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272話 まともではない好意

 帝国を含め、どの国も宇宙に広大な領域を保有しているが、それゆえに遠くの者と連絡を取るための通信技術は発展してきた。

 しかし、人類の技術とは異なる方法で連絡を取ることが、今のメリアにはできた。


 「用件は?」

 「メアリへの連絡を。フルイドを返すと」

 「そのまま伝えよう」


 人類とは異なるフルイドという種族が持つ、同種族間における意識の伝達という特性。

 それは一つの個体が見聞きしたものを他の個体も共有できる。その個体が望むと望まざるとにかかわらず。

 見方を変えると、便利な通信としても利用できるわけだが、それはそれとして連絡を取る人物が気に食わない相手のため、メリアは少し不満そうな表情でいた。


 「……やあ、共和国でのニュースは見ているよ。元気そうでなにより。それで君のところにいるフルイドを返すとのことだけど、こうして君とお手軽に話せるんだから、もうしばらく船に置いておく気はない?」

 「ない」

 「……それは残念。まあ、やりとりをするにしても多少タイムラグがあるから、映像通信とかで話がしたいしね」

 「無駄話はいらない。どこに行けば返せるのか」

 「……つれないねえ。それじゃ、フランケン公爵のところでどうかな? ソフィアという子と、久々に会ってみたいしね」

 「変なこと考えるんじゃないよ」

 「……さてさて、それは君次第、と言ったら怒られそうだからこの辺りで失礼するよ。とのこと」


 どこで合流するかが決まったあと、惑星ドゥールの宇宙港を出発するのだが、フランケン公爵領に向かう途中、気になるニュースが入ってきた。

 それを最初に知らせに来たのは、移動している間することがなく、暇を持て余しているルニウ。

 体を鍛えるトレーニングやシミュレーターでの戦闘訓練以外は、適当にニュース番組を見ているのだ。

 これは星系間通信が可能な設備を持っている大型船だからこそ可能なことである。

 とはいえ、どのチャンネルを見るか選択肢が多すぎるので、基本的には昔から見慣れてるところを見るしかない。


 「メリアさんメリアさん」

 「うん?」

 「これ見てくださいよこれ」

 「なんだい……」


 一時的に重力を強めた部屋でトレーニングしていたメリアだったが、セフィを引き連れてやって来るルニウによって、やや強引にニュース番組を見せられる。

 セフィもいるのは、一緒に番組を見ていたのだろう。

 最初は面倒そうな態度のメリアだったが、放送されている内容を目にすると、少しずつ表情は真面目なものとなる。


 「フルイドと呼ばれる種族と人類の交流を行うイベントが、六週間後に迫るわけですが、これは大きな一歩となることでしょう。スタジオの皆さんはどう思いますか?」

 「そうですね。まさか人類以外の知的生命体が存在するとは。様々な研究者が驚き、あまり大きな声では言えないんですが調べたがっています」

 「人類の領域は、少しずつですが拡大し続けています。何もない宇宙空間を進んでいく覚悟を持った人々によって。しかし、それでもこのような出会いは歴史上初めてであり、交流するイベントが成功に終わることを願っています」


 まだ放送は続いていたが、途中で画面が真っ暗になると、代わりに笑みを浮かべたルニウが前に進み出る。


 「これはもう、参加するしかないですよね?」

 「……でかいイベントだ。参加しないよりはした方がいいだろうさ。ただ、あたしは素顔を出せないから、そっちだけで楽しむといい」

 「それは、メアリという人が参加するからですか?」


 セフィからの質問に対し、メリアは頷く。


 「ああ。内戦を引き起こした当事者であり、フルイドという種族と深い関わりを持っている。そして大きなイベントともなれば、あいつは自分の利益のために動くだろう。場合によっては、あたしを巻き込むかもしれない。そしてこれが重要なことだが、あたしはあいつにできるだけ会いたくない」


