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274話 久しぶりの大きい仕事

 「さーて、表社会におけるまともな仕事だから頑張るように」


 フランケン公爵たるソフィアが持つ領地は、公爵だけあってかなりの範囲。

 その中の星系の一つに、レラーハ星系という共和国と接するところがあるため、メリアたちはそこへ向かっていた。


 「無事に終えることができれば、赤字が黒字になりますね」

 「でも、探すの大変じゃないですか? ほら、私たちみたいに偽装してるだろうし」

 「それについては、お母さんに考えがあると思います」


 少し前、共和国において大規模な海賊の討伐が始まった。

 クーデターの影響を受けて一時的に中断されていたものが、メリアの働きかけもあって再開されたのだ。

 そうなると、討伐されるのを避けるために海賊たちは他の国へ逃げ出すわけだが、そういう者たちが公爵領に入っても来ても悪さしないようにすることが、ソフィアから出された依頼だった。


 「ああ。あたしに良い考えがある」


 メリアは自信ありげに笑みを浮かべると、なにやら勲章らしき代物を取り出した


 「これはなんですか」

 「あたしたちに対して、公爵となったソフィアが送った心強い代物」


 この仕事は、現地にいる公爵の軍や統治機構の力を借りることが大前提。

 そうしないと、星系という広い範囲において海賊をどうにかすることは難しい。

 勲章らしき代物は、現地からの協力をスムーズに得られるようにする道具であった。

 その効果は、レラーハ星系に到着してすぐに発揮される。


 「レラーハ方面艦隊総指揮官のオスカー・バーダーです。公爵閣下から連絡は届いていますが、あなたがメリア・モンターニュ伯爵ですか?」


 トレニアに対して百隻ほどの艦隊が接近してくると、映像通信が行われる。

 現れるのは、三十代ほどの比較的若い見た目をした、真面目一辺倒に思える男性。


 「はい。ソフィア殿から、共和国から入ってくるだろう海賊に対処することを求められまして。これはその証です」


 メリアは貴族としての演技をする。

 対外的にはその方が良いからだ。


 「む……なるほど、わかりました。全面的に協力させていただきます」

 「早速ですが、直接会って話すことはできますか? 護衛なしでお願いします」

 「それはなぜです? 先に行政長官などへの顔見せくらいはした方がいいと思われますが」

 「それについてもお話しますので」

 「……わかりました。小型船で今そちらへ向かいます」


 生真面目そうな見た目とは裏腹に、意外とフットワークが軽いのか、会ってからすぐに単独で乗り移ってくる。

 格納庫に程近い一室に集まると、メリアから先に口を開く。


 「いきなり呼びつけてしまい申し訳ありません」

 「こうして直接会うということは、通信に残したくないことを話されるのでしょう。……何を計画していますか?」


 わずかな会話から推察し、すぐにやって来る。

 これはなかなか使える人物だということで、メリアは内心感心していたが、表には出さない。


 「話が早くて助かります。それではお教えしますが、バラバラに行動する海賊の動向をわかりやすくするため、私は正体を隠して海賊として行動し、一つにまとめあげます」


 これこそが、少し前にメリアが言った良い考えだった。

 強力な海賊団というのは滅多にない。

 ある程度大きくなるまでは見逃され、充分に大きくなった段階で軍に潰されるからだ。

 とはいえ、軍と癒着してしまえば現場レベルではどうにでもなる。

 政府の一部とも癒着すれば、星間連合に存在したユニヴェールという犯罪組織ほどの規模でも維持できる。一般人に被害を出し過ぎないことが前提だが。


 「……正気なのですか? そのようなこと、上手くいくようには思えませんが」

 「しかし、しらみ潰しに一つ一つ潰していくやり方では、共和国から流入する海賊への対処が追いつかない」

 「たった数個のワープゲートに艦隊を配置し、検査などを厳しくすれば事足ります」

 「偽装している者を見抜けるなら、それでいいでしょう。ですが、海賊たちも対策はしているわけで、どう確認します?」

 「……あなたが死なないという保障はないのですよ。正直なところ、指示だけ出して安全なところにいてほしいと思っています。もしあなたが亡くなるようなことがあれば、公爵閣下からの不興を買いますので」

