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267話 人を簡単に操れる力

 「こんにちは。少しばかり“お話”をしたいのですが、お時間はありますか?」

 「んん? いや、申し訳ないのだがね、今は仕事中なので君とお話するような時間は……」


 建物と建物の間の狭い路地。

 車ではできないショートカットが可能なそこにはセフィがいた。

 道を塞ぐように立ち、前方からやって来る男女を見つけると声をかけたのだ。

 とはいえ、相手は仕事中なのかそのまま通り抜けようとするため、セフィは小型の霧吹きで中身を相手の顔へ吹きかける。


 「な、何をするのだね、君……!」

 「いくつか聞きたいことがあるので答えてください」

 「……ああ」


 霧吹きの中には、セフィの血を水で薄めたものが入っている。

 それを顔の粘膜越しに摂取させることで、相手操ることができる。

 明らかに、普通ではあり得ない光景。

 しかし、こうして現実に人を操ることできていた。

 同行していた犯罪者の集団は、顔を見合わせながらひそひそと話す。


 「……おっそろしいね。どこの研究機関が、どんな実験やって、この子どもを作り上げたのやら」

 「あのこれ、中身が自分たちに向いたりとか」

 「そ、それ以上はやめろ。マジでやってくるかもしれない」

 「手伝ってる限りは大丈夫だろ。大丈夫だよな?」


 霧吹きの中身を顔にかけられるだけで、あとはもう言いなりになるしかない。

 それがどれほど恐ろしいことか。

 リーダー格の女性とその配下たちは、治安が良いところで犯罪を繰り返しても、今までまったく捕まらずにいられるくらいには頭が良い集団なため、見たくもない未来を予想できてしまう。

 その結果、褐色の肌をした少女に付き従う以外の選択肢は消えてしまっているわけだ。


 「マクシミリアン・レイヴンウッドという人物と至近距離で会ったことはありますか?」

 「ある」


 質問は公務員の女性相手にした時と同じもの。

 上司とはいえ、あまり立場が高くないのでそこまで期待していなかったが、まさかの答えが返ってくる。

 セフィはすぐさま自分に付き従う犯罪者の集団に対し、大通りからここへ人が来ないようにするよう指示を出したあと、小型の端末を取り出す。

 録音とメモを行う用意を済ませると、再び質問していく。


 「どのような場面で会いましたか?」

 「リユニファイ・アライアンスの会合において」

 「その組織はどういうもので、マクシミリアンとあなたの関係はどのような?」

 「マクシミリアンはリユニファイ・アライアンスという秘密結社の設立者。その秘密結社の目的は共和国主導による帝国の再統合。私は彼に対して秘密裏に報告を届けるメッセンジャー」

 「何か最近、届けるべき報告はありましたか?」

 「ある。帝国への侵攻を行うために、ワープゲートに頼らないワープ装置の開発が進められているが、問題が起きたせいで実用化には数ヶ月の遅れが出ている」

 「そうですか。ところで、あなたには部外者である者を、マクシミリアンに会わせる権限はありますか?」


 この質問は、セフィが直接会えるかどうかを確認するためのもの。

 会った瞬間、霧吹きを顔に吹きかければ、それだけで勝利できるからだ。

 まずメリアを解放させ、特定の時間になったら自殺するよう指示を出すだけでいい。


 「翌日であればできる」

 「盗聴や盗撮、さらには身体検査がなく、事実上の二人きりという条件は?」

 「可能ではある。しかし、相応の理由がないと条件を満たすことは難しい」

 「それは例えば、ワープ装置の開発を中断するような事態になる、とかは」

 「その場合は最優先で報告すべき事柄なので、身体検査なしに会える」


 ここまで話を聞いた時点でセフィは一つの方針を決める。

 ここからさらに色々と秘密を聞き出すよりは、ワープ装置の開発を中断させて、緊急事態なことを利用してマクシミリアンに直接会いに行くというもの。

 人を操れる血を摂取させられるかどうか次第だが、ルシアンの助力があれば事足りるだろう。

 それでも足りなそうなら、現地にいる人間を操ってしまえばいい。


 「では、ワープ装置の開発が行われているところを知っていますか?」

 「知っている。この都市から離れた未開発な土地の地下深くに極秘の研究所が存在し、そこで秘密裏に開発が進められている」

 「そこに入るには?」

 「専用のIDを持った者だけが奥深くの機密区画に入れる。持っていない者は、その手前まで」

 「まずワープ装置を開発しているところに行きます。こちらの四人も含めて。できますか?」

 「できるが、明日、朝早くにここに来てもらわないといけない」

 「わかりました。それではまた明日」


 こうして、セフィは操った男性と別れるも、すぐに抗議の声が後ろから聞こえてくるようになる。


 「まさか、全員で行くってのかい……?」

 「いけませんか? 子どもだけよりも、大人がいた方がいいので。それに、犯罪者としてのスキルを頼ることもできる」

 「くっ、捕まるような事態になったら恨むからね」

 「そもそも誘拐なんてしなければ、こうして関わることもなかったんですけど」

 「ふん! 明日の準備をするから別行動する」

 「どうぞ。明日は忙しくなると思うので」


 犯罪者の集団はセフィから離れていき、一人と一匹が狭い路地に残される。

 セフィはルシアンを撫でつつ、余った時間をどう過ごすか考えていると、大通りの方から見慣れぬロボットがこちらへ近づいてくるのが見えた。

 それはゴミ捨て場にあったような代物で、形状としては小さなラジコンが一番近い。


 「ここにいましたか」


 増設されているスピーカーから、ファーナの声がノイズ混じりとはいえ聞こえてくる。


 「これはいったい?」

 「直接通信するのは、盗み聞きされる危険性があるので、わたしの一部を移しながらセフィを探していました。ゴミ捨て場には色々な機械があったので、即席で組み立てたものになりますね、これは」


 よく見ると、市販されているものと違って色んなパーツがバラバラでチグハグで、端的に言うと不恰好だった。


 「そこまでして連絡を行うということは、軌道上では何かあったんですか?」

 「共和国軍などが、怪しい動きを見せているので、わたしたちは一時的にこの惑星を去ります。そのついでに戦闘や撹乱などを行い、向こうの目を集めます。セフィがこの土地で何かするなら、その方が好都合でしょう」

 「そうですね。その方が動きやすいので、ありがとうございます」

 「そうそう。分割したこのわたしに関しては、しばらくセフィを支援するので、そちらの端末に入っても構いませんね?」

 「嫌です。見られたくないものを見られそうなので、代わりに別の機械で」

 「……それなら、目の前にある機械の中心パーツを持っていってください」


 言われた通りにしてみると、ラジコンのコアとなっている小型端末が存在しているので、セフィはそれを拾うと無造作にポケットへ入れた。


 「分割しているので、宇宙にいるわたしとは同期が取れません。つまり合流するまで情報の共有は不可能。それを念頭に置いててください」

 「人工知能だからこそできる、自分の分割……」

 「その分だけ能力は落ちるので、あしからず。ああ、そうそう。ついでに充電器を買って、今のわたしが入っている端末を充電してください」

 「……どうせなら充電器付きならよかったのに」

 「ゴミ捨て場にある充電器は使い物になりません。それに汚れていますが」


 その後、セフィは今日一日をのんびりと過ごした。

 ルシアンの散歩をしつつ、ファーナから指示されたものを購入したりなど。

 そして翌日、犯罪者の集団と共に、操った男性の用意したやや大きめな車両に乗り込むと、都市を離れて極秘の研究所へと向かった。

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