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275話 望まれる立場を演じる

 「まずはどこに行きますか?」

 「決まってる。こういう場合は酒場だよ」


 あまり活気のないコロニー内部を歩きながら、宇宙服の通信機能を通じてメリアはファーナと話をしていた。

 今は一人で、誰も同行していない。

 どうしてそうしているのかについては、これから会う荒くれ者たちに、舐められないようにするため。

 ファーナの事実上の肉体である人型の端末は、ロボットとはいえ少女の姿。

 ルニウは若くて能力あるのはいいが、ちゃらんぽらん過ぎる。

 セフィは幼い上に、特異過ぎる血の力のことを考えると、荒くれ者に会わせない方がいい。


 「ここはフランケン公爵領内ということで、表向きには海賊はいないはずですが」

 「ひっそりと隠れながら、機会を探っている者はいる。つまり、多少は目端の利く奴らがいるわけだ」


 共和国で海賊の討伐が本格的になる前に、いくらか安全な帝国に逃れるという判断ができる者。

 つまりは状況を読んで先んじて動くことができる者を、国境部分において雑多な海賊の流入が増える前に確保したい。

 そんな考えがメリアにはあった。

 人が増えては探すのが大変になるからだ。


 「だけど、刑務所に叩き込むこと前提で集めるのは、最終的に反乱などが予想されますが」

 「だからいい。それくらい独自に考えて動けるような能力ある海賊は、あたしのところで飼い殺す」

 「有象無象は公爵領の者に任せつつ、わたしたちは厄介な海賊たちを集め、一網打尽にすると」

 「ああ。それにその方が、一般人への犠牲も減らせる。何か起きてから対処するんじゃ、結局限界はあるからね」


 海賊の被害を減らすにはどうすればいいか?

