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276話 自作自演の海賊行為

 とりあえず数人の海賊を配下にできたが、コロニーから出発する前にメリアはファーナへ通信を入れた。

 そのまま、レラーハ方面艦隊の指揮官であるオスカーに繋ぐよう指示を出すと、数分ほど経ってから目的の人物の声が聞こえてくる。


 「……何か?」

 「まず、この通信はどこと繋がってるかお聞きしても? あまり他人に聞かれたくないことを話したいので」

 「指揮する艦船の中です。今のところ聞いているのは自分だけですが」

 「では、手頃な海賊を配下にしたので、その者たちの信頼を得るために、襲ってもいい場所を見繕ってもらうことは可能ですか?」

 「……なかなかに難しいことをおっしゃいますが、明日まで待っていただきたい。最低限の根回しをしなくては、問題が無駄に大きくなるので」

 「わかりました。待つことにします」


 通信が切れたあと、軽いため息をしつつメリアはファーナに言う。


 「今はまだ、この星系を襲うことができないから、襲われる役をやってくれ」

 「なら輸送船を演じます。反撃はほどほどに抑えますが、配下にした者が戦闘によって死んでも文句はなしですよ」

 「ああ。問題ない。それならそれで刑務所に叩き込む手間が省ける」


 今いるコロニーの宇宙港は、惑星の軌道上にあるものと違って、ごちゃごちゃとしている。

 清掃がしっかりしていないのか、様々なゴミが無重力な空間を漂っているのだ。

 一応、清掃員があちこちを飛び回りながら回収作業をしているが、そこまでの費用をかけていないのか人数は少ない。


 「メリア様、小型船のヒューケラは出入口に近い部分に置いています。わたしたちはそろそろ出発しますが、少し時間を置いてから追いかけてください」

 「わかった」


 宇宙服の通信機能を使いながら、見慣れた小型船に乗り込むと、既にファーナの端末の一つが操縦室の中で待っていた。


 「お帰りなさい」

 「……やれやれだね。人工知能ってのは、複数の場所に存在できるから厄介だ」

 「便利と言ってください」


 操縦席に座ったメリアは、海賊たちに連絡を取る。


 「こっちはもう港にいる。そっちの状況は?」

 「リーダー、もう少し待ってくれ。ちょいと修理してる途中だ」

 「既に操縦席。安くてまっずいコーヒー飲んで気合い入れてるよ」

 「念のために武装や推進機関などの点検をしています。完了するまでもう少しお待ちを」


 出発まで多少時間はかかるが、ちょうどよかった。

 全員で出る頃には、目標となる大型船のトレニアは一般人の通る航路から外れた場所を飛んでいた。

 あとはそれを追いかけるだけだが、その前に偶然見つけたことを装う必要がある。


 「しっかしまあ、個人だから期待してなかったけど、全員小型船とはね」

 「うっせ。リーダーのあんただって同じだろ」

 「はいはい、怒鳴らない怒鳴らない。うちのリーダーさんは、なかなかやり手のようだから。魔法の金属を手に入れられるくらいには」

 「その通り。まあ、煽るような言い方はよろしくありませんが。ちなみに、私は中型船を持っていて部下もいました。共和国から帝国に逃げる際、金目の物などを副長に譲ってやりましたよ。今頃は、共和国軍とやりあっているでしょうな」


 一人だけ、さりげなく自分の実力を自慢する者がいたが、今は全員が小型船に乗った、しがない海賊。

 ちょっと模擬戦闘をして誰が強いのか決めてみるか?

