表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

268/302

266話 助けを待つ身

 薄暗い一室。

 窓のないその部屋には、メリアが閉じ込められていた。

 部屋の中で生活が完結するよう、トイレからシャワーまで一通り揃っており、そこそこ広い。


 「……出るのは無理か」


 目が覚めた時にはこの部屋にいた。

 既に数日が経過しているが、その間に脱出に繋がる何かがないか探してみるも、これといった成果はない。

 朝、昼、晩、一日三回、扉の一部が開いて食事が運ばれてくる。運ぶのは人間ではなくロボット。

 食器はすべてプラスチック製で、しかも小さくて脆い。

 武器としては使えないため、おとなしく食事をするしかない。

 とにかく何をするにしても、食べないことには始まらないからだ。


 「ふう……どうしたもんだかね」


 衣服はすべて別のものに変えられていた。何か仕込んでいないか警戒してのことだろう。

 隠し持った武器も取り上げられており、頼れるのは自らの頭脳と肉体のみ。

 質素なベッドに腰かけて考え込んでいると、壁の一部が開き、中からモニターが出てきて見覚えのある人物が映し出される。

 それはマクシミリアン。


 「やあ、数日が過ぎたけど居心地はどうかな?」


 彼はどこかの部屋にいるようで、わざわざ映像通信によって話しかけてくる。

 質問に対し、メリアは中指を立てて答えた。


 「おやおや、どうせなら言葉がいいのだが」

 「だったら待遇を改善してほしいね。こことは別の、もっとマシなところに移すとか」

 「それはできない。外に出した場合、君は隙をついて逃げ出すつもりでいるだろう? もし逃げられたら、あとが怖い」

 「ふん。それなら最初からこんなことをしなければいい。で、どうして映像通信なんかを?」

 「私はね、立場が立場だから話せないことが多くある。それでいて色々な後始末をしないといけないものだから、大変で大変で」

 「…………」

 「冷たい目だ。外の状況がわからない君に、少しばかり教えてあげようとしているのだから、もっと優しい目をお願いしたいのだが」


 メリアは顔をしかめたあと、盛大なため息をついてからベッドに横になる。

 真面目に話を聞くつもりはないという意思表示であり、そんな態度を受けてマクシミリアンは肩をすくめてみせた。


 「やれやれ、大人が不貞寝をするものではない」

 「真面目に対応するだけ損。話したいなら勝手に話せばいい」

 「ふうむ。君の興味を引ける話をしたいが、その前に段階を踏んで状況を話さねば」


 マクシミリアンはそう言うと、画面の外から小型の端末を持ってくると、その端末の画面上を見ながら話していく。


 「しばらくは共和国内部の統制が主なものとなる。まずは内部を安定させなければ、帝国へ攻めるどころではないから。ただ、当初の予定よりも時間がかかっているため、ワープ装置の開発を並行して進める」

 「実用化にはどれくらいかかる?」

 「途中でいくつかの問題が発覚したせいで数ヶ月ほど延期。そこから配備となると、攻め込むまでに一年はかかる。これしか手段がないとはいえ困ったことだ」

 「こっちは嬉しい限りだよ。クーデターで国を手に入れた誰かさんは、早急に功績を手に入れることができなくなった。つまりは時間と共に付け入る隙もでかくなる」

 「つまり、それだけ君が脱出できる確率が上がるわけだ。なんとも困ったことに」


 マクシミリアン・レイヴンウッド。

 彼に味方する者がそれなりにいるからこそ、共和国におけるクーデターは成功した。

 しかし、当然ながら敵対する者もいるわけで、そのような者への警戒に、いくらかマクシミリアンの労力は割かれる。

 これはメリアとしては喜ばしい状況だが、無条件で喜べるほどではない。

 共和国の現体制が強固になるか、弱体化するか、そのどちらになるとしても、捕まったままだと自らの正体が露見する恐れがある。

 どうにか脱出したいところだが、外部との連絡は取れず、内部からでは手も足も出ない。


 「そうそう、次は君にとって興味深い話となる。……アステル・インダストリーを含めた一部の大企業が保有する後ろ暗い戦力だが、企業から離反して独自に動き始めた。つまりは私の敵というわけだ」

 「大企業そのものは、おとなしく共和国政府に従うと?」

 「私が前の政府とは違うことをよーく理解しているのか、全力で抵抗したりはしない。もし大企業が組んで抵抗していたら、私は今の立場から引きずり落とされてたかもしれない。いやあ、助かるとはこのことだ」

 「どうせ、大企業に内部から工作して、そういう動きになるよう誘導したとしか思えないけどね」

 「それについては好きに想像したまえ」


 いくらか話したせいか、マクシミリアンは飲み物で喉を潤すと、やや小声で話を続ける。


 「……君は余裕な態度でいる。つまり仲間が救出しに来てくれることを疑っていない」

 「それなりの付き合いがある。こうして信じることができるくらいには」

 「なら、君の仲間を捕まえてしまえば、君は我々の一員になるしかないわけだ」

 「やれるもんならやってみな。あいつらはね、あたしでも鬱陶しく思える程度には厄介な奴らだよ」


 まともではない人工知能のファーナは、普通の人工知能にかけられているようなセーフティがなく、犯罪行為であっても問題なく行うことができてしまう。

 さらには無人の船を率いて艦隊戦を行うことできるため、万能ともいえる活躍を期待できる。

 徹底的な遺伝子調整を施されたルニウは、本人の性格は少々あれだが、若くしてあらゆることを平均以上にこなせる能力の高さは認めるしかない。

 成人している人間という部分は、法関係を潜り抜ける際に役立つ。人間だからこそできることは、世の中には多く残されているために。

 あとはかなり特殊な生まれのセフィだが、彼女は自分の血を摂取させた人間を操ることができるという、特異過ぎる能力を持っている。

 その効果を身を持って味わったことがあるメリアからすれば、ある意味一番警戒すべき存在と言える。


 「おや、そのようなことを言っていいのかな? 仲間に手を出せば君が意固地になると思ったからこそ、これまで監視だけで済ませているのだが」

 「手を出せば火傷する。それでもいいならやればいい。結果として、敵対する者へ割く労力が増すことになるだろうさ」

 「ははは、なかなかの脅しだが、今の私は共和国のトップであるため共和国軍を動かせる。さらに、リユニファイ・アライアンスをも動かせるわけだから、君の仲間はかなり不利だろう」

 「ふん、そうやって笑ってればいい」


 メリアはそう言うと、マクシミリアンを完全に無視して毛布を頭まで被った。

 これでは話を続けることが無理そうだと感じたのか、通信はすぐに終わり、壁に設置されたモニターは真っ暗になる。


 「……ああは言ったが」


 さっきは大見得を切ったメリアだったが、相手の強大さは理解している。

 リユニファイ・アライアンスという秘密結社を従えており、今は共和国のいくらかを動かせる人物。

 そんな者を相手に、ファーナたちがどれくらいやれるのか。

 毛布の下で険しい表情を浮かべた。

 帝国に戻って支援を求める?

 しかしそれでは動きに気づかれる。

 なら軌道上に留まったまま、なんらかの工作を?

 その場合マクシミリアンからの妨害が厄介だろう。


 「……大丈夫であることを願いたいね」


 囚われの身ではどうすることもできない。

 メリアは不安を押し殺すように、強く目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