 「ようやく本音が聞けた」


 今のメリアは、フランケン公爵たるソフィアの後ろ楯があるという、レラーハ星系の者からすれば厄介な人物。

 客人扱いをして、事が終わるまではおとなしくしてほしいわけだ。


 「……内戦における勝利の立役者とはいえ、あなたが海賊をやりきれるのか不安があります」

 「なら問題ない。内戦の時、皇帝派相手に海賊行為をしていたから」

 「やれやれ、わかりました。こちらで判別できなかった海賊をお任せします」

 「それと、海賊たちを繋ぎ止めるために、襲撃とかをするつもりだけど、そういう時は事前にどこを襲うか連絡するから、芝居に付き合ってほしい」

 「被害が物だけで済む限りは、あなたの計画に従いましょう」


 大まかな計画は決まった。

 まずメリアが雑多な海賊たちを組織としてまとめあげ、怪しまれない程度に各地を襲う。

 レラーハの艦隊総指揮官たるオスカーと事前に示し合わせ、人に被害が出ないようにした上で。

 それを繰り返し、共和国からやって来る海賊の数が落ち着いた段階で、一斉に排除する。

 物理的に消すか、生かしたまま刑務所へ叩き込むかの違いはあれども。


 「そういえば、オスカー殿は立場の割にはずいぶんとお若い」


 一通り話したのであとは別れるだけだが、オスカーが去ろうとした時メリアは言う。

 老化の抑制にお金を使っているか、上層部の弱味を握って出世したか、はたまた別の手段か。

 質問をぶつけられたオスカーは、真面目そうな表情を崩さずに答える。


 「老化抑制にお金はかけていません。生真面目なだけでは、出世する速度は変わりません。今回のように、自ら足を運ぶことも大事なわけです」

 「なるほど、だから突然の要請にもかかわらず、単独で来ることができたと」

 「あとはまあ……内戦のおかげで上の立場の人間が次々と死んだのも大きいですね。物理的に上が空いたことで、下にいる者は嫌でも昇進するので」

 「フランケン公爵は、内戦に積極的に参加はしていなかったはずですが」

 「小競り合いはありました。共和国に、近隣の貴族も。一番厄介だったのは貴族でした」


 能力があり、積極的な行動と決断が可能で、上の立場の者が消えるという幸運もあった。

 それらが重なることで、オスカー・バーダーという人物は、レラーハ方面艦隊総指揮官という地位を得るに至った。

 有能さは不明だが、無能ではないことは確か。


 「それと一つ。行政長官などへの顔見せはしないつもりなので、そちらで処理してもらうことは可能ですか?」

 「……まあ、公爵閣下からあなたに従うよう命令が出ると思われるので、なんとかなると思います。ただ、あまり褒められた行為では」

 「まともにやろうとするなら、代表となる人物に会い、情報を集め、準備を整えて海賊へ対処するべきでしょう。しかし、それは性に合わない。今のうちに謝っておきます。申し訳ありません」

 「……強力な後ろ楯を持っており、わかっていてそういう行動をするのだから質が悪い」


 ぼやきながら彼は格納庫に移動したあと、やって来た小型船に乗って去っていく。


 「第一段階はどうにかなった」

 「第二段階はどうしますか」

 「配下となる奴らを適当に見繕う。まずは組織を作ることから始めないと」

 「ところでメリアさん、名前とかどうします? そのまま名乗るならまずい気が」

 「そのままで行く。メリア自体はありふれてるからね。ただ、見た目や声は変えておこう」

 「これ、使いますか?」


 セフィは、カバンから小さな霧吹きを取り出す。

 中身は少し赤みがかっているため、メリアはすぐに入っているものに気づき、ため息をついた。


 「そういうのは、最終手段として残しておく」

 「そうですか」

 

 大型船であるトレニアは、一度別の場所で外観を変える。

 レラーハ星系には、有人惑星以外にコロニーがあるため、やや寂れた場所を探して工事を任せた。

 そして宇宙服姿のまま、コロニー内部に繰り出す。

 目的は、将来刑務所に叩き込むこと前提の仲間探しといったところ。

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