 自分がその海賊たちを率いる存在になって、警察や軍とお芝居を演じればいい。

 事前にどこを襲うか連絡し、犠牲が出ない戦闘をしつつ、物資を得る。

 こうすれば、被害は金銭的なものに留めることができる。

 そして最終的に、組織の規模が大きくなったところで一斉に捕まえてしまえば、海賊という脅威はなくなるわけだ。


 「なかなかに名案かと」

 「ま、こういうやり方は、あたしだからできる。良くも悪くも」


 話しているうちに、ややおんぼろな酒場に到着する。

 内部は、薄暗い照明と古臭さを感じる音楽が流れる広い空間となっており、席の埋まり具合は半分ほど。

 新しく入ってきた者に対し、客たちは視線を向けると、やや警戒を強めた。

 全身が宇宙服に覆われ、ヘルメットによって顔はわからない。

 そんな謎の人物ともなると、さすがに目立つ。

 あちこちから突き刺さる視線をメリアは無視すると、カウンター席に座る。


 「お客さん、何を飲みます?」

 「ノンアルコールのを適当に。宇宙船の操縦をしているから。ああ、ストロー付きで」

 「わかりました」


 電子的なお金で料金を先に支払うと、少しして青い色をしたカクテルらしきものが出てくる。

 ヘルメットを外さず、隙間からストローを通して飲んでいく姿は、少し悪目立ちするものの、何か言ってきたりする者はいない。

 半分ほど飲んだ辺りで、メリアは店員に声をかける。


 「そういえば、最近面白い話は?」

 「それはもう、共和国のクーデターでしょうね。その前の大企業に対する告発とかも興味深いものではありますが」

 「クーデターのあと、新しい共和国政府は海賊の討伐を進めてるみたいだけど、最近この辺りで人が増えたところは?」

 「お客さん、それじゃまるで海賊が増えたかのような言い草だ」

 「ごめんごめん。悪かった。ちょっと人を集めようと思ってね。どこか良さげなところはあるかな」


 メリアはそう言うと、手の中に忍ばせた現金をメニューに挟み、そのまま店員に渡す。


 「……どういった理由かで変わりますが」

 「金のためならなんでもできる者。例えるなら、犯罪行為すらできるくらいには」

 「……個室で飲まれてはいかがですか。空いてるところがありますので」

 「じゃあ、そこで飲むことにするよ」


 一度場所を移すことになり、個室に案内される。

 内装はありふれているが、部屋は防音なのか扉が閉まると流れている音楽は聞こえなくなった。

 それから数分後、数人の男女が入ってくる。

 下は二十代、上は六十代といったところ。

 全員が大なり小なり武装しており、明らかに一般人とは異なる雰囲気を漂わせている。


 「あんた、人を探してるんだって?」

 「金次第で、雇われてやるよ。他の奴らはどうだか知らないけど」

 「悪目立ちするやり方だ。そこまでして、何を求めてるのか」


 全員が、座っているメリアを値踏みするような視線を向けていたが、当のメリアはどうでもよさそうにストローでノンアルコールの酒を飲んでいた。


 「御託はいい。わざわざ来たってことは、気になってるから来たってことだろう? まあ、とりあえず座りなよ。酒とかを奢るから」


 その言葉を受け、やって来た全員が座り、思い思いに注文していく。

 そして頼んだものが一通り届けられたあと、メリアは空になったグラスを揺らしながら口を開く。


 「それじゃ、そろそろ本題といこう。組織を作ろうと考えてる。海賊たちが集まった大きなものを」

 「……大層なことだが、あんたがリーダーになるのかい?」

 「どうでもいい。金だよ金。ヘルメットしてるあんたが支払えるかが大事だ」

 「組織とはな。海賊を長くやっていたからこそわかるが、軍は小規模なうちは見逃してくれるものの、大きくなれば見逃さずに潰しに来る」


 反応は様々。

 特に大きいのは、軍をどうするかというもの。


 「大丈夫。そっちは話がついてる」

 「へえ? つまりは、お偉いさんと癒着してるって?」

 「そうだ。でかい仕事をするなら、まず安全を確保してからじゃないと」

 「……ふん、俺は乗るとしよう。未だに顔を見せないのは、色々気になるところだが」


 まず一人目が話に乗った。


 「お偉いさんと癒着してるなら、安定して稼げそうだ」

 「ただし、あたしの言うことには従ってもらう。関係がバレてはいけないから」

 「はいはい、金さえ貰えるなら従うよ」


 二人目はだいぶ簡単だった。

 しかし、残った者はなかなか頷かない。

 ここにいる者の中で一番の年寄りであり、経験豊富な海賊でもある。

 だからか、警戒を解かずにいた。


 「私は、頷けない。まずあなたの顔がわからない。その実力も。そしてなにより……癒着していることが本当かどうかすらも」

 「だろうね。あたしだって、同じ立場なら同じことを言う。これから一緒にやっていくから、顔はここで見せよう。それが誠意ってものだからね」


 メリアはヘルメットを外す。

 現れるのは、黒い髪と青い目をした美しい女性。

 その力強い目には、揺らぐことのない意思が存在していた。

 これは別人として振る舞うために、髪を黒く染めて、色のついたコンタクトをするという変装ゆえの姿だった。


 「その素顔……ずいぶんとお若い」

 「それは、これのおかげだよ」


 メリアは首にかけているペンダントらしきものを持ち上げると、その瞬間、周囲にいる海賊たちは目の色を変えた。


 「おいおいおい、それはまさか……」

 「魔法の金属、エーテリウム。実物を初めて見た」

 「なるほど。エーテリウムの老化抑制という効果。それが若さを保っていると」


 実際には見た目通りの若さなのだが、ここは長く生きた海賊というのを演じることで、相手から舐められないようにする。

 そしてエーテリウムという希少な代物を見せつけたことにより、海賊たちのメリアに対する態度は一気に軟化する。

 どんなやり方であれ、エーテリウムを手に入れることができる人物なら、配下になって損はないという風に。


 「それじゃ、まずは一仕事といこうか。全員、宇宙船は持ってるね?」

 「ああ」

 「もちろん」

 「この程度の規模では不安が残りますが」


 海賊たちの信頼を得るなら、適当なところを襲って金品を手に入れて分配すればいい。

 そうすることで信頼を稼げば、さらに組織を大きくするための行動が可能になる。

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