから日が浅いため、公爵領の状況を把握するだけでも一苦労。

 その目は少し眠そうにしていた。


 「メリア・モンターニュ伯爵が率いる海賊たちは、彼女を頂点とした一つの組織となり、日に日にその規模を拡大しています。一週間が過ぎた時点では、確認できるだけでも千人以上」

 「異常なまでの速度です」

 「はい。とにかく参加したがっている者を節操なく引き入れているため、普通なら遠からず揉めてバラバラになることが予想されますが、そもそもの目的を果たせるまで組織として維持できればいいので」


 有象無象の海賊たちを一つの組織に集め、一網打尽にする。

 その目的のために、普通なら抱え込むべきでない者ですら組織の一員として取り込んでいるわけだ。

 とはいえ、それはそれで簡単なことではない。


 「闇雲に人を集めて、よく組織にできるものだと感心します。あなたもそう思いませんか?」

 「同感ではありますが……彼女は組織を維持するため、強烈な見せしめを行っていたようで。どんな見せしめなのか映像を入手していますが、目を通しますか?」

 「どれくらい強烈なのですか」

 「それは、その、十歳という年齢のソフィア様が見るべきではないものとしか」

 「ではやめておきます」


 ソフィアがそう言うと、配下の一人はほっとした表情を浮かべる。

 慣性制御を切った上で、強制的に加速と減速が繰り返された宇宙船の内部というのは、いくらなんでも十歳の子どもには刺激が強すぎる。

 そもそも荒事に慣れた大人でも見るのはきついのだが。


 「それと、裏社会の者から帝国製の戦艦と空母を購入したようです。治安維持のため、販売ルートを取り締まりますか?」

 「まだ、しません。海賊の処理が終わったあと、少しずつ締めつけを厳しくする程度で行きます」

 「わかりました。それでは次に……」


 さらなる報告が行われようとした時、扉を叩く音が聞こえてくる。

 規則正しく叩かれているが、何十秒か経っても音は続いていた。


 「ソフィア様、お通ししますか? おそらく、元皇帝のあの方かと思われますが」

 「ここまでしつこいのなら、通すしかありません」


 やがて扉は開けられ、美しい女性が入ってくる。

 メアリ・ファリアス・セレスティア。

 彼女は大昔を生きていた皇帝だったが、口が悪い者は彼女のことを帝国の頭痛の種と呼んでいたりする。


 「やあ、二人きりで少し話がしたいから来てしまったよ」

 「そうですか」


 ソフィアは無言で配下に出ていくよう促すと、すぐに二人きりの状況は整えられる。

 メアリは近くの席に座ると、ぐるりと周囲を見渡しながら口を開く。


 「どうだい? 貧乏貴族から裕福な公爵になって、しばらく経っているようだけど」

 「大変なことばかりです。色んなことに目を通さないといけません」

 「配下に任せたらいい。そして自分は遊び呆けるのさ。ま、そんなことしてたら他の貴族が黙っていないけど」

 「後ろ楯のない幼い公爵。それはとても美味しい獲物」

 「自分のことを理解しているようでなにより」


 元々は、叔父であるエルマー・フォン・リープシャウ伯爵が後ろ楯になる予定だった。

 彼は、姪であるソフィアから公爵位を奪おうとしていたが、メリアの働きによって計画が阻止されてからは、公爵となった姪を支えることで帝国内部における影響力を増大させる方向に動いていた。

 しかし、そんなエルマーは当時生きていた皇帝によって消されたため、ソフィアの後ろ楯となる人物は今のところ存在しない。


 「メリアに色々やらせているようだけど、そろそろ私に返してほしいな」

 「あの人はあなたのオモチャではありませんよ」


 幼い少女の牽制は、しかし悪辣な大人には効果がない。

 メアリは笑みを浮かべると、背もたれに寄りかかる。


 「オモチャかどうかなんてのは些細なことだよ。結局のところ、どう使うかでしかない。……私のクローンである彼女に仕事を任せてる君のように」

 「少なくとも、あなたのような人よりはまともという自負があります」

 「ははは、帝国貴族がそれを言うか。セレスティア帝国の皇帝だった私が言うのもあれだけど、帝国は歪んでいるよ。歪んだまま存続できるシステムになっているけども」

 「これ以上の用がないならお帰りいただきたく」


 冷たい態度を受け、メアリは肩をすくめると、席を立ち上がる。


 「君は私との会話を好まないようだから手早く済ませよう。君の領地にちょっかいを出そうとしている貴族は鬱陶しいだろう? 私が後ろ楯になれば、いくらか抑えることができる」

 「それで、何を代価として要求するのですか。わたくしはあなたを後ろ楯にしたいとは思いません」

 「……やれやれ、そこまで頑固なら諦めよう。世間話をするのも難しそうだし、ひとまず去るよ」


 メアリが去ったあと、ソフィアは険しい表情で近くの端末を見る。

 画面上には、レラーハ星系以外における海賊の活動状況が記されていた。

 どこも海賊が活発化しており、対処に手間がかかる。

 そのせいでメリアが活動しているレラーハ星系はしばらく放置するしかない。


 「ソフィア様、あの方はこの屋敷を出ていかれました」

 「そうですか。……これを見て何か気づくことは?」

 「はい? 各星系における海賊の状況ですか、これは……」


 配下が戻ってくると、ソフィアは端末の画面を見せて渡した。

 画面を操作したり見つめたりして数分が経過すると、何かに気づいたような声が出た。


 「あ! これはもしかすると」

 「手短に説明を」

 「ええとですね、日が経つごとに、海賊たちの活動範囲は移動していっています。最初は隣接する星系から公爵領に入り込んだ海賊たちは、少しずつレラーハ星系に近づいていて」

 「寄らば大樹の陰。大きな海賊の組織ということで、大量の個人が向かっているわけですか」

 「こういう動きは、モンターニュ伯爵に任せればどうとでもなるので楽な限りではあります。ただ、流されずに動くわずかな海賊は、警戒しておくべき存在かと」

 「では、安易に動かない海賊の討伐を優先していきます。それとレラーハに送る戦力を見繕うことも並行するように」

 「はい」


 後方の者といえど、楽ではない。

 どこの誰が仕掛けてきているのか不明な嫌がらせに対処するあまり、まだしばらくメリアに任せるしかない。

 いちおう、正式な仕事として依頼を出しているため、延長分は追加料金を支払えば多少の文句はあっても受け入れてもらうことはできる。

 ただ、根本的な解決をするには、どこの誰が嫌がらせをしてきているのか突き止める必要がある。

 注意というか、警告をして動きを封じないと、また別の方法で嫌がらせをしてきて、動きを探ってくる。

 そしてもし隙があれば、そこを突いて領地などを奪い取りに来るのだから。


 「相続するには、重い代物ですね。公爵位というものは」

 「しかし、ソフィア様が相続するまでの間、海賊たちがのさばっていたわけでして」

 「裕福ではない貴族よりは、裕福な貴族である今の方が良い生活ができています。今の立場を維持するためにも、努力をし続けるしかありません。そのためにも、あなたのように信用できる者が増えてくれると嬉しいのですが。フリーダ」

 「そればかりは、地道にやっていくしかないかと」


 幼い主と、若き帝国の騎士。

 主従揃って軽いため息をついたが、まずは目の前にある問題に取りかかった。

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