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278話 海賊たちを組織として一つに

 そのコロニーは賑わっていた。

 元々の住民以外に、共和国から訪れた人々が集まっているわけだが、メリアが人々の会話に耳を傾けると、色々聞くことができる。


 「はぁ、やれやれ、新しい政府も困ったもんだ。海賊への対処を優先するあまり、こっちの商売に問題起きるってのが」

 「宅配物を片っ端から調べられるせいで、大型の輸送船よりも小型の輸送船のが早く届くとか、会社の利益にも影響が出ますよ。そのせいで大型船の人員は、まとめて有給を取らされるわけですけど。自分たちみたいに」

 「せっかくだからと帝国へ旅行に来たら、同業者ばっかりで混雑してるのも、それはそれでどうなのよ、っと」

 「あ、ゴールに入った」


 コロニー内部の公園においてバスケットボールを弄りながら話す集団は、同じ仕事をしている集まりなようで、話している内容からして一般人。

 これといって新たな情報が聞けなくなった段階でメリアはその場を立ち去る。


 「マクシミリアンは、かなり強引にやってるようだね」

 「悪影響はそこそこのようです」

 「ま、海賊をどうにかするよう求めたのはあたしだし、あまり文句も言えないか」


 海賊の討伐には軍を動かす必要があるが、闇雲に追いかけるだけでは効果が薄い。

 末端の者をどうにかしたところで、組織という本体は無傷。

 なので、どういう繋がりがあるか、規模はどの程度か、そういった情報を得てからでないと、効果的に海賊を潰すことができない。

 そのための強引なやり口というわけだ。


 「企業との繋がりがあるところを潰せたとしても、それ以上に有象無象の海賊が存在している。かつてのあたしみたいに、個人でやってるような場合とかね」

 「そんな何もかもバラバラな者たちを、一つの組織に集め、最終的には刑務所へ叩き込むわけですね。かなり恨まれそうです」

 「その時はその時だ」


 ぶらぶらと歩いていくうちに、治安の良い場所からどことなく治安の悪い場所へと移る。

 自衛用のビームブラスターを、これ見よがしに身につけている者ばかりであり、メリアたちは少しばかり視線を集めた。

 全身を宇宙服で隠した者と、少女の姿をした精巧な人型ロボット。その組み合わせは、嫌でも目を引くからだ。


 「そこの人、少しいいですか」


 大半は遠巻きに見るだけだが、たまに声をかけてくる者もいる。

 その視線はファーナに向いていた。


 「なんだい」

 「そのロボット、売ってもらうことは?」

 「売り物じゃない」

 「そう言わずに」


 周囲から数人が近づいてくる。

 力ずくで奪い取るつもりなのだろう。

 メリアは、ここでは話せないから場所を移すと言って人のいない路地に向かう。

 その瞬間、さっき話しかけてきた者を含めて集まった者全員が襲いかかってくるが、ファーナと共にあっという間に返り討ちにする。

 ぼこぼこにされて逃げ出す者を見送りながら、メリアは軽く息を吐いた。


 「ファーナにも宇宙服を着せておくべきだったか」

 「わたしが魅力的過ぎるせいで問題が起きるのは悲しいことです」

 「……その様子なら、このままでも問題なさそうだね」

 「次はどこへ向かいますか? 酒場だったり?」

 「いや、数人程度ならともかく、ある程度の頭数を求める場合は、もっといい場所がある」


 メリアはコロニーのさらに奥へ移動する。

 より正確には、床より下にある地下。外殻と内殻の間。

 おんぼろなビルに入り、エレベーターで下の階層へ降りて、そこから少し歩くと、目的地に到着する。

 そこは後ろ暗い者が集まる空間。

 これといった施設はないものの、人が集まれば自然と様々な店が現れ、取引をしていくようになる。


 「こういう場所があるのですね」

 「コロニーだからこそ、こういう場所ができる。惑星とかだと、地面を掘り進めるだけで大変だが、コロニーの場合は事前にこういう空間を作っておける。とはいえ、表にバレるのを避けるために、厳しいルールがある」


 “武器を持った喧嘩は禁ずる。問題はここではなく宇宙で解決しろ。コロニーの住民に危害を加えるな”


