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269話 交差する思惑

 「なんだと……?」


 クーデターによりセレスティア共和国の暫定的なトップとなっているマクシミリアン。

 彼は周囲にいる共和国の議員と共に、国をどう動かしていくか話し合っていたが、部下が持ってきた報告を耳にした瞬間表情を変える。


 「おや、どうされました? 何か問題が?」

 「……いえ、大したことではありません。少し、席を外します。今回の議題は、お任せしても構いませんか」

 「もちろんです。細かい利害関係が絡まないものなので」


 広い会議室から出たあと、盗聴や盗撮対策が整っている一室に入り、部下から色々と情報の入った端末を受け取り、中身を見ていく。

 そこには、実物と研究データの双方を失い、極秘の研究所において進めていたワープ装置の開発はもはや断念するしかないという報告が、簡潔にまとめられていた。


 「……何が、あそこで何があったというのだ」

 「わかりません。首謀者らしき者たちは捕まえていますが、どうにもはっきりしないことばかりで」


 端末の画面が切り替わり、数人の男女の画像が表示される。


 「報告によれば、責任者の一室を起点として凶悪なウイルスが侵入したとのことだが、この者たちが内部に侵入できたとは思えない。そこまでセキュリティは甘くない。カメラのデータは残っていないのか?」

 「残念ながら……。外部からではなく、内部からハッキングを仕掛けられたせいで、あの研究所は致命的な損害を受けてしまいました。幸いにも、人的な損害はゼロではありますが、個人の所有する端末までもが自爆したりしたため、完全に一からのやり直しとなります」


 マクシミリアンは険しい表情のまま考え込む。

 研究者や技術者が生きているなら、時間と費用さえ用意できればどうにでもなる。

 だが、まったく新しいワープ装置の開発ともなれば、再開しようにも数年以上かかるだろう。

 それだけの時間があれば、内戦で消耗した帝国はすっかり回復してしまい、共和国主導による再統一は夢のまた夢。


 「まさか……私の夢がここで潰えるとは」


 そのまま握り拳がテーブルに叩きつけられようとした時、新たな連絡がマクシミリアン個人の端末に入る。

 研究所における問題の報告とのことだが、緊急事態なため早急な面会を求めるとも書かれていた。


 「これはどういうことだ? 報告は既に届いているが」

 「なんらかの手違いがあったものかと」

 「……会おう。ただし、結社の中でも信頼できる者を控えさせた上で。武装は周囲に怪しまれぬよう屋内戦用のを」

 「はっ」


 マクシミリアンは何かに気づいた様子になると、会うことを決めた。

 護衛は隠し、表向きは一人だけという状態で。

 今いるのは中央管理局であり、リユニファイ・アライアンスとは無関係な者も大勢いる。

 何かあってもすぐ隠蔽できるよう、無関係な者がいる区画から場所を移し、建物の中でもやや古びた区画にある一室へ入る。

 既に護衛は存在しているが、その姿は肉眼では目にできない。


 「さて、何が出てくるやら」


 腕を組み、椅子に座って待つこと数分。

 扉が開けられ、一人の大人、一人の子ども、そして一匹の犬が入ってくるのが見えた。


 「マクシミリアン様、緊急の報告が」

 「その前に質問がある。そこの子どもは何者か。議員としてならともかく、結社に関連する出来事なのだぞ」

 「彼女が会うことを望むため、会わせるべきだと考えた次第でして」

 「……護衛たち! そこにいる者を撃て! 奴は操られている!」


 命令が出ると、光学迷彩か何かで隠れていたのか、武装した者が現れ、次々に銃を撃っていく。


 「ルシアン!」

 「ワン!」


 しかし、それよりも相手が素早かった。

 名前を呼ぶと同時に、犬は少女の衣服を咥えると、引っ張ることで無理矢理その場から離脱した。

 あとに残されるのは、銃撃を受けて倒れる男性だけ。


 「追え! できる限り生け捕りにしてほしいが、最悪死んでいても構わない」

 「了解しました」


 慌ただしく走り去る音が続いたあと、部屋は静かになる。

 唯一聞こえるのは、マクシミリアンの呼吸の音だけ。


 「そうか、そういうことか。教授が遺伝子調整の末に作り出した子どもが彼女か。行方不明になっていると思いきや、ここにいるとは。……報告にない能力があると考えていい。それは人を操る能力。しかし、どうやって操っている?」


