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271話 領地に戻る

 「……次のニュースをお伝えします。本日、共和国政府は中断していた海賊の討伐を再開することを発表しました。軍の半数を動員した大規模なものであり、国境を接するセレスティア帝国とホライズン星間連合には、共和国から逃げるだろう海賊への対応に関して協力を求めました」


 片手で持ち運びできるくらい小さなテレビには、ニュースが放送されていた。

 メリアはそれをベッドに横になったまま見ているが、その姿はどこか病院の患者を思わせるものだった。

 衣服の下には包帯が見え隠れしているため、万全な状態からは程遠いのが理解できる。


 「おはようございます、メリアさん」

 「ルニウか。元気そうだね」

 「そりゃあもう。なにせ、目の前にはぐったりしているメリアさんがいますから。ふふふふ」


 怪しげな笑みを浮かべながら近づくルニウであり、メリアはすぐさま近くにある端末に向かって呼びかける。


 「誰か近くにいるなら、あたしの近くに来てる馬鹿をどっかにやってくれ」

 「馬鹿呼ばわりはひどいです」

 「あたしはね、少し前の戦闘の傷が開いたんだぞ。そのせいで安静にするしかないってのに、余計なことをしようと企んでる奴は、馬鹿で充分」

 「まあ、だいぶ無茶しましたよねえ」


 今二人がいるのは、大型船トレニア内部の医務室。

 医薬品はあるにはあるが、高額なものはわずかでほとんどは安い代物ばかり。

 手術道具は揃っているが、これまで利用した者はいない。


 「頭以外の色んなところを、実弾ならまだしもビームで撃たれて生きてる時点で、まあまああれですけど」

 「ファーナに注射されたナノマシンのおかげだよ。せいとも言うが」


 メリアは軽いため息のあと、腕を持ち上げて包帯を巻かれた部分を見る。

 マクシミリアンに対して、武力をちらつかせながらの交渉を行い、その後セフィとちょっとした旅行をするまではよかった。

 そもそも、その時までは怪我をしていても傷は塞がっていたため、問題ないと思えたのだ。

 それなのに、トレニアに戻ってからわずかに出血するようになった。

 幸い、じわりと血がにじむ程度だったが、念には念を入れて安静にすることになり、こうして医務室のベッドで横になっている。


 「しかし、そのおかげで危機を乗り越えられるのですから、わたしとしては感謝してほしいと思ってます」


 いつの間にか到着していたのか、ファーナが近づいてくると、ルニウを医務室から追い出してしまう。


 「あの時やられたことを思い返すと、感謝したくないんだが」

 「困ったご主人様ですね」

 「それは前にやめるよう言っただろ。というか、わざと言ってるだろ」

 「はい」


 悪びれもせずに言いのける姿に、メリアはやれやれとばかりに頭を振った。


 「……で、ルニウを追い出したのにわざわざ残る理由は?」

 「通信が来ています。帝国に避難させているリラから」

 「出してくれ」


 大型船であるトレニアは宇宙空間を進んでいるが、その巨大さゆえに星系間通信を行うことのできる設備が揃っている。

 遠い帝国からでも繋がるため、商品として作られた子どもたちと一緒に避難しているリラからの通信を受け取ることができる。


 「ニュース、見たわ。上手くいった、と考えていいのかしら」

 「それなりには。海賊を一層するというあたしの目的は果たせた。代わりに、あいつを生かしたままになるが。それについては、そっちには申し訳なく思う」

 「別にいい。私たちがお世話になっている公爵様から聞いたけど、クーデターを起こしたマクシミリアンは、アステル・インダストリー以外に動物の耳や尻尾を生やした子どもたちを作ったところの情報を持っているのか、次々と暴いては強権的に厳しい処分を下しているみたい」