 そんなことをメリアが提案すると、積極的かどうかには差があったが、とりあえず全員が賛成した。


 「よし、あたしと戦う奴はどいつだ?」

 「俺から行く!」


 比較的若い海賊、それでもメリアよりは歳上だが、そんな者が名乗りをあげると、接近しつつビームを放ってくる。


 「おっと、いきなりそう来るか」

 「ちっ、今のを避けるとか、さすがに口だけじゃないってわけだ」


 小型船同士の戦いなので、最も操縦者の技量が反映される。

 撃っては避けて、相手の動きを読んでは進路上に攻撃を置いたりなど、目まぐるしく動いていく二隻。

 残った者たちは戦闘せずにそれを眺めていた。


 「うわー、血気盛んだこと。一対一でやりあいたくないなー」

 「一度、組みますか? 多少の文句は出るでしょうが」

 「じゃあそれで。ただ、あの戦闘が終わるまでは観察する」

 「ふむ。攻撃や回避のタイミングといった動きの癖。それを学べるのは大きい」


 二隻が戦い、残りはそれについていく。

 時折、流れ弾はあるものの、それはデブリなどから船体を守るシールドが防ぐので問題にはならない。

 そうしていると、少しずつ場所は変わっていく。


 「メリア様、一度振り切って距離を取った方がいいのでは? このペースだと、トレニアをレーダーの範囲に入れる前に疲れきってしまいますよ?」

 「あからさま過ぎると、怪しまれる。もう少し戦ってから一気に動く」


 模擬戦闘の最中、単独で行動している大型の輸送船を偶然発見する。

 そんな筋書きをメリアは頭の中で描いていた。

 これが重武装の戦闘艦なら、誰もが襲うのをやめる。小型船では危険過ぎるからだ。

 しかし、ろくに武装がない輸送船なら?