 考えたところで答えは出ない。情報が足りないからだ。

 とはいえ、現時点でわかることを組み合わせれば見えてくるものもある。


 「とりあえず、あの子とメリアには繋がりがあると考えていい」


 どういう繋がりかは些細なこと。

 おそらく救出しに来たのだろうが、それなら備えることは簡単。

 メリアのいる部屋の周囲に、事前に兵士を配置すればいいだけ。

 通信によって指示を出したあと、マクシミリアンは深いため息をついた。

 計画が失敗に終わっても取り乱すことはないものの、その心にはどこか空虚なものが広がっていく感覚があった。




 「いたぞ! 撃て撃て!」

 「こっちは子どもなのに容赦がないですね」

 「これではメリア様を救出することはできません」


 セフィは走っていた。

 背後から銃撃の音が聞こえてくるが、同行しているサイボーグ犬のルシアンが対処してくれるおかげで、なんとか今のところは一発も当たらずに済んでいる。


 「このままではセフィが死ぬか捕まるかするので、どこかハッキングできる場所へ」

 「そう言われても、ここは初めて足を踏み入れたので、どこに何があるかわかりません」


 いつまでも逃げられるものではない。

 ここは相手のホーム。

 今は背後から追ってきているが、そのうち前方から挟み撃ちにされる可能性がある。

 不利な状況を打開するためには、ファーナによるハッキングが必要だが、接続できそうなところは見つからない。


 「無線でいけませんか?」

 「セキュリティに弾かれます。一度弾かれたら、ここにいるわたしでは二度とハッキングはできません」

 「そうなると……あそこを試してみるのは?」


 セフィが入った部屋は、巨大な機械が稼働していた。

 空調関係を取り扱っているのか点検をしている者がいたが、霧吹きを顔にかけて操ると、邪魔にならない場所に隠れるよう指示を出す。


 「ルシアン、外の足止めを。危なくなったら部屋の中での戦闘に移って。ファーナ、こういうところなら内部へハッキングできますか」

 「できる。できるけれど少しばかり時間は必要」

 「それでは待ちます。逃げ回るのは、そろそろ限界なので」


 走り続けて体力や足に限界が訪れていたのか、セフィは床に座り込むと、所々を揉んでいく。

 幸い、中は機械でごちゃごちゃしており、扉が一つなので警戒するのは一ヶ所だけでいい。


 「途中まで上手くいったけれど、上手くいき過ぎた。それがこんな状況を……」


 油断があった。

 これも上手くいくだろうというものが。

 それがこんな事態を招いたというのは、言い訳のしようもない。

 セフィは、扉の向こうからルシアンが投げ飛ばしてきた銃器を拾うと、扉に向けて構える。




 「……騒がしいね。何かあったか」


 囚われの身のメリアは、普段は聞こえない騒がしさ受け、外の様子を確認しようと扉に耳を当てた。

 普通の扉だったならほとんど聞こえないが、この扉は食事の受け渡しをするために一部だけ開閉できるようになっているため、少しとはいえ音が聞こえやすい。


 「やれやれ、緊急展開とは」

 「上の方では、犬のサイボーグとやりあってるらしいな」

 「既に結構な人数が向かってるんだろ? ここには来れないと思うが」

 「万が一に備えてのことだ。なかなか強いみたいで、追い詰めたはいいものの奥の部屋にいる少女に近づけないんだと」

 「屋内だからなあ。同士討ちが怖いし、そのせいだろうな」

 「ついでに、そのサイボーグとやらは、こっちを殺さないよう加減してるときた」

 「そうきたか。誰か死んだら覚悟を決められるが、そうでないならへっぴり腰のまま、と」


 聞こえてくるのは、兵士らしき者たちのやる気のない会話。

 自分たちが戦闘するとは思っていないような様子だが、それはここ以外にも多くの戦力がいるからだろう。


 「……まずは出ないと話にならないが、出たところで武器の問題があるか」


 今のメリアは、あらゆる装備を失い、一般人が着るような服しか身につけていない。

 手足を撃たれる程度ならまだどうにかなるが、胴体や頭部ともなれば致命的。

 険しい表情のまま室内をぐるぐると歩いていたが、その時壁の一部となっているモニターがチカチカと点滅しているのに気づく。

 普通ではない出来事に、外を警戒しながらメリアが近づくと、モニターには見慣れた顔が表示される。

 それはデフォルメされたファーナだった。


 「お待たせしました」

 「悪いね。手間かけさせて」

 「扉のロックは解除するとして、部屋の外には五人ほど武装した者がいますが、どうします?」

 「そっちができる援護は?」

 「音で気を引く、掃除用ロボットを動かして気を引く。戦闘に関するものはこれだけです」

 「とりあえず、武器を奪いたい。やれることすべてやってくれ」

 「はい」


 いきなり仕掛けるのは危ない。

 しばらく待ち続け、ファーナから全員が扉を見ていない時を教えてもらい、一気に扉を開けて飛び出す。


 「なにっ!?」

 「はぁっ!」


 まずは一番近い者に体当たりし、怯んだ隙に大きめなライフルを奪う。

 それは大型のビームブラスターとも呼べる代物で、威力を殺傷と非殺傷の双方に切り替えることができる。

 メリアは非殺傷設定にした上で、狙いをつけずに周囲の者を撃っていき、二人を気絶させる。

 だが、残る二人に撃たれて出血してしまう。


 「ちっ、殺傷設定か。でもね」

 「馬鹿な、倒れないだと!?」

 「誰かさんに注射されたろくでもない代物のおかげで、こちとら頑丈なんだよ」


 普通の人間なら死ぬくらいの銃撃を受けても倒れない姿に、相手は驚き、次への動きがいくらか鈍る。

 それを見逃すメリアではなく、残る二人も撃って気絶させたあと、苦しそうな表情でしゃがんだあと、ゆっくりとさっきの部屋に戻った。


 「ファーナ……カメラの映像は弄れるか」

 「とっくにしています。向こうからすれば、ダラダラと話してるやる気のない者たちの姿が見えていることでしょう」

 「よし。一休みしたら、装備を奪って変装する」

 「さっきは誰も殺しませんでしたね」

 「生命反応が途絶えた場合、それを知らせる機能とかあるかもしれないからね。こいつらが軍の兵士じゃないとはいえ、そういう装備をしていてもおかしくない」

 「ふむふむ」


 ここの状況が即座に伝わる可能性があるため、殺すに殺せない。

 気絶している一人の装備に、ファーナが入り込むと、各種機能を誤魔化して実質的に乗っ取る。

 これで安全に奪うことができるため、数分後には完全武装した姿のメリアがそこには立っていた。

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