 帝国の公爵ともなれば、様々なルートで情報が入ってくる。

 そんな情報の一つを、リラは教えてもらったようだ。


 「散々、作らせておいて、用済みになったら自分たちにまで捜査の手が及ばないよう切り捨てる。なんとも汚い手を使うもんだ」

 「そのおかげで、クーデターの正当性は高まり、マクシミリアンに対して批判する者は少ない。複雑な気分だけど、もうあの子たちのような存在が作り出されないなら……それでいい」

 「企業に対してあいつが作らせたわけだから、どこかでこっそりと作る可能性はあるにはあるが」

 「その時は、彼の排除をお願いしたいわ。なんでも屋の社長さん」

 「一国のトップとなると……大がかりな件となるから、料金は高いよ」

 「それまでに稼いでおくから大丈夫。とはいえ、子どもたちの面倒見るだけで精一杯になるだろうけど。それじゃ、また連絡する時まで」

 「ああ」


 リラ自身、そこそこ有能な研究者であり、どこであっても仕事を見つけることはできるだろう。

 それに、フランケン公爵であるソフィアのところにいるならそこまで心配はいらないということで、通信が終わったあとメリアは軽く息を吐いた。


 「ふう、共和国における海賊という面倒事は片付いた。次は今後どうするかだが」

 「一度、ドゥールに戻りませんか? 進捗などを確認するのも含めて」

 「それがいいか。戻るついでに、借りていたフルイドを返しておこう」


 共和国に長居する気はないため、一応は自分の領地となっている惑星ドゥールに戻ることが決まる。

 メリアが許可を出した大企業による開発が行われてから、既にいくらかの日々が過ぎている。

 どれくらい進んでいるか確認するため、一週間ほどかけて到着するが、軌道上から見える光景に思わず驚きの声が出るメリアだった。


 「へえ、前よりもだいぶ変わってるね」


 多少カメラに頼る形になるが、はっきり見えるくらいには開発が進んでいた。

 青い海の中に、白い外壁を持った建物がちらほらと存在し、それはまるでちょっとした島のよう。

 軌道エレベーターで地表に降り立つと、今いる場所が、その建物と通路で繋がっているのが確認できた。


 「お久しぶりです。モンターニュ伯爵」

 「ずいぶんと、様変わりしているようだけれども」

 「さすがは大企業といったところです。使える宇宙船からして、普通とは違う」


 海洋学者のパウロは、声をかけたあとわずかに苦笑すると、開発が始まってから今になるまでを語っていく。


 「まずは調査が行われました。海流、地盤、そして天気についても。そのあと、宇宙から複数の輸送船が大気圏内へ突入してくると、輸送船内部の資材によって施設の建造が始まりました。地表と宇宙とを行き来して、短時間で大量の物資を運び入れるわけですが」

 「そして出来上がったのが、これであると」

 「このドゥールという惑星は、色々あって今まで未開発のままでした。それゆえに、最初にこれだけ大きなものを作ろうとも、環境に与える影響は小さい。人口が数十億ある惑星に比べれば、些細なもの」


 惑星ドゥールには、一つしか軌道エレベーターがなく、今進められている惑星の開発に関しても、軌道エレベーターの周囲に限られている。

 つまりそこ以外は、人間の手が入っていない圧倒的な自然に満ちている。


 「ただし、できているのはまだ外側だけですが。内部はこれからといったところ。そして、その内部が一番時間がかかるという」

 「完了するまで気長に待つとします。幸いにも、忙しくなりそうな出来事はすべて片付いたので」

 「それはよかった。モンターニュ伯爵、あなたに何かあっては、この惑星の所有者が変わり、別の貴族とやりとりしなくてはならない。そういう意味では、あまり滞在しないあなたはありがたいわけです」

 「そういう風に思われていたとは」

 「そんなものではありませんか? 良くも悪くも」


 メリアは無言で肩をすくめてみせると、パウロから離れた。

 数日ほどここで過ごしたあと、出ていくつもりだった。

 大きな予定はないが、小さな予定が残っているために。

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