 美味しい獲物を目にした海賊たちは、メリアが襲撃すると言えば、喜んで付き従うだろう。


 「……そろそろか」


 模擬戦闘ということで、ビームはシールドに防がれるが代わりにポイントがつく。

 ポイント的にほぼ互角なのを確認したあと、メリアは急加速して一気に相手から距離を取った。


 「な、逃げるのか!」

 「グダグダやりあうより、一気に決着をつけようかと思ってね」

 「ふん、やれるもんかよ!」


 当然ながら、相手は追いかけてくるし、背後からビームを放ってもくる。

 加速しているせいであまり無茶な回避はできないため、何発か当たってしまうも、それは些細なこと。

 数分ほど追われる時間が続いたあと、小型船に搭載できるレーダーでもはっきりわかる反応が現れる。

 それは巨大な船のもの。


 「ん? おいリーダー」

 「知ってるよ。何かでかい反応があることは」


 それからメリアは反転すると、近づいてくる相手の船に向かっていき、すれ違う際にビームを至近距離から放つ。


 「ほら、これでポイントは逆転」

 「なっ、こっ、こんなの……」

 「納得できないって?」

 「訳わかんねえ船の反応がなければ、今のを食らうなんてのは」

 「警察や軍がその言い分を聞いてくれるなら、さっきの無しにしてもいいが」

 「……ああ、くそっ、俺の負けでいい。次勝てばいいだけだ」

 「前向きな思考は大事だよ。それじゃ、次はあのでかい船の様子を探りに行く。見学してた二人もそれでいいね?」

 「問題ないですよ。ええ。あのデカブツは稼げそうなので」

 「こんなところに一隻だけ。何を積んでいるのやら」

 「他が頷くなら俺も頷くしかないだろ」


 メリアの方針に全員が賛成し、まずは目標の様子を見る。

 どのくらいの速度なのか、どんな武装なのか、追いかける船はあるのか。

 一通り見たあとは、実際に攻撃を仕掛けて反応を見る。

 あれだけ大きいなら、内部に艦載機の類いがあってもおかしくはない。

 もし、そういった代物が迎撃のために出てくるようなら、引き下がるしかない。


 「まずは推進機関。あとは、向こうの対応次第だ」


 最初に攻撃をする部分は推進機関。

 動きを止めさえすれば、一方的な状況に持ち込める。

 回避や旋回ができないなら、どうとでもなるからだ。

 まずはメリアが攻撃を行い、他の者も合わせる。

 しかし、これといった効果はない。

 相手は一キロメートルもある大型船なため、小型船の攻撃はほとんど効いていないせいで。


 「リーダー、どうするよ。シールド突破できないぞ」

 「幸い、反撃はぬるい。もう少し仕掛けて、駄目そうならあの獲物は諦める」


 それからも一方的に攻撃を加え続けていると、巨大な船体の各部分からビーム砲台らしきものが出てくる。

 それは数は多くないが、威力は小型船のそれを遥かに超える。

 当たれば致命的な被害を受けることになるため、どうしても最初の頃の勢いはなくなってしまい、成果の出ない戦闘が続いた。


 「さすがに火力不足か。何かいいアイデア持ってる奴」

 「んだよ、そんなこと言われてもないぞ」

 「同じく」

 「残念ながら……」

 「やれやれだね。仕方ない、あれを使う」


 メリアは通信でそう言うと、一度通信を切ってからファーナに声をかける。


 「この船の貨物室に、機甲兵あるだろ。あれに乗って、見えている砲台を潰してほしい」

 「そして交渉を行い、適当に物資が入ったコンテナをいくつか放出させる。そんなところですか」

 「ああ。そういうお芝居でいく」

 「自作自演も大変です。やりますが」


 少しして、ファーナの乗った機甲兵が貨物室から出てくると、バーニアを吹かしながら大型船に取りついた。

 当然ながら、配下たちからは疑問の声が出てくるが、メリアはそれを無視して機甲兵が砲台を破壊して回っているのを眺める。

 ある程度破壊が進み、死角になる部分が生まれると、配下たちにも聞こえるよう広域通信を行う。

 とはいえ、伝わる範囲は精々が数キロメートルほど。

 宇宙空間からすれば、それはあまりにも短い距離であり、今やっている海賊行為が広まることはない。


 「おい、あれはどういうことだ」

 「仲間がいる。そしてそいつが砲台を潰してる」

 「その仲間とやらの姿を見せてもらいたいが」

 「駄目だ。もう少し親しくなったら、見せてやるとも」

 「……ふん、まあいいさ。手札をすべて見せるのは馬鹿のやることだ。リーダーが慎重さも持ってることは喜ばしい」


 どこか不満そうな声ながらも、これ以上の追及は行われない。

 それよりも重要なものが目の前に出てきたせいで。

 降伏を呼びかけることで、大きなコンテナがいくつも放出される。

 全員の興味がそちらに移り、機甲兵が一時的に離脱した瞬間、大型船は急加速してその場を離れていく。


 「なっ!? 逃げられただと……!」

 「あー、このコンテナは足止め、と」

 「中身があるといいのですがね」

 「追撃はなしだよ。全員、コンテナを回収したら場所を移すぞ。中身の確認はそのあとだ」


 メリアの指示により、デブリの溜まっている宙域に向かう。

 大なり小なり、宇宙空間にゴミを不法投棄する者はいるため、そんなゴミが自然と集まってできた場所は、身を隠すにはちょうどいい。


 「よーし、お楽しみの時間だ。このコンテナに中身が入っているなら、だが」


 脅すような言い方のメリアだったが、中身については心配いらなかった。

 そもそもが自作自演での襲撃であり、海賊たちを騙すために中身はたっぷりと詰まっている。


 「ひゅー、こいつは思わぬ収穫だ」

 「どこの輸送船かは知りませんが、いい稼ぎになりますよこれ。いやあ、よかった」

 「食料品、機械の部品、嗜好品もありますか。大きいだけあって、色々と詰め込んでいましたな」

 「分配するぞ。あたしがやるが文句はなしだ。まだ組織としての規模が小さいからね。大きくなれば専属の奴を決める」


 組織として突然で初めての仕事は成功に終わった。

 そうなるよう仕組んでいるとはいえ。

 そしてこれにより、配下となった海賊たちからの信頼を得ることができたメリアは、次の行動について考えていく。

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