 メアリ・ファリアス・セレスティア。

 彼女は大昔の皇帝であり、クローンであるメリアのオリジナルでもある。

 同じ遺伝子を持ち、同じ顔をしているため、大きなイベントに一緒に参加するような事態になれば、無用な混乱が起きる可能性があった。

 とはいえ、同じ顔というのは少し変装すればどうとでもなる。

 一番の理由は、メリアがメアリのことを気に食わないという部分。

 それはもう、人としての相性の問題であり、解決する方法などはない。


 「むむむむ、これは困りましたよ。メリアさんのいないイベントとか、楽しさが半減してしまいますもん」

 「何を言われようが、あいつが出るなら参加しないからね」

 「なら、いっそのことメアリという人物を排除してしまいますか?」

 「おおっと、セフィちゃん大胆な発言」

 「……いきなり何を言い出すかと思えば」


 アイディアとしては悪くない。

 実現できるかどうかは別として。


 「排除といっても、どういう意味合いかで変わるが」

 「死、です。お母さんが嫌いな相手となれば、根本的に対処するのが一番のはず」

 「そうですよそうですよ。メアリさえいなくれば、私たちは大勢の前でメリアさんとイチャイチャできるってもんです。はい」

 「そのために殺すってか。過激な話だね」


 そこまで呟いた時点で、メリアは肩をすくめる。

 ルニウ、セフィ、そのどちらも一般人とは色々と違っている。

 その思考が、その心が。

 メリアと一緒に大きなイベントを楽しみたいという理由のために、人を殺すという提案ができるくらいには、まともではない。

 すると気になることが出てくる。

 もし、仮に自分が死んだなら、この二人はどうするのか。


 「そういえば、もしもあたしが死んだなら、二人はどうする?」


 それはちょっとした疑問。

 なんとなく聞いただけだったが、すぐに後悔することになる。


 「もしも死んだら……私は死体でちょっと自分を慰めてから、腐らないよう加工して保存します」

 「何をどう慰めるんだ」

 「それは、さすがにここじゃ言えませんよ。メリアさんだって、発散するためにたまに自分で自分のあれを」

 「それ以上喋るな」

 「あいたっ。グーは痛いですよグーは」


 ルニウに対し、拳で軽く頭を叩いて続きを言わせないようにすると、次はセフィの番となる。


 「死んだなら、ルニウと同じように腐らないよう加工して保存すると思います」

 「加工して保存は共通かい……」

 「死んだらそうするので、できるだけ長く生きてください。生きているお母さんの方がいいので」


 セフィはそう言うと、さりげなくメリアの手を握り、感触を楽しんでから手を離した。


 「……あたしとしても、死にたくはないからね。できるだけ長生きするさ。死んだあとが恐ろしいってのもあるけど」


 二人から少し距離を取りつつ言う。

 普通の人間より色々と人生経験があっても、死体を防腐加工して保存したいと言われては無理もない。


 「なんで逃げるんですか」

 「変なことは何もしませんよ」

 「いや、あんなこと言われたら、普通に近寄りたくないんだが。というか今日はもう来るな」


 足早に立ち去るメリアであり、目的のないままトレニアの内部を歩いていく。

 ある程度進んだ辺りで振り返るが、幸いにも二人は追いかけてこない。

 その代わり、なぜかファーナがいた。


 「なんでついて来てる」

 「一人きりだったので」


 しばらく歩いてから立ち止まる。

 するとファーナも合わせて立ち止まるため、無視し続けることはできない。

 やれやれといった様子で振り返ると、先程二人にした質問をぶつける。


 「さっき、二人に質問をした。あたしが死んだらどうするか」

 「意地悪な質問ですね。そう思いませんか」

 「その反応は意外だ」


 なかなかに落ち着いた状態での返答。

 それは人工知能だからなのか。

 あるいは、単純に長生きしてるからなのか。

 目の前にいる少女型の端末は、白い髪に青い目を持ち、こちらを見上げている。

 ゆっくりと近づくと、抱きしめながら口を開いた。


 「どうされたいですか?」

 「どう、とは?」

 「わたしは、なんでもできますよ? 人間では無理なことだって。例えば、死体を弄られたくないなら、食べてしまえば誰も手を出せない」


 軽く口を開けたり閉めたりし、咀嚼するような動きを見せつけてくる。


 「そこは普通に火葬でいいだろうに」

 「骨に、灰。残ったそれらを、わたしなら食べてしまえる」

 「そういうのは無しだよ、無し」

 「残念です。あるいは、コールドスリープさせてからわたしがずっと見守るというのはどうでしょう? 眠っている間のメリア様の意識は、わたしが作った特別な端末を通じて活動させれば、実質的に永遠の命も不可能ではありません」

 「それとかも勘弁してほしいんだが」

 「わがままですね」

 「ろくでもない提案ばかりなのが悪い。あと、そろそろ離れろ」


 メリアは抱きついているファーナを引き剥がすと、軽いため息をついた。


 「まったく、どいつもこいつもまともじゃないときた」

 「メリア様、そう否定するものではないですよ。好きだからこそ、まともではなくなるんです」

 「…………」

 「そこは何か言うべきです」

 「一眠りするから、しばらく一人になりたい」

 「添い寝のオプションはいかがですか」

 「却下。一人の時間を大事にしたいからね」


 宇宙船に乗っていると、基本的に誰かと一緒にいることが多くなる。

 完全に一人きりになれる機会は少ないわけだ。

 これは船が小さくなればなるほどそうなる。

 メリアは自室に戻ると、ベッドに寝転がり、軽く舌打ちをしてから頭を振る。

 人間関係というのは面倒。

 しかし捨てるのが惜しいと思えるくらいには、一人で居続けるのは寂しい。

 そこまで考えてから苦笑した。

 今の考えを知られたら、余計に面倒くさくなるだろうな、と。

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