 壁には、長い月日のせいでやや薄れていたが、文字が書かれていた。


 「他にも細々としたのはあるが、この三つは絶対に守らないといけない」

 「秘密裏に色々やってるのを、気づかれないように?」

 「ああ。だから、上じゃやれないことをやれる」

 「と言いますと?」

 「募集するのさ。海賊たちに対して堂々と」

 「メリア様って、正体を隠しながら海賊をしていたので無名ですよね」

 「なかなか痛いところを突いてくるが、そこはまあ、お金さえあればどうにでもなる。それに、これの存在を匂わせればいい」


 帝国貴族たるモンターニュ伯爵としてなら、内戦での活躍もあってそこそこ有名。

 しかし、海賊のメリアとしては、無名もいいところ。

 いったいどの程度集まるのか、ファーナは疑問に思っていたが、メリアが首にかけているペンダントらしきものに手をやると、納得したように頷いた。


 「魔法の金属と呼ばれるそれがあるなら、人集めは問題なさそうです。むしろ、集まった者同士の揉め事が心配になる可能性が」

 「馬鹿が馬鹿やる分にはどうだっていいさ。どこかにいる厄介な人工知能がお灸を据えてくれるし」


 表には出せない場所。

 そんなところで商売している者は、例外なく口が固い。

 そうでないと、どこかで問題が起きて誰かに消されるからだが、それゆえにメリアは大胆な行動に出た。


 「店主、人を集めてる。ここはそういう店だろう?」

 「そうだ。で、どういう者を求めてる?」

 「自前で宇宙船を持ってる海賊を」

 「何をするかは聞かんがね、ただ募集するだけじゃ集まらんよ。金を出しても、金目当ての無能ばかりだ」

 「店主は口が固いと見込んで教えるが、あたしがこれを持ってることを、それとなく匂わせるだけでいい」

 「エーテリウム……なるほど。ここならまだ安全だが、宇宙で揉めても対応できるのかい」

 「ああ」

 「わかった。料金は……集まった人数が決まってから請求する」


 魔法の金属と呼ばれるエーテリウム。

 それは各国の大金持ちが手に入れようと躍起になっているため、基本的に市場には出回らない代物であり、小さな欠片程度でも争いを生み出す。

 直接的ではないにしろ、持っていることを匂わせた時点で、応募者はかなりの数になった。

 そしてそのすべてを、メリアは受け入れた。


 「いいんですか? およそ五百人。色々と大変になるかと思います」

 「最初が肝心だ。こっちを大きく見せないといけない。さて、次は大型船の調達だ」


 普通の企業などでは面接をして使い物にならなそうな者を弾くところだが、そもそもの目的が、有象無象の海賊を一つの組織に集めて最終的に刑務所へ叩き込むことなので、あえて積極的に受け入れる。

 海賊としてのメリアは、現時点では小型船しか持っていないということになっているため、集めた海賊たちに舐められないよう、新たに大型船を購入しに行く。


 「こういうところでは船も買えるわけですか」

 「たまーに軍からの横流し品とかある。昔のあたしじゃ買えないけど、今のあたしなら金に余裕あるから買うのさ」


 店でできるのは注文のみ。

 実際に引き渡しが行われるのは、別の惑星やコロニー。

 メリアたちが入った店は小さく、一人分の席しかない。

 その代わり、テーブルに置かれた端末には、大量の宇宙船が種類ごとに表示されていた。

 民間向けのから、軍用のものまで。


 「なかなか品揃えが豊富だが」

 「そいつは簡単なことです。帝国では内戦が起き、星間連合ではでかい犯罪組織が潰れ、共和国ではクーデターからの大企業への処分や海賊退治ときた。ま、ようは乗り手のいなくなった船があちこちに出てきたもんで、ちょいと回収して売っているわけですよ。どういうルートで回収してるかは言えませんが」

 「なら……」


 軍艦のページへ移動したあと、さらに大型船の部分をタッチする。

 さすがに最新のものはないが、戦艦から空母まで揃っているという贅沢さ。


 「帝国製の戦艦と空母を一つずつ」

 「へえ!? そいつはまた……」

 「金ならある。何か問題が?」

 「いえいえ、きちんと支払っていただけるなら、我々はお売りするだけです」


 さすがに戦艦と空母を同時に購入すると聞いて驚く店員だったが、料金を支払うと静かになった。

 受け取りは指定された別の惑星で。

 そう言われると、紙製のチケットを渡される。

 一見すると、どこかのテーマパークに入るためのものに見えるが、それは偽装。

 似たようなペイントが描かれた帽子を被っている者に見せればいいとのことだった。


 「高い買い物でしたね」

 「海賊たちを率いるなら、これぐらいやらないといけない。あたしが上で、他が下という形にするわけだから」

 「戦艦はわたしたちが?」

 「事実上のファーナ専用艦だね。空母には、集まった奴らを入れる」


 やるべきことはやった。

 あとは集まった海賊たちと宇宙で会うわけだが、これは少しばかり問題が起きた。

 コロニーからやや離れた宇宙空間において合流すると、何人か襲いかかってきたのだ。

 その他の者たちは様子見をしており、助けに動こうとする者はいるにはいるが、周囲の状況を見て途中で止まってしまう。


 「はぁ……ファーナ、機甲兵」

 「はい。お灸を据えに行きます」


 勝敗はすぐに決する。

 十五歳の頃から海賊をしていたメリアの経験、これに人工知能たるファーナの補助が合わさることで、数分もしないうちに無力化に成功。


 「どうしますか?」

 「ハッキング。そして船の機能を掌握したら、慣性制御を切った上で、加速と減速を繰り返せ。ちょうどいいから見せしめに使う」

 「容赦がないですね。わかりました」


 容赦がない。

 その言葉の意味はすぐに周囲に示される。

 メリアは集まっている海賊たちに語った。

 自分に逆らう者がどうなるのか、よく見ておけと。

 ハッキングされた小型船は、まるで踊るかように加速と減速を繰り返し、激しくシェイクされる。

 それは遠目から見ても、内部の人間が無事では済まない動き。

 少しして、ファーナの動かす機甲兵が内部に入り込み、映像を中継する。


 「お、お頭。何もあそこまでしなくても……」

 「見せしめで殺すにしても、もっと穏便な……」


 少数の勇気ある者が通信を入れてくるが、その声は震えていた。

 映像には、ぼかしなどが一切ない。

 ある宇宙船は、ひしゃげた人型の何かが転がっていた。宇宙服が、中身が飛び散らないよう防いだからこその姿だった。

 ある宇宙船は、内装が真っ赤に染まっていた。人間を材料とした、赤い塗料がぶちまけられたせいで。


 「なら逆らうな。命令に従え。なあに、ちゃんと稼がせてやるから」


 メリアは恐怖を煽るため、笑い声を含ませながら言う。

 見ず知らずの海賊という犯罪者たちを統制するにはどうすればいいか。

 それは恐怖。

 恐怖によって、有象無象の集まりを一つの組織とする。

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